34
ドドーン ガラガラガラ
相変わらず大砲を撃っての馬防柵の破壊作業は続いているようだ。
小さな小さな龍さんたちからの報告で、大砲を撃っているのは白虎の国の兵ではなく、玄武の国の工兵が撃っている。
そして、砲撃の合間を縫って、渓谷に架橋する作業の準備を進めているのは、これまた玄武の国の工兵。
ではその間、白虎の国の兵であるモンゴル騎兵たちは何をやっているかと言うと、馬上にあってそれらの作業を監督しているのだ。
これだけ見ていると、白幡先輩の創り上げた白虎の国が、武哉先輩の玄武の国を既に従えたように見えなくもない。
しかし、私は知っていると言うか体感している。白幡先輩もそうだが、武哉先輩は絶対におとなしく従ったりはしないはず。
では何で? と考えても分からない。とにかく今は白虎の国のモンゴル騎兵と玄武の国の大砲を国境線で防ぐために出来るだけの準備をする。
それに加えて、うちの国と玄武の国との国境線は厳重に警備させる。正直、武哉先輩は結構な確率で、白虎の国がうちの国に侵攻するのに加担するだけと見せかけて、実は自分自らうちの国に奇襲をかけてくると踏んでいる。
そうこうしているうちに玄武の国の大砲が、うちの国の設置した最後の馬防柵を破壊したようだ。玄武の国の工兵たちはせわしなく動き、渓谷への架橋作業は急ピッチで進んでいく。
「ふいー」
私は一息吐く。やはり緊張感は続くから、息の一つも吐きたくなる。
「番様。大丈夫―?」
あ、やば。今の子どもたちに聞かれていたか。心配かけたくないのに。
「あー、大丈夫だよー」
「えー? 何かでも疲れてそう」
「あのね。あと、お父さんが国境線の方に行っちゃって、しばらく戻ってこないの。お母さんは神様と番様に任せておけば大丈夫って言っていたけど、本当に大丈夫なの?」
うーきついなあ。仮にも四神大(戦)だから、どうしたってこういうことは起きてしまう。絶対に大丈夫かと問われれば、私だって自信はない。だけどここは笑顔で……
「うん。お母さんの言うとおり大丈夫だよ」
「ほんっとのほんとに大丈夫?」
「うん。ほんっとのほんとに大丈夫だよ」
ひょいっ
あ、私が話していた女の子を青龍が抱き上げた。
「おうっ、すまねえな。みんなよく見てくれているようだな。確かに青龍の番はくたびれているようだな。なので、今日は青龍がみんなと遊んでやるっ!」
「「「「「えーっ、神様がーっ?」」」」」
一斉に声を揃える子どもたち。
「何そのリアクション? 青龍ちょっと傷つくんだけど」
「神様、何して遊ぶの?」
「いつかみたいな『親父ギャグごっこ』は、やだよ」
「むうっ、失礼な子どもたちめ。そういうこと言うとこうしちゃうぞ」
いきなり抱き上げた女の子のわきの下をくすぐりだす青龍。
「きゃははは。やめてやめて」
「おらあ、次に青龍にくすぐられたいの誰だー?」
「「「「「わーい、逃げろー」」」」」
「おらおら待てーっ、捕まえてくすぐっちゃうぞっ!」
「ふふ」
私から自然に笑みがこぼれた。本当に青龍のこういうところには敵わないと思う。でも、だからと言って、ほだされない……ほだされないかなあ。子どもたちに優しいところとかも魅力的だし。
おっと今はそれどころじゃなかった。小さな小さな龍さんたちからの報告だと渓谷への架橋はあっという間に終わったようだ。むうっ、さすがに武哉先輩の創り上げた玄武の国の工兵は優秀だ。しかし……
架橋できて渓谷の反対側に渡れるようになってもモンゴル騎兵たちはすぐにその真価を発揮できない。馬防柵は大砲で全て破壊されたが、残骸は残る。道は荒れ放題。ここの整地はやはり玄武の国の工兵のお仕事だ。
その間、こちらは防備を更に固める。そして、玄武の国の工兵は優秀。整地も速やかに終わらせ、白虎の国のモンゴル騎兵も玄武の国の大砲も、かつての朱雀の国の東半分に渡り、うちの国とのかつての国境線の大河に迫る。さて、これからだ。準備は出来るだけやった。白幡先輩と武哉先輩の二人を向こうに回しての大勝負! 文芸部時代には恐ろしくて、とてもこんなことは出来なかったなあ。
◇◇◇
ゴオオオオオ
国境の大河にかかっていた五本の橋が燃えている。火を付けたのはもちろんこっちの方だ。
さすがの玄武の国の工兵も呆然と橋が燃えるところを見ている。ふふふ。十分に油を染みこませておいたからね。よっく燃えているでしょう。
一つ懸念していたのが白幡先輩か武哉先輩のどちらか私のこの策を看破して、想像力・創造力・表現力を使って雨を降らせる文章を綴っていたら厄介だなということだった。しかし、それは杞憂だったようだ。私ガ先に雲一つない乾ききった晴天と綴ったことが有効に働いているようだ。
この状況に相手方はどう出るかなと思っていたら、何と後方に引いた。小さな小さな龍さんたちからの報告を聞くと、後方で今の橋が完全に焼け落ちた時にすぐに架橋できるよう準備を始めたそうだ。さすがは武哉先輩の創り上げた工兵たち。合理的だ。
そして、完全に橋が焼け落ちた時、玄武の国の工兵はぞろぞろと新しい橋の材料を持って大河の向こう岸に姿を現した。
だけどこっちもそう簡単に橋を架けさせるつもりはないよ。この時のために準備してきたんだからね。