24(第三章完結)
「なあ、武哉。本当に青龍とその番、逃がしちゃってよかったのか? 拘束して抹殺してもあくまで四神大戦上のことで本当に死ぬわけじゃないってことは知っているじゃろう」
「まあね。あの場で青龍と龍子ちゃんを潰しちゃえば、今回の四神大戦はもう武哉たちが勝ったも同然になっちゃう。それじゃつまらないじゃない」
「何と言うか。余裕だな。武哉」
「まあね。今回は最後は武哉たちが勝つのは見えているんだから。可愛い後輩の龍子ちゃんの成長ぶりも見たいじゃない。こんな手も使ってくるしね」
「ほう。これは青龍の分身の小龍だな。どれ。ブチッ」
えっ、えーっ!
◇◇◇
「ちょっと青龍。今のは?」
「ああ、青龍が情報収集用に残していった小龍が玄武の番に見つかって潰されたんだな」
「え? 殺されちゃったの?」
「いや。さっき玄武も言っていたが、四神大戦上で死んでも本当に死ぬ訳じゃない。青龍の髭に戻るだけだ」
「それにしても情報収集用に小さな小さな龍さんを置いてきたことで相手方に口実与えたりしなかったかな?」
「その辺はお互い様だな。ほれ」
青龍が上げた右手の指には小さな小さな蛇がはさまっていた。
「青龍。これは?」
「これは玄武の分身だよ。これをだな」
青龍は自分の右手を口の前に持ってくると小さな小さな蛇をパクリと飲み込む。
「え? え? え? いろいろな意味で大丈夫なの?」
「大丈夫だ。これでさっきの小さな蛇は玄武の体に戻った。分身を使って情報収集はお互い様ってことだ。まあ朱雀の野郎や白虎の親父は面倒くさがってあんまりやらねえけどな」
はあそういうもんですか。
◇◇◇
私の家、いやもとい、王宮に帰ってきた。
もう子どもたちは大喜びで「番様」「番様」と言って、私たちを取り囲んでくれた。
そんな中、人間体に戻った青龍は「すまねえが今回という今回はくたびれた。先に寝させてくれ」と言って、別室に行った。まあ無理もないね。白虎の国の王宮から国境の山脈を越えるまで全速力で飛んで来たんだし。
私は居間で子どもたちに囲まれ、楽しく話した。こうしてみると三人の先輩方が創り上げた国々を歴訪してきたことが嘘みたいだ。ずっとこの子たちとここで過ごしてきたような気がしてくる。
しかし、夜半、子どもたちが寝入ってしまうと、この数日間の記憶が蘇ってくる。雀美先輩の創り上げた国の拳士も、白幡先輩の創り上げた国のモンゴル騎兵も強そうだった。武哉先輩は「武」を見せつけようとはしなかったけど、相当の自信を持っている。そうでなければ雀美先輩の創り上げた国と白幡先輩の創り上げた国の両方を敵に回してもかまわないなんて言わないだろう。
それに比べて私の創り上げた国はどうだ。笑顔と豊かさで言えば、どこにも負けないだろう。
但し、四神大戦の覇権を競うということとなったらどうだ? この国は他のどこより弱いんじゃないか?
私は不安に押しつぶされそうになり寝付けなかった。一刻も早くこの不安を青龍に話したかった。だけど青龍は疲れて寝入っている。
早く…… 早く朝にならないかな? そうすれば子どもたちも青龍も起き出してくる。話が出来る。私はそう思っていた。
「第三章 彷徨」はこれで完結です。
次回から「第四章 朱野雀美」に入ります。