30(第四章完結)
読んでいただきありがとうございます。
第四章はここで完結です。
次回から第五章になります。
「龍子」
そこにまた小さな小さな龍さんを通じ、雀美先輩から通信が。
「雀美先輩。あの随分と拳士たちがモンゴル騎兵に負傷させられて逃げてきているんですけど」
「分かっている。正直、龍子のところの戦闘員に大敗したばかりのうちの拳士たちに、虎威のところのモンゴル騎兵は防ぎきれない。悪いけど龍子には、残ったうちの拳士たちをみんな引き取ってもらいたい。虎威には預けたくないの」
「それはいいですが」
「ありがとう。その代わりと言ってはなんだけど、雀美から龍子に贈り物をさせてもらう。小龍に映像を映させて」
「はあ、青龍、小さな小さな龍さんに映像を映させるって出来るの?」
「出来る。玄武の小さい蛇も勝手に映すだろうしな」
「よしっ! 最後の拳士が青龍の国側に入った。いっくぞー」
雀美先輩、私の言葉も待たずに叫ぶ。小さな小さな龍さんは開いた口から映像を映し出した。
◇◇◇
朱雀はその姿を本来の鳳に変え、雀美先輩を乗せると天高く舞い上がった。
唖然とした表情で見つめる朱雀の国の拳士、民、そして、青龍の国の戦闘員たち。
「いくよー。龍子。雀美から龍子に最後の贈り物だよ」
その言葉と共に朱雀の全身から火の玉が飛び出し、それは朱雀の国の王宮を直撃した。
次の瞬間、王宮は大爆発を起こした。いや、大爆発を起こしたのは王宮だけではない。王宮の周囲の窪地全体が大爆発を起こした。
当然の大爆発の影響で凄まじい量の粉塵が舞い、しばらくの間、何も見えなかった。ある程度、視界が開けた時に見えた光景は驚くべきものだった。
王宮とその周囲の窪地が全て崩れ去っていた。早い話が朱雀の国の真ん中に大きな渓谷が出来て、白幡先輩の創り上げた白虎の国のモンゴル騎兵が占領した西側と私の創り上げた青龍の国の戦闘員が進駐した東側を完全に分断してしまったのだ。
「確かにこりゃあ有り難い贈り物だなあ」
さすがの青龍も驚いた様子だ。
「いますぐ青龍の国の戦闘員が白虎の親父の国のモンゴル騎兵とドンパチするのはきつい。だが、これだけでかい渓谷を作ってくれれば、いかに玄武のじじいの国の工兵でもすぐに渡れるようには出来ない」
「だけど驚いたよ。あの大爆発には」
「ああ青龍も驚いた。恐らく予め相当な量の爆薬をあの辺一帯に仕込んでいたんだろうな。そして、朱雀の火の玉で誘爆する仕掛けにしといたんだ」
「恐れ入りました。雀美先輩。凄く助かります」
そんな私の声が聞こえたのか。雀美先輩の声がした。
「龍子。私の贈り物が分かってくれて嬉しいよ。で、朱雀も今回の火の玉で力を使い果たしちゃったし、完全に四神大戦からは脱落ね。私と朱雀はこれから天上に行く。天上から龍子のことを応援しているよ」
小さな小さな龍さんが出してくれた映像を見ると雀美先輩を乗せた朱雀はゆっくりと天に向かって昇っていった。
◇◇◇
一つ終わった。でも、ホッとしている場合じゃないな。今度は白幡先輩の創り上げた白虎の国と境を接することになったし。武哉先輩の創り上げた玄武の国と手を結んでいるようだし、心配ごとは尽きないな。
「でも大丈夫だろ」
青龍はいつもとおりしれっと言う。
「そうは言っても、こうしてみようって考えがあるんだろう。龍子は」
「そりゃあ私は私の考えがあるけど、相手は白幡虎威先輩に玄田武哉先輩だよ。どんな想像力・創造力・表現力使っているか分かったもんじゃないんだ」
「それでも大丈夫さ。だって龍子は青龍が選んだ番なんだぜ」
くそう。またこういうところでそういう物言いを。ほだされんほだされんぞ。