37
「それで結局、最後まで残った二人は龍子と玄田武哉だったって訳か?」
まるで他人事のように言ってくれる青龍。私は大きな溜息を吐いた。
「まあね。はああああ」
「何、溜息吐いているんだ。四神高校文芸部の猛者朱野雀美と白幡虎威を打ち破っての決勝進出だろうが」
「まあ」
私の気持ちは重たい。
「他校の文芸部から『鬼の住処』とまで言われた四神高校文芸部の強力メンバーにあって、言わば決勝まで残れたのは、私にしちゃあ上出来です。しかしっ!」
「しかし?」
「最後の対戦相手が武哉先輩と言うのがねえ。本当にあの方のお考えは読めないのですよ。もう怖いのなんのって」
「まあな」
珍しく青龍が私の言葉に頷く。
「青龍から見ても玄武のじじいが一番やりにくい。朱雀の野郎や白虎の親父は自分の得意技を『どうだ。俺は強いだろう』とアピールするから分かりやすいんだが。玄武のじじいは『ほっほっほ』と笑っているだけだから手の内が分からないんだわ」
「そういう神様なのね。武哉先輩を番に選ぶ訳だわ。はああ、気が重い」
「まあ今回も全力を尽くして、考えて考えて対策するしかねえな」
「対策と言っても今回は相手が何をしてくるかよく分からないのよね」
「まあなあ」
雀美先輩や白幡先輩との対戦の時は随分励ましてくれた青龍も今回は歯切れがよくない。
「あんまり希望は持てないが、また情報収集できるか試してみるか」
「あ、龍体に変化するの? 外に出る?」
「ああ」
「じゃあ私も出るよ」
青龍は外に出ると龍体に変化する。そして、髭を次々抜いていく。抜かれた髭は小さな小さな龍さんに変わり、飛んでいく。
この調子で小さな小さな龍さんをたくさん玄武の国と玄武の国に占領された白虎の国に送り込んだ。
だけどみんなすぐに潰され、情報は全くと言っていいほど入ってこない。小さな小さな龍さんをそれこそカマキリくらいにしか思ってなかった朱雀や白虎とは大違いだ。
小さな小さな龍さんは潰されても死ぬわけじゃない。もともと青龍の髭だから、それに戻るだけだ。
しかしまあ、青龍が小さな小さな龍さんを作っても作っても、それと同じ数の髭が青龍に生えてくる。つまりこれは小さな小さな龍さんがその分潰されているということだ。当然、情報は入ってこない。
「だめだな。ちょっと一息入れるか。おっ?」
青龍は自分のそばを飛んでいた小さな小さな蛇さんを捕まえた。これは玄武の分身。相手方も同じ方法で情報収集を図っているわけだ。
つまみ上げた小さな小さな蛇さんを青龍はいつものように口に入れようとしたが、その前に小さな小さな蛇さんから声がした。
「おっと青龍さん。食べちゃう前にちょっと話をさせてくれないかな?」
わおっ、武哉先輩の声だし。
どうする? と言わんばかりの表情で、小さな小さな蛇さんを摘まんだまま、私の顔を見る青龍。
正直、いい予感はしないけど、ここは聞かないわけにはいきますまい。
「ありがとう。龍子ちゃん。実はねえ、青龍さんと龍子ちゃんが玄武の国を訪ねてきたとき、玄武様はそのまま捕まえて天上送りにしちゃえと言ったの」
「何とそうでしたか」(知っていたけどね)。
「でもねえ。武哉先輩は、対戦相手の三人のうち、一番龍子ちゃんが面白そうなことをしそうだから止めたの。龍子ちゃんは見事その期待に応えてくれた。ありがとう」
「いえいえ」(武哉先輩の方が私より凄いことしていると思いますが)
「でもね。こっから先は真剣勝負させてもらうね。武哉先輩も玄武様も四神大戦を勝ちたいから。あ、そうそう。武哉先輩は雀美ちゃんや虎威ちゃんのように戦わずして傘下になれなんて言わないよ。そんなん、つまんないじゃないねえ。さあてと、じゃあね」
通信切れた。本当に言いたいことだけ言って通信切りましたね。これをいかにーもおっとりとしたやさしーい声で言うから武哉先輩、怖い。
通信が切れると青龍は小さな小さな蛇さんを口の中に放り込んだ。そして言った。
「うーんすげえな。玄田武哉。朱野雀美も白幡虎威もしきりに龍子に傘下に入るように勧めてきた。それは後から見れば不安感に基づくものだった。ところが玄田武哉は『そんなのはつまらない』と言ってきた。凄い自信だ」
「そうだよねえ」
「まあとにかく今、分かっていることを整理して、出来るだけのことをやってみようや」
「うっ、うん」