25
常春の国青龍の国は今日も温かく柔らかな風が吹く。
昼は青龍の背に乗り、国中を視察。時折そのまま地上に降りて、民の話を聞く。夜は私の家ならぬ王宮で寝るまで子どもたちと話す。そんな日課が定着してきた。
三人の先輩方の創られた国を歴訪し、すっかり自信をなくした私に青龍はこう言った。
「自信なくしたか。うんまあ、それでいいんじゃないか」
「はい?」
私には青龍の言ったことが全く理解できなかった。
「何言っているの? 自信はないよりあった方がいいに決まっているでしょ?」
「そうでもないさ」
青龍は前を向いたまま言う。
「自信がないというのは他に比べて自分に足りないものがあるということを自覚できているということだろう。ならば自分の想像力・創造力・表現力を行使して、その穴を埋めていけばいい」
「うんでもね。確かに強い国にしたいんだけど、今この国にある笑顔や豊かさもなくしたくないんだよね」
「うんうん。なら笑顔や豊かさを残したまま国を強くすればいい。龍子なら出来るさ。何せ青龍の番だからな」
これが私の気を引くためのおべんちゃらとかその場を収めるための気休めとかに聞こえるのではなく、本当に本気、確信しているといったトーンで聞こえてくるのだ。
くやしいがやはり四神の一角、ただ者ではない。そして、この言葉で安心している私がいる。それもまたくやしい。
◇◇◇
手は打った。自分なりに想像力・創造力・表現力を使い、笑顔で豊かな、それでいて強い国を目指した。
かくて私の創り上げた青龍の国の民は今日も笑顔で忙しなく走り回っている。武哉先輩の創り上げた玄武の国では虚ろな目をした民がゆっくりと歩いていた。好対照だ。
「人口多いよな。随分増えた感じだ。豊かだからだろうけど」
青龍がポツリと言う。確かにそうだ。人は増えた。人口でも恐らく四国一だと思う。武哉先輩は実態を見せていないとは思うが、それでも我が国が最多なはずだ。
こうして見ると我が国は強くはなっているはずだ。だけど、先輩方の創り上げた国だって黙ってみていてくれるはずがない。
青龍の髭から生まれた小さな小さな龍さんたちは、他の三国に満遍なく送り込まれている。
武哉先輩の創り上げた玄武の国に送り込まれた小さな小さな龍さんは見つかり次第潰されているので、なかなか情報が入ってこない。もっとも相手方も小さな小さな蛇さんを次々とこちらに送り込んできており、見つけ次第青龍が食べている。
その点雀美先輩の創り上げた朱雀の国と白幡先輩の創り上げた白虎の国は良くも悪くも鷹揚で情報が次々と入ってくる。
それによると、両国とも拳士とモンゴル騎兵の練度を上げ、両国の国境は緊張が走っているようだ。
とは言え、最初の勝負が雀美先輩と白幡先輩の間で始まるなんて保証はない。あの後もお二方からは何度も「今のうちに私の傘下になりなさい」とお手紙が私のところに届いている。
その度に「考え中です。もう少しお時間ください」とのお返事を出しているのだが、いい加減しびれを切らされてもおかしくない。
「まあ焦っても仕方がねえべ。来るときは来るんだから、それに向けて出来るだけ準備するしかなかろう」
そう。その青龍の言葉通りなんだけど、どうにも緊張はする。ましてや相手はいずれ劣らぬ文芸部の強者たちなのだ。
そうこうしているうちに重大情報が入ってきた。
「朱雀の国の拳士たちが王宮から山道を通って、白虎の国との国境に続々と向かっている。白虎の国のモンゴル騎兵も国境に向けて進軍している模様」
これはやはり最初の対決は雀美先輩と白幡先輩かな? もともと文芸部内部でも一番ライバル意識の強かったお二人だし。
「ん~」
そんな中、青龍がポツリと呟く。
「最近、朱雀の国に送り込んだ小龍がよく帰ってくるなあ。前は帰ってくるのは玄武の国に送ったやつばっかだったのに」
ふーん。雀美先輩も武哉先輩ばりに情報統制に気遣うようになったのかな? あるいは既に私と白幡先輩が裏で手を結んでいて、私経由で白幡先輩に情報が流れることを警戒している?
いや、それは筋が通らない。既に白幡先輩は、雀美先輩が国境付近に拳士たちを送り込んでいることに既に気づいている。
それに朱雀の国の拳士たちが山道を通って、白虎の国との国境に向かっている情報を把握している小さな小さな龍さんは潰されている様子がない。
これは何か裏がある。それが何か? 考えろ考えろ私っ!
両目を閉じ、腕組みをして、うーんうーんと考える私を青龍は、ニヤニヤ笑ってみていたそうだが、私にはそんなことに気づく気持ちの余裕がその時にはなかった。