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 全身白のドレスでバッチリ決め、はてここは日本のごくごく普通の高校だったはずだが、いつからここは異世界の貴族学園になったのかと問いたくなるような扮装で現れたのは、白幡虎威(しらはたとらい)先輩。「第11回エレクトリックボードノベル大賞」、唯一の入選者である。


「おほほほほ。みなさんごきげんよう」


 上機嫌だなあ。やっぱり他の文芸部員を制しての入選は嬉しかったのだろう。一応付け加えておくが、わが母校は「公立高校」である。「名門私立お嬢様学校」ではない。


 しかし、ここは私は友好関係を保つ意味でご挨拶をしておくべきだろう。

白幡(しらはた)先輩。『エレクトリックボード大賞』の入選おめでとうございます」


「あらありがとう。青滝(あおたき)さん。あなたは『奨励賞』だったわね。おめでとう」


「!」

 その時、私は気づいてしまった。白幡(しらはた)先輩の後方から私に突き刺さる鋭い視線に。


 その姿たるや古代中国の鎧を身にまとったホワイトタイガー。しかし、イケオジである。そうかあ、この方が白幡(しらはた)先輩の(つがい)なのかあ。


「まあまあ白虎(びゃっこ)のオヤジ。そう俺の(つがい)(にら)まんでくれよ。龍子(りゅうこ)白虎(びゃっこ)のオヤジの(つがい)に挨拶しただけだ。ケンカ売ろうってんじゃないんだぜ」

 

 あ、一応、青龍(せいりゅう)フォローしてくれているんだ。


「うむ、そうか。そうなのか」

 イケオジホワイトタイガーこと白虎(びゃっこ)さん。青龍(せいりゅう)の言葉に頷く。どうやら話が分からない神様でもないらしい。

「わが(つがい)虎威とらいは優秀でな。今回も何か凄い賞を取ったそうだが、そのことで虎威とらいが妬まれないか心配でな」


「大丈夫大丈夫」

 笑って答える青龍(せいりゅう)

「俺が白虎(びゃっこ)のオヤジに一目置いているように、俺の(つがい)龍子(りゅうこ)白虎(びゃっこ)のオヤジの(つがい)に刃向かったりしねえよ。俺が保証する」


「うむ。そうか。それは(にら)んだりして悪かった。これからも虎威とらいと仲良くしてやってくれ」


 青龍(せいりゅう)よ。確かに守ってくれたのは守ってくれたのだろうが、少々卑屈すぎやせんか。


 そんなことを考えていた私の背後から別の幻聴が聞こえた。「ゴゴゴゴゴ」と。うん。あの先輩の登場だ。はあ。


 ◇◇◇


 真っ赤な衣装に身を包み、その姿を現したのは朱野雀美(あけのすずみ)先輩。その後方には真っ赤な髪を長く伸ばし、中国拳法をやるような人の真っ赤な服を着ている青年が。彼が朱野(あけの)先輩の(つがい)らしい。


「おはよう。虎威とらい。まずはおめでとうと言っておくわ」


「取りあえずは『ありがとう』と言うべきかしらね。雀美(すずみ)


 うわああ、今回が初めてではないとはいえ、朱野(あけの)先輩と白幡(しらはた)先輩。凄まじい火花を散らしているよ。


 文芸部でお二人を見慣れている私でもこの対決にはビビる。ましてや他の生徒は遠巻きにして見守ることしかできない。


 そして、(にら)み合いをしているのは朱野(あけの)先輩と白幡(しらはた)先輩だけではない。その(つがい)の神様たちもだ。


 赤髪拳法青年対イケオジホワイトタイガー。凄まじい緊張感を漂わせている。


「おーい。龍子(りゅうこ)

 そんな中、間の抜けたような声をかけてくる。

「おまえ、あの二人。止めないの?」


「誰が止めるかあ。私はまだ命が惜しい。そういう青龍(せいりゅう)こそ何で二人の神様を止めないの?」


「まあ今回は白虎(びゃっこ)のオヤジと朱雀(すざく)の野郎のケンカだからな。俺や龍子(りゅうこ)に危害が及ぶわけでもなさそうだしな。俺が止めてやる義理もねえよ」


 そう言われてみればそうかもしれないけど、ここでこのまま朱野(あけの)先輩と白幡(しらはた)先輩を放置して、教室に行ってしまうとそれはそれで怖い気もする。


 ◇◇◇


「あーらみんなおはよう」

 更に後方から聞こえる一見穏やかで癒やし系の声。その主こそが文芸部最後の一人玄田武哉(げんだたけや)先輩だ。見た感じ黒髪ショート丸顔眼鏡のその風貌に一転周囲に安堵の空気も流れる。しかしっ!


「おい龍子(りゅうこ)。実は一番怖いのは最後に出てきたあの丸顔眼鏡の女だろう?」

 珍しくも青龍(せいりゅう)が声をひそめる。


「分かる?」

 私も声をひそめて返す。


 一見穏やかで癒やし系。そんな玄田(げんだ)先輩に惑わされ、何人の男が失恋恋愛地獄に堕ちたことか。


「ああ、実は俺も真っ向から向かってくる白虎(びゃっこ)のオヤジと朱雀(すざく)の野郎はまだやりようがある。だがあの丸顔眼鏡の女の(つがい)玄武(げんぶ)のジジイだけはどうも苦手だ。何を考えているか分からんとこがあってな」


 このいかにも口が達者そうな青龍(せいりゅう)にして苦手な相手がいるのか。ちょっと意外だけど。


 ◇◇◇


「おはよう。虎威(とらい)ちゃん。雀美(すずみ)ちゃん。あ、そうそう、虎威とらいちゃん。入選おめでとう。雀美(すずみ)ちゃん。佳作おめでとう」


「言ってる武哉(たけや)だって佳作だったじゃねえか」


「うふふ。ありがとう。雀美(すずみ)ちゃん」


「いやそうじゃねえだろ。武哉(たけや)。問題なのは何で虎威(こいつ)が『入選』で雀美(あたし)が『佳作』なのかってことだ。この結果に納得出来るのか? 武哉(おまえ)?」


そんな会話を聞いていた白幡(しらはた)先輩は「おほほほほ」と高笑いして「まあほんの『実力』ね」と一言。うわあああ。


「まあ」

 黒縁の眼鏡を指でくいと持ち上げる玄田(げんだ)先輩。レンズがキラーンと光る。静かな迫力で言えば、やっぱこの方が最強だ。

「今回の結果について言えば、私も虎威(とらい)ちゃんにも雀美(すずみ)ちゃんにも言いたいことはある。ただもう始業時間よね。放課後、大いに議論したいところね。奨励賞だった龍子(りゅうこ)ちゃんも交えてね」


「望むところだぜ」

 右手の握りこぶしを突き上げる朱野(あけの)先輩。


「おほほほほ。返り討ちにならないといいけどね」

 相変わらず高笑いの白幡(しらはた)先輩。


 そして、今回もまた否応なしに巻き込まれることになった私。


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