3
全身白のドレスでバッチリ決め、はてここは日本のごくごく普通の高校だったはずだが、いつからここは異世界の貴族学園になったのかと問いたくなるような扮装で現れたのは、白幡虎威先輩。「第11回エレクトリックボードノベル大賞」、唯一の入選者である。
「おほほほほ。みなさんごきげんよう」
上機嫌だなあ。やっぱり他の文芸部員を制しての入選は嬉しかったのだろう。一応付け加えておくが、わが母校は「公立高校」である。「名門私立お嬢様学校」ではない。
しかし、ここは私は友好関係を保つ意味でご挨拶をしておくべきだろう。
「白幡先輩。『エレクトリックボード大賞』の入選おめでとうございます」
「あらありがとう。青滝さん。あなたは『奨励賞』だったわね。おめでとう」
「!」
その時、私は気づいてしまった。白幡先輩の後方から私に突き刺さる鋭い視線に。
その姿たるや古代中国の鎧を身にまとったホワイトタイガー。しかし、イケオジである。そうかあ、この方が白幡先輩の番なのかあ。
「まあまあ白虎のオヤジ。そう俺の番を睨まんでくれよ。龍子は白虎のオヤジの番に挨拶しただけだ。ケンカ売ろうってんじゃないんだぜ」
あ、一応、青龍フォローしてくれているんだ。
「うむ、そうか。そうなのか」
イケオジホワイトタイガーこと白虎さん。青龍の言葉に頷く。どうやら話が分からない神様でもないらしい。
「わが番虎威は優秀でな。今回も何か凄い賞を取ったそうだが、そのことで虎威が妬まれないか心配でな」
「大丈夫大丈夫」
笑って答える青龍。
「俺が白虎のオヤジに一目置いているように、俺の番龍子は白虎のオヤジの番に刃向かったりしねえよ。俺が保証する」
「うむ。そうか。それは睨んだりして悪かった。これからも虎威と仲良くしてやってくれ」
青龍よ。確かに守ってくれたのは守ってくれたのだろうが、少々卑屈すぎやせんか。
そんなことを考えていた私の背後から別の幻聴が聞こえた。「ゴゴゴゴゴ」と。うん。あの先輩の登場だ。はあ。
◇◇◇
真っ赤な衣装に身を包み、その姿を現したのは朱野雀美先輩。その後方には真っ赤な髪を長く伸ばし、中国拳法をやるような人の真っ赤な服を着ている青年が。彼が朱野先輩の番らしい。
「おはよう。虎威。まずはおめでとうと言っておくわ」
「取りあえずは『ありがとう』と言うべきかしらね。雀美」
うわああ、今回が初めてではないとはいえ、朱野先輩と白幡先輩。凄まじい火花を散らしているよ。
文芸部でお二人を見慣れている私でもこの対決にはビビる。ましてや他の生徒は遠巻きにして見守ることしかできない。
そして、睨み合いをしているのは朱野先輩と白幡先輩だけではない。その番の神様たちもだ。
赤髪拳法青年対イケオジホワイトタイガー。凄まじい緊張感を漂わせている。
「おーい。龍子」
そんな中、間の抜けたような声をかけてくる。
「おまえ、あの二人。止めないの?」
「誰が止めるかあ。私はまだ命が惜しい。そういう青龍こそ何で二人の神様を止めないの?」
「まあ今回は白虎のオヤジと朱雀の野郎のケンカだからな。俺や龍子に危害が及ぶわけでもなさそうだしな。俺が止めてやる義理もねえよ」
そう言われてみればそうかもしれないけど、ここでこのまま朱野先輩と白幡先輩を放置して、教室に行ってしまうとそれはそれで怖い気もする。
◇◇◇
「あーらみんなおはよう」
更に後方から聞こえる一見穏やかで癒やし系の声。その主こそが文芸部最後の一人玄田武哉先輩だ。見た感じ黒髪ショート丸顔眼鏡のその風貌に一転周囲に安堵の空気も流れる。しかしっ!
「おい龍子。実は一番怖いのは最後に出てきたあの丸顔眼鏡の女だろう?」
珍しくも青龍が声をひそめる。
「分かる?」
私も声をひそめて返す。
一見穏やかで癒やし系。そんな玄田先輩に惑わされ、何人の男が失恋恋愛地獄に堕ちたことか。
「ああ、実は俺も真っ向から向かってくる白虎のオヤジと朱雀の野郎はまだやりようがある。だがあの丸顔眼鏡の女の番の玄武のジジイだけはどうも苦手だ。何を考えているか分からんとこがあってな」
このいかにも口が達者そうな青龍にして苦手な相手がいるのか。ちょっと意外だけど。
◇◇◇
「おはよう。虎威ちゃん。雀美ちゃん。あ、そうそう、虎威ちゃん。入選おめでとう。雀美ちゃん。佳作おめでとう」
「言ってる武哉だって佳作だったじゃねえか」
「うふふ。ありがとう。雀美ちゃん」
「いやそうじゃねえだろ。武哉。問題なのは何で虎威が『入選』で雀美が『佳作』なのかってことだ。この結果に納得出来るのか? 武哉?」
そんな会話を聞いていた白幡先輩は「おほほほほ」と高笑いして「まあほんの『実力』ね」と一言。うわあああ。
「まあ」
黒縁の眼鏡を指でくいと持ち上げる玄田先輩。レンズがキラーンと光る。静かな迫力で言えば、やっぱこの方が最強だ。
「今回の結果について言えば、私も虎威ちゃんにも雀美ちゃんにも言いたいことはある。ただもう始業時間よね。放課後、大いに議論したいところね。奨励賞だった龍子ちゃんも交えてね」
「望むところだぜ」
右手の握りこぶしを突き上げる朱野先輩。
「おほほほほ。返り討ちにならないといいけどね」
相変わらず高笑いの白幡先輩。
そして、今回もまた否応なしに巻き込まれることになった私。