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ドカーンドドドドド
今日も派手にやっているようだ。小さな小さな龍さんはその模様を克明に知らせてくれる。
何が起こっているかと言えば、旧朱雀の国の西半分、白幡虎威が創り上げた白虎の国が進駐した側、そこの山が爆破されているのだ。
爆破は道路沿いに行っているから、目的は道路を拡張し、白虎の国自慢のモンゴル騎兵が行き来しやすくするためだろう。崩れた山から出てきた土砂は、前回の戦の最後に朱雀と朱野雀美先輩が作った渓谷にせっせと放り込んでいる。
まあだからと言ってそうそう渓谷は埋まらない。そして、モンゴル騎兵が通りやすくするようにのは分かるのだが、それはあくまで白虎の国の支配下にあるところまでだ。恐らく白幡先輩が次に狙うだろう私の方ではモンゴル騎兵が通りやすくなるほど道を広げるつもりはない。
だけど毎日毎日ドカンドカンよく爆破しているんだ。これが。自分の創り上げた国を豪快に改造されて天上で観戦しているだろう雀美先輩もさぞや落ち着かないと思う。
それにしても何を考えているのかなあ、白幡先輩。
「まあ他人様が何考えているのかは完全には分からんわな。こっちはこっちで順調にいっているんだろう?」
そんな青龍の言葉に私も頷く。
「うん。まあね」
◇◇◇
実際、雀美先輩の創り上げた朱雀の国の東半分を国土に加えた。旧朱雀の国の民、拳士たちは朱雀の国を創り上げた雀美先輩の希望で殆ど全部我が国青龍の国の民となった。
正直、非戦闘員である民はまだしも朱雀と雀美先輩が徹底的に身体と武術を鍛え上げた拳士たちが「緑と笑顔」がスローガンの我が国に馴染むかどうか心配だった。
ところが蓋を開けてみれば、我が国の民がおおらかというのもあって、あっという間に馴染んだ。
拳士たちはストイックに鍛え上げられてきたので、気位が高いのかなとも思っていたが、うちの国と白虎の国の集団戦法に大敗したことからかそのようなこともなかった。
みんながみんな戦闘員になりたがるかと思ったら、全くそういうこともなく農作業や運送業、鉱業に従事した者もたくさんいた。とにかく身体強健なので受け入れ側からも喜ばれた。
もちろん望んで青龍の国の戦闘員になった者もいた。これがまた熱心に我が国の戦術や武器の使い方を覚えようとする。そして、それが彼らにとって新鮮に映るようだ。
かくて私の想像力・創造力・表現力を使っての「緑と笑顔の豊かな国創り」は雀美先輩の残していった財産を継承しても路線変更されることはなかった。
となるとまた堂々巡りなんだけど、どうも手を組んだらしい白幡先輩と武哉先輩が何を考えているのかという話になる。
こちらも全く手を打っていないわけではない。旧朱雀の国に出来た国境、深い渓谷のこちら側には、モンゴル騎兵対策として、三重の「馬防柵」を設置した。
かの有名な長篠の合戦。強力な武田騎馬軍団への対策として織田信長が編みだしたというものだ。問題はこれを私に教えてくれたのもやっぱり武哉先輩だってことだ。教えてくれた師匠の手のひらの上で踊らされているだけじゃないかという懸念はどうしたって残る。
他にもモンゴル騎兵に対抗する兵器の用意は考えてはある。そして、やっていないのは白幡先輩がその想像力・創造力・表現力を駆使して創り上げたモンゴル騎兵に騎兵で対抗することだ。どうしたって勝てる気がしない。
と言っても他の兵器なら勝てるかと言えば、これも自信がないけど。
「そう言えばさあ、元の朱雀の国以外にも小龍飛ばしてんだけど、かなり潰されちゃってるんだよな。それでも分かっていることあんのか?」
「そうなんだよねえ」
そう。小さな小さな龍さんを飛ばしているのは旧朱雀の領地の西半分だけでなく、白幡先輩の創り上げた白虎の国と武哉先輩の創り上げた玄武の国にも飛ばしている。
玄武の国の方は言わずもがなだ。見つかり次第、潰されている。だから、殆ど情報が入ってこないけど、数少ない情報を取りまとめると、変化らしい変化は感じ取れない。ただ、国境の高山を越えて、数多くの玄武の国の民が白虎の国に移動している。
白虎の国はそれに比べると随分鷹揚だ。民は小さな小さな龍さんを見つけても殆ど気にしない。但し、白虎の国に住んでいる玄武の国の民は別だ。
やはり見つけ次第、潰してくる。それでも玄武の国よりは情報が入ってくる。
「随分と玄武の国の民が白虎の国に住み着いているようだね」
「ほう、そうか」
「うん。モンゴル騎兵のための厩舎の建築に管理、馬具や武器の生産も請け負っているみたい。あ、輸送用の馬車のメンテとかもやっているみたい」
「ほう」
青龍の目が光る。
「玄武の国の民が白虎の国のインフラを支えているのか」
「そうだ……」
言いかけて私の頭の中は疑問符でいっぱいになった。白虎の国を創り上げた白幡先輩は、玄武の国を創り上げた武哉先輩のことをかなり警戒していた。この状況についてどう思っているんだろう?
「やっぱ分からないや」