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やっと落ち着いたように見えたのだろうか。青龍は笑顔で私に問いかける。
「どうだ。少しは自信が出てきたか?」
「自信はまだ全然ないけどね」
私は少しはにかんだ。
「でもやってみるよ。できる限りのことを」
青龍はまだ笑顔だ。
「おう、やってみろ。武運つたなく敗れたら、その時はその時だ。青龍が白虎の親父に青龍の国の民を大事にしてくれと頭下げるわ」
「うん」
私も笑顔になった。
「その時は私も白幡先輩にこの国の民を大事にしてくれるように頼んでみる。白幡先輩なら聞いてくれると思う」
◇◇◇
その時は来た。
私のそばにいた小さな小さな龍さんが突如話し出した。
「白幡だけど、ごめんね。青滝さん。もうこれ以上待てない。これからあなたが創り上げた青龍の国に侵攻させてもらう」
通信はそのまま切れた。
ドドーン ガラガラガラ
別の小さな小さな龍さんから大きな音がした。
青龍はいつもどおり冷静な顔で来る。
「始まったか?」
ありがたいことに私も冷静だ。
「予想通りだね。やっぱり『大砲』を使ってきた」
「ふふ。龍子の想像力が優れていたんじゃないか。白幡虎威に玄田武哉という知恵袋がついたら、どういう手を打ってくるかという想像が正しかったってことだよな」
「いやいやいや。おだてたって何も出ないよ。と言うか少なくとも武哉先輩は私よりはるかに歴史に詳しいからどんな手を打ってくるか。分かったもんじゃないよ」
「うーん。そうだな」
そう言いながら青龍は空中にいた小さな小さな蛇さんを捕まえると口の中に放り込む。
言うまでもなく小さな小さな蛇さんは玄武の分身だ。今の会話も途中まで聞かれていたな。これは会話する時には気をつけないと。
「もう小蛇はいないみたいだぞ。で、龍子、『大砲』対策はうまくいったんだろう?」
「うん。今のところまではね」
私は頷く。
「白幡先輩の創り上げた白虎の国の兵隊はモンゴル騎兵。でも私が対抗して騎兵を創り上げたって、白幡先輩の想像力・創造力・表現力に勝てっこない。だから、武哉先輩から教わった長篠の合戦で騎馬隊対策で使われた馬防柵を作って対抗しようと考えた」
「でも龍子に馬防柵を教えた玄田武哉は今は白幡虎威の知恵袋だもんな」
「そういうこと。必ず馬防柵対策を考えてくると思った。そうしたら小さな小さな龍さんから布をかぶさせられた大きな物が台車に乗って、白虎の国から昔の朱雀の国の西半分に運び込まれてきたと教えてもらった」
「それを龍子は『大砲』と想像したわけだな?」
「そう。今のところはドンピシャだったけどね」
白幡先輩がこっちに攻めてくるだろうと想像した私は、かつての朱雀の国の東半分に住んでいた人々を先に青龍の国に逃がした。おまけにバチッという音に阻まれない範囲で馬防柵も増やした。
ただ、白幡先輩が「大砲」を使って馬防柵を壊しにかかった以上、設置するためにかつての朱雀の国の東半分に残っている建築関係の人も逃がさないと。えーと。
「予め計画されていたように、かつての朱雀の国の東半分に残り、馬防柵の建築作業に従事していた者たちは、建築途中の馬防柵もそのままに青龍の国に速やかに逃げ出した。もはやかつての朱雀の国の東半分に残っている者は誰もいない」
よしOK。バチッっていう音はしないぞ。通った。いくら創作の世界でも私が創り上げた人たちには死んで欲しくないよ。出来たらケガもしてほしくないんだけど、それは無理みたい。
後は取りあえず白幡先輩の出方を見ると。
「ふふふ」
うわ、何だか青龍笑っているし。そういうことされると私が何かしてかしたんじゃないかと心配になるぞ。
「いや逆だよ。傍で見ていると余裕が出てきたんじゃないか? 龍子」
「傍ではどう見えるかしらないけど、こっちはもう必死だよ」
「おう、そうかそうか。頭ポンポンしてやろうか? それとも頭なでなでがいいか?」
「……」
何でこういう時にこういうセリフが出てくるかね。青龍は?
「間に合っております。今のところは」
「おうっ、必要になったらいつでも呼んでくれ」
絶対、余裕があるのは青龍の方だよな。