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私はもともと猛者先輩三人衆とは学年が違うから、当然クラスは別だ。
そして、猛者先輩三人衆も全員文系クラスにもかかわらずそれぞれ別のクラス。先生も考えてのことなのかもしれない。
かくしてそれぞれのクラスで三人三様にキッチリと理論武装を固め、放課後の課外活動に臨んでくるのである。もちろん理論的に私などの及ぶところではない。
「何だかんだ言ってさ、出るんだろう? 文芸部にさ」
背後で青龍はニヤニヤ笑っている。まあこいつには隠せないか。
「まあね」
私は頷いた。実際、三人の先輩方はストーリーテーリング、読み手への伝え方、分かりやすい文章の書き方などにはもの凄く厳しい。
だけど相手の人格、体型、家庭の事情などと言った直接創作に関係ないことには絶対言及しない。もう一つ言うと理由もなく「自分はこの作品が嫌いだ」と言うこともしない。必ず根拠を上げてくる。
だから私は文芸部を辞めないし、活動を休むこともしない。レベルが高いからついていくのが大変で、猛者先輩三人衆のキャラの濃さにいつも圧倒されるが、それでも創作者の端くれとして得られるものは凄く大きい。
「それだけじゃあないだろ?」
◇◇◇
青龍はなおもニヤニヤ笑っている。
「龍子。おまえ、腹の底ではあの三人より自分の方が創作の才能があると思っているだろ?」
「!」
いっ、いや、そんなことはない……はず。
「そういう気持ちがないはずがないんだよ。そうでなければな、俺たち四神が見えるようにはならないし、俺たちも番には選ばねえ」
「……」
「まあいい。もうすぐ分かることだ。もうその時は来ているしな」
「どういうこと?」
「おっと先生とやらが来たぜ。俺はもう静かにしているぞ」
「あ……」
私にはまだ聞きたいことがあったのだが、青龍はそれから何も言わなくなった。
もちろんその後は授業は上の空。何も耳に入らない。おまけに猛者先輩三人衆とは離れたというのに「ゴゴゴゴゴゴ」という幻聴だけはしっかり残っている。どうなってんのよ、もう。
◇◇◇
そしてやってきた放課後。例の「ゴゴゴゴゴゴ」という幻聴はやまないどころか、文芸部室に近づくにつれて大きくなっているような気がする。
いやそれだけじゃない。何か私には空間の一部が歪んで見える。熱があるのか? 私? いや意識がはっきりしている。気分も高揚している。これは一体何なのだ?
私は後ろに浮かんでいる青龍を振り返る。
ボーッとしていた顔の青龍は私と目が合うとニヤリとした。
「ジタバタしても仕方ねえ。もうすぐ始まる。そして、それは龍子にとって、嫌なことでもないはずだ」
どういうことだ? 私には分からない。だけど、不思議と文芸部室に向かう私の足は止まらない。
文芸部室の引き戸をノックし、ゆっくりと開ける。
猛者先輩三人衆は既に着席されている。文芸部内でもっとも年下の私の定席は入り口に近いところ。相向かいに座っているのは白幡虎威先輩。背後には番の神白虎。左手には朱野雀美先輩。背後にはやはり番の神朱雀。そして、右手には玄田武哉先輩。背後には番の神玄武。
「ゴゴゴゴゴゴ」の幻聴は最高潮に達している。視界の端の空間が歪んで見える。
そんな中、私は猛者先輩三人衆に頭を下げる。
「遅くなって申し訳ないです」
目つきが鋭いままの朱野先輩が答える。
「いいって。今回はあたしらがちょっと張り切って早すぎたんだよ」
白幡先輩は笑顔を見せた。
「例によって武哉が張り切って、私たち四人分の原稿と『エレクトリックボード大賞』の最終選考結果と総評の資料を印刷してくれたからね。今回もいい議論が出来そうね」
笑顔ではある。だがこういう場ではいつもだが、白幡先輩の目は笑っていない。今まではこの状況にビビっていた私だが今回は不思議とそう言う気持ちにはならなかった。
それでも私は礼儀として玄田先輩に頭を下げる。
「すみません。玄田先輩。いつも資料を作ってもらっちゃって」
「いいのよ」
玄田先輩も笑顔を見せる。迫力のある笑顔を。
「私が好きでやっているんだから。今回もいい議論にしましょうね」
「ゴゴゴゴゴゴ」
幻聴は止まない。空間は歪む。