表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/46

21

 青龍(せいりゅう)の上昇に伴い、私の身体も冷えてくるはずなのだが、それがそうはならない。何故なら青龍(せいりゅう)の体温もゆっくりと上がってきたからだ。


 急速な上昇で筋肉を使い、体温が上がったのか、青龍(せいりゅう)が自らの意思で体温を上げる能力を持っていたのか、それは私には分からない。


 しかしそれは私にとってとても心地よい温度で、早い話が眠くなってきた。


青龍(せいりゅう)、やばい。私、このまま寝ちゃいそうだよ」


 ◇◇◇


「おうっ、かまわねえぞ。そのまま寝ちまえ。玄武(げんぶ)の国に着いたら起こしてやるから」


「なっ、何言ってんのっ!」

 さすがに私は慌てる。

「こんな時に寝たら、私、落ちちゃうじゃない」


「安心しろ」

 青龍(せいりゅう)は何事もなかったように返す。

「そのまま寝ちまえばいい。青龍()は絶対龍子(りゅうこ)を落とさないよ。龍子(りゅうこ)青龍()の大事な(つがい)だからな」


「ちょ、ちょっと。私はまだ自分が青龍(せいりゅう)(つがい)だと認めたわけじゃない……ふあああ、眠い」


「だから寝ちまいなって」


 そこで私の記憶は途切れた。本当に眠ってしまったのだ。




 ◇◇◇


 吹き付ける横風で目が覚めた。もう山脈は越えたらしい。


青龍(せいりゅう)の飛行は垂直から平行に変わっていた。


 むくりと体を起こす私に青龍(せいりゅう)が声をかける。

「おう起きたか。もう玄武(げんぶ)の国だぞ。よく見とけや」


そんな青龍(せいりゅう)の言葉に私は下を見回す。


北の国。冬の国とのことだが一面の雪景色ということもなかった。ただあちこちで霧が立ちこめている。


 それでもこの武哉(たけや)先輩の創り上げた国の大地は見える。


 森だ。大森林だ。針葉樹林にすっぽり覆い被されている。雀美(すずみ)先輩は山、白幡(しらはた)先輩は平原を主体にしたが、武哉(たけや)先輩は森林を主体にしたか。


 そして、一見未開の原生林だけど、これは……

「ねえ、青龍(せいりゅう)。この国なんだけど」


 青龍(せいりゅう)は何も言わず、自らの髭を一本抜き、息を吹きかけると小さな小さな龍さんが出来る。


 その小さな小さな龍さんは強風の中泳ぐように必死に私に近づくとちょこんと右肩に乗る。うっ、可愛い。


 そして、ゆっくりと私の耳の方に歩いてくると囁くように言った。

「あなたの耳の中に入らせて」


 何ともインパクトのあるお願いだが、その可愛らしさに思わず頷いてしまう私。


 すると小さな小さな龍さんはその体を更に小さく小さくしてひょこひょこと私の耳の中に入ってきた。何だかこそばゆいような気がする。


 私の耳でも随分奥の方に入ったなと思ったその時声がした。

龍子(りゅうこ)。すまねえ。ここはもう玄武(げんぶ)のじじいの国だ。どこで聞かれているか分かったもんじゃねえ。青龍()の話はここから伝える。龍子(りゅうこ)はそうだな……、青龍()の背中に指で文字を書いて、伝えてくれ」


「へっ?」


「妙な声を出すな。怪しまれるだろう」


 いやそうは言ってもね。背中に指で文字を書くって何かのレクリエーション? それで話が伝わるの?


「えーい時間が惜しいっ! とっとと書けっ!」


 はいはい。分かりましたよ。えーと。「この国って一見霧深い未開の大森林のように見えるけど、見えないところ開発されているよね」と。


「気がついたか」

 良かった。無事伝わったようだ。そして、青龍(せいりゅう)も気づいていたようだ。

「ぱっと見、一面の原生林だが要所要所に建物がある。そして、見えづらくはあるが、それらを繋ぐ道路が整備されているはずだ」


「そうだね」

 私は頷く代わりに青龍(せいりゅう)の背に指で文字を書く。

「そして、建物も小さく見せているけど恐らく地下とかにも広がっていると思う」


「ありそうだな。おっ?」

 青龍(せいりゅう)の言葉に前を向くと見えた。


 武哉(たけや)先輩の創り上げた玄武(げんぶ)の国の都が。


 何と透明のドームに囲われている。


「おい。玄田武哉(げんだたけや)ってのはSF好きか?」

 青龍(せいりゅう)が半ば呆れたように言う。


「いや武哉(たけや)先輩は……」

 私は四神高校(ししんこうこう)文芸部時代の記憶をたぐる。

「SF好きというより何でも読んでた。雀美(すずみ)先輩は恋愛ものとファンタジー系の武術格闘系が好きだったし、白幡(しらはた)先輩はやっぱり恋愛ものと歴史ロマンが好きだったな」


「で、玄田武哉(げんだたけや)は何でも読んでたのか?」


「うん。普通に恋愛ものとかも読むんだけど、他にミステリーにホラー、コメディーにSF、何でもござれだったよ」


「ふうん。作風が広いのか。そうすると玄田武哉(げんだたけや)がどういう形でその想像力・創造力・表現力を使うか予測するのは厄介だな」


「それはある。だけどもう一点気になっていることがあるんだけど」


「何だ?」


「うん。他は朱雀(すざく)白虎(びゃっこ)青龍(せいりゅう)が龍の姿で自国を飛ぶのを嫌がっていたじゃない。でも、玄武(げんぶ)が嫌がらないのは何でだろうって」


「! 言われてみればそうだな。青龍()たちを混乱させようという意図もあるのかもしれんが、それをやるったって相当の自信がないと出来ないことだ。龍の姿の青龍()を見ても、この国の民が動揺しないという自信が」


「……」

 何てこった。雀美(すずみ)先輩と白幡(しらはた)先輩の凄さにもさんざん自信喪失させられたが、武哉(たけや)先輩の凄さはまた違った方向性で私の自信を喪失させる。


「おっ、すまねえ。玄武(げんぶ)のじじいから連絡が入った。会話は一端打ち切るな」


 うん。もうそこにドーム見えているしね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 青龍と龍子ちゃんのやり取りてぇてぇです(*´∇`*) 小さな小さな龍さん、可愛すぎます( *´艸`)
2024/06/06 17:39 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ