表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/46

23

 ひょっとしたら武哉(たけや)先輩は和装をして、畏まって抹茶を出してくれるかもと思ったが、そうではなかった。


 時代劇に出てくるお奉行様のお屋敷のような王宮。そこのポカポカと陽の当たる縁側で

一般家庭にあるような急須で一般家庭にあるような湯飲みにお茶が注がれた。そしてお茶菓子。うーん。これは「おばあちゃんの家」?


 玄武(げんぶ)は姿を見せないし(どこか陰で見張っているのかもしれないけど)、武哉(たけや)先輩は穏やかで、優しい笑顔で四神高校(ししんこうこう)文芸部の思い出話を始める。


 そうなると私も楽しいから、その話に夢中になる。いつしか隣にいる青龍(せいりゅう)の存在を忘れるほどに。あの学校の部室での活動に戻ったような。というか四神大戦(ししんたいせん)の方が夢だった?


 そんな私の気持ちは武哉(たけや)先輩の次の言葉で破られた。

青龍(せいりゅう)様、さっきからキョロキョロされて落ち着かないようですね?」


 ◇◇◇


 ! しまった。私はここには自分の国の民の笑顔を守るため青龍(せいりゅう)と共にこの国の視察にきたのだ。それを忘れておしゃべりに夢中になってしまった。


「いっ、いやあ、二人とも随分仲良く話しているもんだから、なんか落ち着かなくてねえ」

 苦笑いして頭をかく青龍(せいりゅう)


「ふふふ。それは申し訳ありませんでしたね。それでは青龍(せいりゅう)様のお話を聞かせていただきましょうか? キョロキョロされて何をご覧になっていたのでしょう?」


 うわあああ。武哉(たけや)先輩、笑顔だけど目は笑っていない。怖い、これは怖い。


「いやあああ、立派なお屋敷だなあと思って。情緒あるし」


「そうですか。お褒めいただき、ありがとうございます。ただ、武哉()には青龍(せいりゅう)様がこの屋敷に仕掛けがあると思われ、それを探っているようにも見えましてね」


 ギクッ。見抜かれている。青龍(せいりゅう)武哉(たけや)先輩が私との思い出話に夢中になっていると踏んで、横目でお屋敷の構造を探っていたのは間違いない。


「あーははは。そんなことないですよ。ほら、青龍()ってとぼけているからボーッとお庭を眺めていただけですよ」


「ふふふ。どうかしら?」

 武哉(たけや)先輩、怖いままです。

武哉()の経験からしますと、ご自分のことを『とぼけている』と言われる方は油断ならないキレ者さんが多いですのよ。ねえ玄武(げんぶ)


「そうだな」

 この言葉と共に後方の襖が開き、兵を引き連れた玄武(げんぶ)が現れた。

「実際のところ何をしようとしていたんだか、言ってくれねえかい。青龍(せいりゅう) の」


「そんなこと言われたってさあ。ボーッと庭見てただけなんだから仕方ねえべ。それより兵とか引き連れてどうしたのさ? ここで青龍()たちを拘束する気? それやったら朱雀(すざく)の兄貴と白虎(びゃっこ)の親父いっぺんに敵に回すぜ。そして青龍()の国が丸ごと手に入る訳じゃないのは知っているよな? 朱雀(すざく)の兄貴はすぐに兵出して、玄武(げんぶ)のじいちゃんより先に青龍()の国取りに来るぜ」


 正直、私の創り上げた青龍(せいりゅう)の国が玄武(げんぶ)に取られるのも、朱雀(すざく)に取られるのも耐えきれないほど嫌だ。


 だけど青龍(せいりゅう)はそんなことは分かった上で、このやり取りをしているはずだ。ここは信じるしかない。


「ああ、青龍(せいりゅう)の言うとおりだな。ここで青龍(せいりゅう)とその(つがい)を拘束すりゃあ、朱雀(すざく)白虎(びゃっこ)も待っていましたとばかりに、青龍(せいりゅう)たちの救出を名目に攻め込んでくるだろうし、青龍(せいりゅう)の国も朱雀(すざく)が半分以上取っちまうじゃろうよ。しかし、それでもな」


「?」


玄武(わし)から見れば一番手強いのは青龍(せいりゅう)とその(つがい)じゃ。今回の四神大戦(ししんたいせん)、先に青龍(せいりゅう)とその(つがい)も潰しておけば、もう半分勝ったようなもんだと思っとるんじゃ。武哉(たけや)もそう思っているって言っていたよな」


「そうね。武哉()から見ても一番手強いのは龍子(りゅうこ)ちゃん。雀美(すずみ)ちゃんも虎威(とらい)ちゃんも凄いけど、化けた場合のポテンシャルは龍子(りゅうこ)ちゃんがずば抜けているの」


 そいつあどうも。武哉(たけや)先輩。でもそれは買いかぶりってもんだと私は思いますよ。


 ◇◇◇


 さてどうする。ここは逃げるべきだろう。青龍(せいりゅう)玄武(げんぶ)と戦えば勝てるかもしれない。だけど、どちらが勝つにしろ、相当の手負いになるだろう。その後、この国の兵士全部を相手にして勝てるかどうかと言えば、それは怪しいと言うしかない。


 ただ逃げるにしても、問題なのはこのドームだ。正直、武哉(たけや)先輩がどういう形でこのドームを創り上げたのか、皆目見当がつかない。当然、自分の想像力・創造力・表現力でドームの突破を図るが、それが武哉(たけや)先輩の想像力・創造力・表現力を凌駕し得るかどうかと言えば、全く自信がないというのが本音だ。


青龍(せいりゅう)様」

 あ、武哉(たけや)先輩が一歩前に出た。

「ここの屋敷の仕掛けを探っていなかったというのは本当ですか?」


「ああっ、本当だ」


「それでは」

 武哉(たけや)先輩が天を指差すとドームの天井に穴が開く。ありゃ。

「とっととお帰りなさい。青龍(あなた)たちの国へ。武哉()たちにまた探っていると思われる前にね」


「分かった。おい龍子(りゅうこ)。行くぞ。すぐに青龍()の背に乗れっ!」


「うっ、うん」


 私は大急ぎで青龍(せいりゅう)の背に乗り、青龍(せいりゅう)は私が乗ったことを確認するや否や、全速力で空に飛び立つ。


 そして、ドームの天井に開いた穴を抜ける。それと共に穴はすぐに塞がる。


 だが、私たちは振り返らない。全力で私が創り上げた玄武(げんぶ)の国と青龍(せいりゅう)の国の国境にある山脈を目指して飛ぶ。


 山脈が見えた。この山脈は私が創り上げたものだから、武哉(たけや)先輩の創り上げた玄武(げんぶ)の国と白虎(びゃっこ)の国の国境の山脈より遙かに標高が低い。


 青龍(せいりゅう)は水平飛行のまま、国境の山脈を突破。ついに私の創り上げた青龍(せいりゅう)の国に帰ってきた。


「ふいいいい」

 さすがの青龍(せいりゅう)も大きな溜息を吐く。


「助かったあ」

 私も久々に青龍(せいりゅう)の上で普通の声を出す。

「でもさ何で武哉(たけや)先輩は最後に私たちを逃がしてくれたんだろう?」


「それはこういうことだな」

 青龍(せいりゅう)がそう言うと私の耳の中にいた小さな小さな龍さんが外へ出てくる。そして、龍さんが話し始める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ドンドン世界観に引き込まれていきます。 そして逃がしてくれた理由は? 電車で読むのが楽しみです。
[良い点] >『とぼけている』と言われる方は油断ならないキレ者さんが多い 確かにそうですね!龍子ちゃんが化けた時のポテンシャルが、というのも納得です!
2024/06/08 13:09 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ