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私は一人の男の子に声をかけた。その子が飼っている「小さな小さな蛇さん」を貸してもらうことにした。
「何に使うの?」
「うーんちょっとね」
私ははぐらかした。玄武の国の兵が市街地まで入ってきたら、武哉先輩に「降伏します」と通信するためとは言えない。
そうなったら、ただ「降伏します」だけではなく、土下座して「降伏します。だけど、我が国の民は何卒大事にしてやってください」と言わなくては。
うー、でも、一様に目が虚ろな玄武の国の兵を見ていると我が国の民にはそうなってほしくない。だけど……命には代えられないか。
そこで小さな小さな龍さんから情報が。市街地への入り口が一カ所突破されそうとの話が。我が国の非戦闘員を戦いに巻き込みたくない。残念だけど、これは…… 私は小さな小さな蛇さんが入った水槽に近づいた。
「すみません。武哉先輩。龍子です」
「あら、龍子ちゃん。何の御用かしら?」
武哉先輩はすぐ応答した。くっ、余裕たっぷりだな。今回の四神大戦最終戦も計画通りに「勝利」したというところか。
「今回の戦なんですけど……ドドドドドガラガラガラガラ」
「なーに龍子ちゃん。よく聞こえなかったんだけど?」
◇◇◇
この音は馬車の音だ。私には分かる。これは我が国の馬車の音だ。国境線付近にいた最精鋭部隊が王都に到着したのだ。
そうなると話は別だ。まだまだ降伏しないぞ。すぐに武哉先輩に通信をし直す。
「あ、すみませんドドドガラガラ、どうも周囲がドドドガラガラ、騒がしくなってきちゃったんでドドドガラガラ、また後で通信します」
そして、小さな小さな龍さんを通じて、戦況を見る。思ったとおりだ。馬車から槍を持った戦闘員が次々降りている。元白虎の国のモンゴル騎兵だった者たちは馬車を引っ張る馬に乗ったままだ。
「!」
閃くものがあった。私は想像力・創造力・表現力を駆使し、文章を口に出した。
「元白虎の国のモンゴル騎兵だった者たちは、馬車を牽いてきた馬を馬車から切り離し、槍を一本持ち、馬にまたがった。そして、お互いに頷き合うと後方から玄武の国の兵に向かい突撃を開始した」
よしっ、バチッという音で文章を止められない。行けるっ! 更にこれでどうだ?
「元白虎の国のモンゴル騎兵だった者たちは、朱雀の国との戦、青龍の国との戦ではその真価を十分に発揮出来ずに終わった。しかし、ここに彼らは投降先の青龍の国において活躍の場を得たのだ」
よしっ、これも通ったっ!
「モンゴル騎兵たちは槍を片手に玄武の国の兵の間を縦横無尽に駆け回り、倒していく。青龍の国の王都への包囲網は崩壊した」
バチッこないっ! 王都は救われたっ! ようしっ! それならこれでどうだ?
「モンゴル騎兵たちが暴れ回った後、槍を持った三人一組の青龍の国の戦闘員が残った玄武の国の兵を掃討して回る。この時、最後まで抵抗する玄武の国の兵はやむなく倒すが、負傷して抵抗する力をなくした者は縛り上げて捕縛していった」
これも通った。最後の捕縛は賭けだ。私の思惑がはまれば、これが最終勝利に繋がるんだけど。
◇◇◇
小さな小さな龍さんから新情報提供あり!
玄武の国の兵たちが二つの国境線を越えて侵入。
私はすぐに文章を綴る。
「もともと国境線を守るために配置されていた部隊はただちに国境線付近に戻り、侵入してきた 玄武の国の兵に対応。王都周辺は最初からそこにいた部隊で掃討を行う。抵抗する者はやむを得ず倒す。そうでない者は縛り上げて収容所に入れていく」
「収容所に入れた捕虜はどうする? もう結構な数入っているぞ」
腕組みをした青龍が微笑を浮かべながら聞いてくる。
しかし、それはよくぞ聞いてくれたという質問だよ。
「捕虜については消化のよい粥を食べさせ、負傷はすべからく治療を施す」
「ほう、人道的だな」
「人道の問題もあるけどね。ある意味賭けでもある。だけどこの賭けは結構勝算あると思うんだ」
その時、私の近くの小さな小さな龍さんが通信を入れた。
「龍子ちゃん。やってくれたわね。これは私も驚いたわ」
武哉先輩からの通信だ。やったっ! 今回は私の想像力・創造力・表現力が武哉先輩のそれを凌駕したらしい。
私は玄武との二つの国境線付近に配置していた部隊を大急ぎで王都まで戻らせた。武哉先輩はガラ空きになった国境線から多数の部隊を侵入させ、予め気球を使って王都付近に降下させた部隊とで挟み撃ちにする計画だったらしい。
ところがこっちもそれは読んでいました。その対策が国境線付近にいた一部の部隊の「残務処理」だったのだ。
もともと国境線付近の塹壕等の施設には万一のために自爆装置をつけていたのだけど、そこに更に大量の火薬を盛ったのだ。
どうなったか? 私も小さな小さな龍さんからの映像で確認しました。何しろ元が塹壕だったところです。凄まじい荒れ地になりました。
玄武の国の兵は、かつての白虎の国のような騎兵ではなく歩兵だから荒れ地でも通れなくはない。
だけど斜面を登っては降り、登っては降りを何回となく繰り返すのだから、進軍速度は凄いゆっくりになる。手間取っているうちにこっちの王都付近で勝利した部隊が戻ってきて、進軍で難渋している玄武の国の兵を銃で攻撃(←今ここ)。