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こちらもかぶせていた布をはがし、秘密兵器を出す。大砲だ。こっちも持っていたのだ。ふふふ。種族の壁を越えて、みんなが仲良くする国が創りたくて、エルフやドワーフを国の民にしたけれど、これが結果的に大当たり。
エルフは木材の生産と加工に大活躍だし、ドワーフは鉱山での採掘と金属加工に能力を発揮。その成果がこの大砲だ。しかもこっちは三門あるぞ。
よーし撃て。轟音と共に砲弾が放たれ、架橋作業をしている玄武の国の工兵たちのところに着弾する。
更に第二射、第三射といけーっ!
次々に着弾。用意された架橋のための材料が砕け、工兵たちが吹き飛ぶ。
効果は確認された。砲弾はまだ豊富にある。ドワーフたちが精魂込めて鋳造した砲身は丈夫でまだまだ撃てそうだ。
しかし、第四射以降は撃たれることはなかった。その理由は…… 私は衝撃の光景を目の当たりにした。
◇◇◇
砲弾は橋のための材料を砕き、工兵は何人もの死傷者を出した。だが、工兵たちは何事もなかったように作業を続けているのだ。
砕けた材料のうち補修が効くと判断したものは補修、補修が効かないと判断したものは惜しげもなく大河に廃棄する。それだけならまだいい。
死傷した仲間も同じ扱いにしているのだ。それもいいとは言い難いが、百歩譲って死んでしまった仲間を大河に投棄するのはまだましで、まだ生きているのではないかと思われる仲間も投棄している。
まるでもはや架橋作業の役に立たなくなったものは投棄とすり込まれているかのようだ。それを玄武の国の民の特徴である生気のない目で行うのだ。
死傷者が出てもそれは投棄し、続々と生気のない目をした工兵が後から後から橋の材料を持って現れ、黙々と作業に従事する。
仲間が死んだ哀しみも、砲撃が止んだ喜びもそこには感じられない。
私は思った。
「怖い」
◇◇◇
その感情は前線にいる我が国の戦闘員たちも同じだったのだろう。もともと我が国の民は笑顔あふれる優しい人たちだ。
あまりの凄惨な光景に心が凍ってしまったのだ。
いけない。このままではいけない。何とかしなくては。えーと。
「その光景は青龍の国の戦闘員には衝撃的なものではあった。しかし、かの国の戦闘員にはその国の『緑と笑顔』を守る使命感がしみついていた。彼らは勇気を奮い立たせ、砲撃を再開……バチッ
撥ね返された。私の綴る文章が撥ね返された。私の想像力・創造力・表現力が武哉先輩のそれに及ばなかったというのか?
私と我が国の戦闘員が衝撃を受けている間にも、玄武の国の工兵の架橋作業は粛々と進み、ついには突貫の架橋工事が完成した。
後方から聞こえてくる馬蹄の音。早々に白虎のモンゴル騎兵たちが橋を渡り、我が国に侵入してくる。
くそっ、私にはもうなす術はないのか? こんなに豊かでおおらかで笑顔の国を創り上げたというのに。くやしい。白幡先輩と武哉先輩に手を組まれたら、私の想像力・創造力・表現力じゃ敵わないってことなのか?
「そんなことはないんじゃないか?」
な、青龍、もうこうなってから気休め言われても。
「おおらかということは、多様性を受け入れる度量があるってことだ。多様性があるということはいろいろな考え方の者がいるということだ。中にはこの事態を打開できる考え方の持ち主もいるんじゃないのか?」
「あ」
次の瞬間、私は声を出していた。
◇◇◇
もちろんこのことが100%うまく行くかなんて分かりゃしない。でも、その時の私にはそうするしかなかった。
「かつて朱雀の国で拳士をしていた戦闘員は叫んだ。『俺たちは一度この青龍の国に敵対した。だけど笑顔で受け入れてもらった。この国には恩がある。そして、今、この国は危機に瀕している。今こそ俺たちが率先して武器を取るときだ。それが恩返しだっ!』。同じ立場の全ての者がその言葉に応じた。『おうっ!』」
「その者たちは白虎の国のモンゴル騎兵が馬防柵に向けて突撃してくる中、予めかの国のドワーフたちが大量に鍛造していた銃を手に取り、一斉射撃を浴びせた。何度も何度も一斉射撃を続ける。銃身が熱くなり、射撃に耐えられなくなった銃は後方に下げられ、水で冷やされる。しかし、銃は豊富にあるため、新しい銃での射撃を続けた」
よしっ、行けるっ! バチッで止められないぞ。ならこれはどうだっ?
「元朱雀の国の拳士たちの奮闘を見て、旧来からの青龍の国の戦闘員たちの心も奮い立った。『何やってんだよ。俺たちは。後から来た人たちにただ助けられているだけか?』『そんなわけにいくかっ! 後から来た人たちがこの国の笑顔を守るために頑張ってくれているんだぞっ! 俺らがやらずにどうするよっ!』『おうっ!』その者たちも銃を取り、一斉射撃に加わる」
うん。私の綴る言葉は止められない。そして次は……
「三門の大砲の砲撃も再開された。激しい砲撃と射撃に白虎の国のモンゴル騎兵の突撃は完全に止まった」
やったっ! 私の言葉が止められない。私の想像力・創造力・表現力が白幡先輩のそれを凌駕したんだっ!