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最後だ。武哉先輩が徹底的にこちらが送り込んでいる小さな小さな龍さんを潰して回っているが、こっちも対抗して玄武の国が送り込んでくる小さな小さな蛇さんを潰して回っている。
民には「害虫」なのでと広報した。特に前線の塹壕、ドワーフの鍛治が武器を作っている鉱山、戦闘員の訓練所などは徹底的に潰させた。
しかし、一般国民、特に子どもたちについては徹底できなかった。男の子などは小さな小さな蛇さんを捕まえ、水槽や虫籠で飼う子などが出てきた。
小さな小さな龍さんもそうなんだけど、通常栄養分などは本体である玄武から供給されるので、何も食べなくても平気だし、糞もしない。
つまりは「飼いやすい」。かくて可愛がって「飼う」家庭が現われた。まあ、そういうご家庭に置いておいて、小さな小さな蛇さんが集められる情報は「平和な家庭」の会話くらいだから、私は自由にさせておくことにした。
こういうところが武哉先輩に比べると「甘い」のかもしれない。しかし、それでも私はそうしたい。
ともかくもやれることはやった。と言うより私の想像力で思いついたことは全て創造し、表現して対処した。後はもう私の想像力が武哉先輩に極度に及ばないことを祈るしかない。
◇◇◇
だが、私は思い知らされた。武哉先輩の想像力・創造力・表現力は、私の想像力が及ばないことをやってのけてくれた。
「王都の上空にたくさんの風船を付けた空飛ぶ籠が出現。視認すると玄武の国の者が乗っている。しかも少しずつ降下してきている。
「!」
私は大慌てで小さな小さな龍さんに映像を出してもらう。
やられた! 気球だっ! さすがの武哉先輩も飛行機まではこの技術レベルでは創れなかったかもしれないけど、気球の歴史は飛行機のそれより古い。
その分、どこへ飛んでいくか分からないところがあるけど風向きとか計算したのか。
いや感心している場合じゃない。我が国の最精鋭は二本の国境線沿いに配置している。王都の周りにいるのは二線級の部隊だ。それでも頑張ってもらうしかない。
「王都は守る部隊は銃を持ち、そして、大砲を撃つ。狙うのは人が乗る籠ではなく、上部にある大きな風船だ」
と創造し、表現して、バチッという音はしなかったのだけど、成果は出ない。大砲はともかく、銃は上空に向かって撃つ訓練がされていないのだ。撃つ訓練はもっぱら前方に現れるという想定される敵だけだった。だからとにかく当たらない。
大砲はさすがに中空に撃つ訓練がされているから、銃よりは当たる。当たるけど銃よりはるかに数は少ないし、一発撃つのに時間がかかる。なので墜とせる数はかなり限られる。
それでもそれでも皮肉な話だけど、玄武の国の気球が降下してくるほど、こちらの銃は当たりやすくなるはず。何とか何とか頑張ってっ!
そして、二つの国境線に張ってある我が国の最精鋭部隊だ。どのくらいの数、王都に呼び戻そう。武哉先輩のことだ。全てを引き上げさせたら、待っていましたとばかり、別働隊に国境線を突破させるだろう。
どうするどうする。考えろ龍子。想像力の翼を最大限広げろ。武哉先輩はどう出る? そして、自分は手持ちの戦力をどう使えばいい? どうすればこの国を守り切れる?
この時も青龍は腕組みをして、にやにやしながら私の方を見ていたそうだが、その時はまるで気づかなかった。それだけ集中していたのかもしれない。
◇◇◇
ついに私は決断した。
「二つの国境線沿いに配置してある最精鋭部隊は一部を残して、大至急王都に戻り、気球で降下してくる玄武の国の兵に対応する。残された一部の者も残務処理を速やかに終え、王都に駆けつける」
これは賭けだ。さあ、どう出ますか? 武哉先輩。
最前線の部隊は、馬車フル稼働で王都に向かう。投降した元白虎の国のモンゴル騎兵たちが大活躍だ。
残った一部の者も速やかに「残務処理」を終わらせ、王都に向かう。この「残務処理」が今回の勝敗のカギになるはずだ。
で、打つべき手は打ったが、目の前には厳しい現実がある。山のようにやってきた玄武の国の気球のうち、着陸する前に撃ち墜とせたのはいくらもなかった。更に言うと撃ち墜とした気球の乗員も死なず、負傷で済んだ者は片腕いや両腕がない状態でもこちらに向かってくる。例によって虚ろな目で。
これは子どもたちにはトラウマになる。見せたくない。いや向かってくる玄武の国の兵と相対する我が国の戦闘員だってそうだ。理屈で相手の足を撃てば止まると分かっていても、足を撃たれた相手は倒れても這って向かってくるのだ。そして、相手は「虫」ではない。「人」なのだ。
それでも我が国の戦闘員は頑張った。中には恐怖とプレッシャーからか嘔吐する戦闘員もいるけど、一通り休むとまた銃を取って前線に出ていく。
また女性の戦闘員も少なくない。国の危機に黙っていられないとのこと。ううっ、みんなありがとう。青龍の番である私がもうちょっとしっかりしていればこんな苦労はかけなかったのに。
既に玄武の国の兵は我が国の王都を取り囲み、我が国の戦闘員はそれに相対し、何とか市街地に入りこまれないよう頑張っているけど、疲れてきているようだ。