36(第五章完結)
第五章はこれで完結です。
第六章は6月30日朝8時10分から再開します。
あと少しだけお時間ください。
だけどまだ油断はならない。玄武の国の工兵たちも大砲を一門だけとはいえ持っているんだ。砲撃してこっちの馬防柵を破壊して、そこから突撃、突破を狙ってくる可能性もある。でも、こっちの大砲は三門だ。そう簡単にはやられないよ。
そこにまた小さな小さな龍さんから私あてに驚愕の情報が入ってきた。
「大砲を担当していた玄武の国の工兵たちが大砲を持ったまま後退中。白虎の国のモンゴル騎兵たちは猛烈に抗議しているが聞き流している」
え?
「ついに白虎の国のモンゴル騎兵たちが実力行使をもって、玄武の国の工兵たちが大砲を奪い取ろうとした。すると、工兵たちはモンゴル騎兵たちの乗馬に手を触れた。次の瞬間、馬たちは狂ったように暴れ出し、乗馬の達人たちであるはずのモンゴル騎兵たちは次々落馬した。工兵たちはその後振り返りもせず、大砲を牽いて後退を再開した」
え? え?
「更に白虎の国本国においても在留の玄武の国の工兵たちが手を触れることによって馬が次々と狂乱化。その被害は騎兵の乗馬ばかりでなく、社会インフラを担う馬車の馬にまで及んでいる」
え? え? え?
「白虎の国本国は大混乱に陥り、在留の玄武の国の者はこの機に乗じて、白虎の国の重要拠点を次々不法占拠している。白虎の国のモンゴル騎兵たちは奪還を試みているが、慣れない下馬戦闘に加え、玄武の国の者たちが全く自軍の損害を顧みないため、うまくいっていない」
もはや私は何も言えなくなっていた。武哉先輩は絶対「はいそうですか」と白幡先輩の言いなりにはならないというのは分かっていたけど、ここまでやるとは。うーん。何と言うか、武哉先輩だなあとしか言いようが……
「青滝さん」
私のそばの小さな小さな龍さんが話し出した。白幡先輩の声だ。
「はい」
「見ての通りの有様よ。見事に武哉にしてやられたわ」
「はあ」
何と言っていいのだがさっぱり分からない私。
「やっぱり武哉はうまいわ。初めは玄武の国は貧しいから食糧や毛皮を輸出してほしい。代わりに機械をメンテナンス要員ごと輸出するからと言われて、双方が豊かになるならと受けていたのよ。そして、気がつけばうちの国のインフラ管理は殆ど玄武の国の者がやることになっていたの」
「なるほど」
「これじゃまずいと思ってね。でも、うちの国のインフラ管理を返せと言うとそれこそ武哉は何しでかすか分からないじゃない」
「まあそうでしょうね」
「だから青龍の国を接収しようと白虎と相談して決めたの。青滝さんの創り上げた国なら人的資源が豊富で、玄武の国の者を追い出してもインフラが回ると思ってね」
「そういう理由でうちの国に宣戦布告したんですかあ?」
「ごめんね。でも白幡先輩もそれだけ武哉に追い詰められていたのよ。ところで今更だけど青龍の国と講和。いえ、もう降伏でもいいんだけど、そっちの状況はどう?」
「もう玄武の国の工兵は見当たりませんね。みんな引き上げたんでしょうか。モンゴル騎兵たちはこちらに突撃してくるわけでもなく呆然と立ちすくんでいるようです」
「そう。分かった。モンゴル騎兵はすぐ青龍の国に降伏するようにさせる。他はもう馬をみんな狂乱化させられちゃっているけど、出来るだけ青龍の国に避難させたい。受け入れてほしいの」
「戦うつもりのない人は全て受け入れます」
「ありがとう。後、これはアドバイスだけど、最後は武哉と青滝さんの決戦になる。白滝先輩の創り上げた白虎の国は武哉に取られちゃうだろうけど、雀美が創ったかつての朱雀の国は出来るかぎり押さえた方がいい。後の国力が違ってくるからね。ただ、玄武の国の工兵が置き土産に罠を仕掛けている可能性もあるから気をつけて」
「ありがとうございます。その辺は青龍の国には優れた建設技術者がたくさんいるから大丈夫かと思いますが」
「ふふふ。素敵な自慢ね。じゃあもう白幡先輩たちも雀美の待っている天上に行くわ。もうね王宮も玄武の国の者に全面占拠されちゃっているの。白虎の国の者にはみんな青龍の国に逃げるよう言ってあるし。どのくらい逃げられるかは分からないけど。じゃあまたね」
白幡先輩の通信はそれで切れた。だけど、入れ替わるように別の通信が入った。
「うふふふ。龍子ちゃん、おめでとう。雀美ちゃんに加えて、虎威ちゃんも撃破。凄いわね」
わあっ、武哉先輩だ。やっぱし怖い。それに雀美先輩はともかく。白幡先輩を撃破したのは実質武哉先輩ですよね。
「うふふ。何を言っているのかしら? 龍子ちゃん、怖いわあ。最後は一対一の対決になったけど、お手柔らかにね」
それはこっちのセリフですよお。ああ、やっぱり一番怖い。