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なっ、拳士の戦闘力がアップ? どういうこと? 分からない?
私が雀美先輩相手に武器を持って三対一で戦う戦法を伏せていたように、雀美先輩も戦闘中に戦闘力が上がるということを伏せていたということ?
迂闊だった。武哉先輩はともかく雀美先輩や白幡先輩は手の内を全て明かしていると思い込んでいた。
どうする? どうする? 三対一で勝てないなら、控えている人を全部出して五対一にする?
その時の私はすがるような目で青龍を見ていたのだと思う。
しかし、青龍は何事もなかったようにこう言った。
「青龍は朱野雀美が拳士の戦闘力が上がることを意図的に伏せていたとは思わないな」
◇◇◇
「へ? 青龍。それは何故そう思うの?」
「ああ。朱雀がそういうことをする奴じゃないからだよ。その朱雀が番に選んだ朱野雀美もそうなんじゃないか?」
「!」
確かにそうだ。拳士たち同士の厳しい訓練を誇らしげに見せてくれた雀美先輩がこのことだけ伏せていたとは本当に考えにくい。
「それは分かる。でも、だったら何で拳士たちの戦闘力が上がったんだろう?」
「これはあくまで青龍の推測だが」
青龍は目を閉じて、腕を組みながら言う。
「あの拳士たちは、自分たちの国の神である朱雀とその番の朱野雀美のことが本当に好きなんじゃないか?」
「!」
「拳士たちは目算と違った苦戦に戸惑っているだろう。それと同時に自分たちの国の危機も感じ取っているはずだ。ここで自分たちが頑張らないと朱雀の国が危ういとな」
「それで戦闘力が上がった? それじゃ龍子はどうしたらいい」
「焦んなって」
青龍は右手で頭をかく。
「拳士たちは朱雀と朱野雀美のことが好きなんだろうが、青龍の国の戦闘員たちだって龍子のことが大好きなんだぜ。もうちょっと信用してやれや」
「!」
目から鱗が落ちた。くそう。私はまたもや青龍の魅力に参ってしまいそうだ。いや。いやいやいや。まだまだあ。私は番じゃないぞー。
「まあそうは言っても」
青龍は相変わらず右手で頭をかきながら言う。
「残念だが負ける時は負ける。その時は青龍たちの民を大事に扱ってもらえるよう朱雀と朱野雀美に頭を下げよう。自分のところの拳士にここまで慕われる奴らだ。分かってくれると思う。龍子、一緒に頭を下げてくれや」
その時はそうだね。一緒に頭を下げて、お願いしよう。
◇◇◇
私のそんな思考はすぐに破られた。
小さな小さな龍さんたちのもたらす情報が変わってきたのだ。
「こちらの負傷者が急減。交代しながらだが、拳士たちと互角もしくはこちら側が優位に戦っている」
! これは!
私は思わず青龍の顔を見る。満面の笑みのドヤ顔。くやしいが、ここはともに喜ぶとしよう。
「な、青龍の言ったとおりだろう。拳士たちは朱雀と朱野雀美のことが好きなんだろうが、青龍の国の戦闘員は龍子のことが大好きなんだよ」
それから小さな小さな龍さんたちのもたらす情報はどんどんこちら側優位に変わっていった。
相手方の拳士は次々捕虜になり、逆にこちらは負傷者が減り、三対一どころか六対一でも戦える状態になってきた。
これはそろそろこちら側に有利な条件で朱雀の国と講和と考え出した頃、また驚くべく知らせが入ってきたのだ。
◇◇◇
「白幡先輩の創り上げた白虎の国のモンゴル騎兵が、雀美先輩の創り上げた朱雀の国に攻め込んだ?」
突然のことに私の頭は混乱。しかし、くやしいことに青龍は今度も冷静だった。
「さては青龍んとこと朱雀んとこの戦見てて、どうもこっちが勝ちそうだってので朱雀んとこに攻め込んだな」
「だっ、だけどさ」
おかげで私も少しは冷静になれた。
「雀美先輩の創り上げた朱雀の国って、山がちで谷も全部熱帯雨林でしょう。白幡先輩の創り上げた白虎の国のモンゴル騎兵じゃあ動きづらいんじゃあ?」
「まあ小龍たちに調べてもらおうや」
「そうだね」
そして、判明した事実は更に衝撃的だった。
「モンゴル騎兵に護衛された工兵が熱帯樹林の木を伐採して道を作っている」
「工兵? 白幡先輩の創り上げた白虎の国を以前視察した時は見なかったけど?」
その疑問はすぐ解けた。
「工兵はモンゴル騎兵とは違った服装をしている。淡々と道路建設に従事している。一様に目は虚ろだ」
この情報は? 工兵の目が虚ろ?
「ふう」
さすがの青龍も溜息を吐いた。
「その工兵は玄武のじじいの国のもんだな。うーん。白虎の親父と玄武のじじいが手を組んだか。ちょっと嫌な情勢だな。まあ、同床異夢だとは思うが」
武哉先輩の創り上げた玄武の国に工兵がいるというのも初耳だが、もともと武哉先輩は他の先輩方と違って、創り上げた国をよく見せてくれなかったから今更驚かない。
しかし、私の立場からすると白幡先輩と武哉先輩が手を組んだというのはやっぱり怖い。青龍が言うとおり、やっぱり「同床異夢」だとは思うけど。