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青龍はそんな私にいつもの言葉を言う。
「分からないなら、分かる範囲でできるだけのことをやるしかないな。大丈夫。龍子なら、何故なら青龍の選んだ番だからな」
「結局、それかあ」
そう言いながらも気持ちが落ち着く。自覚している自分がいる。くやしい……ばかりでもなくなってきている。こんな言葉が自然と出た。
「この四神大戦が終わったら、みんなどうなっちゃうのかなあ」
「まあその話は今はよしとこ。まだ半分も終わっちゃいないんだ。」
何かはぐらかされたような気がしなくもないけど、まだ半分も終わってないというのも事実。何としても自分が創り上げた国の民の笑顔は守りたい。今はとにかく全力を尽くさねば。
◇◇◇
「青滝さん、お話できるかしら?」
小さな小さな龍さんから声が聞こえてきた。むう、白幡先輩から通信だ。
断る理由もない。ここは受けなければなるまい。
「はい。大丈夫です。白幡先輩」
「ふふ。ありがとう。そうそう。先に雀美の攻撃を見事に跳ね返したわね。おめでとうと言っておくわ」
「ありがとうございます」
その雀美先輩の創り上げた国の半分は白幡先輩に取られましたが。
「うふふ。それでは本題に入らせてもらうわ。青滝さん、以前に白幡先輩が創り上げた白虎の国の傘下にならない? ってお誘いしたの覚えている?」
覚えていますとも。忘れられるものですか。こっちからしてみれば雀美先輩も相当の脅威でしたが、白幡先輩も相当の脅威ですから。
「で、雀美の国もなくなったことだし、あの話、もう一度考えてみない?」
うわ、その話残っていたんですね。さて、どうすべえ。こっちも白幡先輩の創り上げた白虎の国対策は進めているが、勝てる自信はまるでない。我が国の民は極力哀しい目に遭わせたくない。しかし……
「もうちょっと考えさせていただけませんか?」
「あら」
うっ、白幡先輩の声が少し甲高くなる。これだ。来るぞ。来るぞーっ。地方の公立高校に通う異世界貴族令嬢がーっ!
「先ほども言ったけれど、もう雀美がいなくなってから随分経つし、十分考える時間はあったのでなくて?」
来たーっ! まさに異世界貴族令嬢っ! 物腰柔らかく、言葉遣いが上品で丁寧だけど、ピシリと来て、怖い。
さーてどうするか。角が立たないようにするには?
「やー、確かに雀美先輩はおられなくなりましたが、まだ武哉先輩はご健在ですし、四神高校文芸部唯一の下級生として、どなたかお一人の先輩に肩入れするわけにはいかないので」
「おほほ。お上手ね。青滝さん。だけど……」
おおうっ、来るぞ来るぞ。鋭い舌鋒が。
「これは四神大戦の勝負ですわよね。だからこそ青滝さんも雀美の攻撃を撥ね返したんじゃなくて?」
まあ、それはそうなんですけどね。
「それでもちょっとすぐには決められなくて、武哉先輩もご健在ですし、ちょっと考える時間をください」
「……」
うわっ、沈黙した。
「仕方ないっ! もうちょっとだけ待つけど、そんなに待てないし、限界が来たら、予告なしで攻め込むからねっ! まったく白幡先輩は青滝さんのことを心配して言ってやっているのにっ!」
わーっ、一方的に会話を打ち切られた。怒らせた? やっちゃったかなあ。
「ん~? どうしたー?」
そこにいつもの調子で現れる青龍。
「青龍―。どうしようー。私、白幡先輩を本気で怒らせちゃったかもしれない」
青龍は相変わらず冷静だ、
「ふーん。攻めてきそうなのか?」
「うん。あの怒りようなら明日にでも攻めてくるかもしれない。どうしよう」
すると青龍はすっくと立ち上がると、とことことどこかへ行った。
唖然とする私。
そして、青龍は何やら持って戻ってきた。
「まあこれ飲んで落ち着け」
「何これ?」
「コップに入れた水道の水」
「へ?」
何が起こっているか分からない私に青龍は水の入ったコップを渡す。受け取る私。
「よーし受け取ったな龍子。じゃ水を飲め。ゆっくりとだぞ」
「……」
言われるままに水を飲む私。時間をかけて飲むと、「ふーっ」と息を吐いた。
「飲み終わったか。じゃあゆっくり息を整えろ。龍子。じゃあ聞くが今回怒らせたから白幡虎威が明日にでも攻め込んでくると言うが、別に白幡虎威を怒らせなくても攻め込んで来たんじゃないか? これは四神大戦なんだし」
「!」
言われてみればその通りだ。これが四神大戦である以上、いくら私が白幡先輩のご機嫌を取ったところで攻めてくるときは攻めてくるだろう。
「それに龍子も攻めてこられることは想定して準備していたんだろ?」
「まあそりゃそうだけど、それでも白幡先輩が攻めてきて、撥ね返せるかどうか、自信ないよ」
「自信がないのは白幡虎威も同じじゃないのか? 龍子は既に朱野雀美には勝っているんだぞ。これは脅威だろう」
「!」
「白幡虎威が怒ったと言うが、普段から怒る奴なのか?」
「ううん。舌鋒というか、ツッコミはきついけど、こんなに感情的になったのは初めて見た」
「ふーん。普段感情的になって怒ることのない人間が怒ったというのはそれだけ焦燥感に苛まれているんじゃないか?」
「!」
そうか。そういう見方もあるのか。