27
うわっ、そうこうしているうちに拳士たちはどんどん王都に接近している。
これは止めたい。よしっ。
「拳士たちは故国において山道の移動には慣れていたが、平原が続く青龍の国では勝手が違い、移動速度は遅くなる……バチッ
え? なに? 今静電気みたいなのが走って、火花が散って、想像力・創造力・表現力の行使が阻まれたんだけど。
「ああそれはだな」
青龍は淡々と言う。
「朱雀の国の拳士たちは山道での移動のみならず、平原での移動も苦にしないことが既に朱野雀美によって綴られているんだろう。後から矛盾した形で想像力・創造力・表現力の行使は出来ない、それが四神大戦のルールなんだ」
うーむ。それはそうかもしれないけど、何だか先に書かれた文章を読むことが出来ないリレー小説みたいできついな。でも嘆いてばかりもいられない。これならどうだ。
「青龍の国の王都に向かう平原には数多くのトラップが仕掛けられていた。拳士たちの多くはそのトラップに捕捉され、他の拳士たちも警戒しながらの進軍になり、必然的にその速度は落ち……バチッ
うわっ、これもダメ?
「もう拳士どもはかなり王都に近いところまで来ちまっているからな。今更それを言われても……だろう。大体、青龍の国の平原にそんなもの仕掛けられた日には、日常生活で青龍の国の民や家畜もトラップにかかるぞ」
「うーんダメか。やっぱり」
「龍子、ここまで来たら焦って小細工をしても仕方ない。青龍たちは他の三つの国を歴訪してきた。それだけでも他の連中より有利だ。朱野雀美のどういう国を創り上げたか、龍子はそれがある程度分かった上で、この国の特性を踏まえて対策を立ててきたはずだ。それを思い切りぶつけてみろ」
「分かった」
私も腹を括った。
「戦闘員は王都を囲む形で布陣。各自武器を持ち、事前の演習のルールに従ってグループを組む。非戦闘員は馬車と舟、及び徒歩で国の北部にある小都市を目指して退避していく」
◇◇◇
私がこのように綴ったことで王都は大変な騒ぎになった。可能な限り財産は置いていくように指示し、民もそれに従ってくれたため、待避はスムーズに進んだ。しかし……
「神様っ! 番様っ! 大丈夫なの? この国は?」
「おうっ!」
不安げな顔の子どもたちを応対してくれたのは青龍だ。
「心配かけて悪いな。だからそんなにかからねえで終わる。いい子にして遠足いってくるような気持ちで行ってくれや」
正直助かる。私の方は小さな小さな龍さんからどんどん情報が入ってくる。拳士たちの侵攻速度は一向に緩まらない。かくなる上は……
「戦闘員は市街地の外縁ギリギリまで後退して布陣。但し、北側の非戦闘員の避難路だけは完全に確保されている。避難路の両側は作業員により急ピッチで柵が作られている」
ふうっ、どうかと思ったけど、何とか柵を作るは撥ねられなかったな。間に合ったか。良かった。やはり非戦闘員が巻き込まれるところは極力見たくないし。
そこへ拳士たちが市街地の外縁部に一部到着。到着した拳士から我が国の戦闘員への攻撃が開始されたの情報が。
始まったか。もう私の立てた対策が正しかったことを祈るしかない。
◇◇◇
拳士たちはこちらの戦闘員の姿を認めると駆け寄って正拳を撃ち込んでこようとする。それは予想できたから……
「青龍の国の戦闘員は正拳を撃ち込もうとする朱雀の国の拳士に各人が装備した槍を持って応戦する」
「戦闘力では青龍の国の戦闘員は朱雀の国の拳士に遠く及ばない。但しそれは一対一で素手で戦った場合である。青龍の国の戦闘員は速度において遙かに優れた朱雀の国の拳士に対し、全員が槍を装備し、距離を取って戦う。更に……」
「一対一では戦わない。一対一で戦うシュチュエーションになったら必ず逃げる。三対一が維持できるシュチュエーションでないと戦わない」
ああっ、これも武哉先輩に教えてもらった。「三国志」で無敵最強の武将呂布に劉備・関羽・張飛の義兄弟が三人がかりで立ち向かい、追い払ったのがヒントになった。
あの後読んだ「三国志」。やっぱり面白かったな。おっと今は思い出に浸っている場合じゃない。
「三人一組で一人でも負傷したら、その者は後退。治療に専念する。代わりに後方に控えし者が加わり、三対一を維持する。青龍の国は豊かな国だ。人材も武器となる槍も十二分にある」
小さな小さな龍さんからの情報だと戦況は一進一退だそうだ。こちらにも負傷者がどんどんでているみたい。早めの治療で対応していかないと。だけど、相手方の拳士たちも疲れてきているみたいだ。倒れて捕虜になる者もたくさん出ている。
捕虜になった拳士たちは一様に「信じられない」という顔をしているそうだ。「何であんた方そんなに強いんだ?」「青龍の国の兵士は軟弱で、あっという間にこっちの勝利で終わると聞いてきたのに話が違う」「自分もあくまで青龍の国との戦いは練習台で、ここで戦に慣れろと言われてきた。あくまで本番は白虎の国との戦だと」
むふふ。雀美先輩、私の創り上げた青龍の国をなめていましたね。
密かにほくそ笑んだ私だが、次に入った情報に仰天した。
「朱雀の国の拳士の戦闘力が上昇。こちらの負傷者が増加中」