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「ふーん」
青龍はにやりと笑う。
「龍子から見て、朱雀の野郎の国も白虎の親父の国も自分より強く感じられたか?」
「そりゃあそうだよ。青龍も見てそう思ったんじゃないの?」
「いや、なら龍子は、どの辺が強いと思った?」
「だって雀美先輩の創り上げた国は一人一人が強いし、白幡先輩の創り上げた国はその上、騎兵の統率が取れている」
「ははは。確かにな。朱雀の野郎も白虎の親父も余すとこなく己の強さを見せてくれたな」
「笑いごっちゃないよ」
私はまた溜息を吐く。
「それに比べたら、私の創り上げた国が他に負けないのは『笑顔』くらいだからなあ」
「そうでもないんじゃないか」
「へ?」
私は青龍のその言葉に戸惑いを感じる。
「笑えるってことはその国が豊かだってことだ。国が豊かであれば、起こっていることに対応出来る余力があるということでもある。ましてや朱雀の野郎も白虎の親父も手の内を全て見せてくれた。ならこちらも打つ手があるかもしれんよな」
「!」
確かにそうかもしれないかも。
「だが玄武のじじいにこの手が通用するか分からんがな」
「……」
そういう落ちがあるのかい。
◇◇◇
交易人のための小屋だそうだけど、中は質素な作りながら設備は最低限揃っていて、炊事なども出来る。部屋も二部屋あって、未だ自分が青龍の番であると認めていない私は別室で寝ることにしてもらった。
青龍はあっさりとそれを受け入れ、明日は朝から白虎の国と玄武の国の国境にある標高の高い山脈を越えていくことになるから早く寝ると言って別室に向かった。
それにしても意外だった。訪問したいという青龍の申し出に対して、玄武の答えは「来たいなら来い。わしの番の武哉も青龍の番に会いたがっているしな。大したもてなしもできないが」だったそうだ。
「不思議だよね」
私は青龍に問いかける。
「朱雀も白虎も初めは『何を企んでいる』と言って訝しがったのに、玄武はあっさり受け入れてくれたわけ?」
「そうなんだよなあ」
さすがに青龍にも相手の真意が掴みかねるらしい。
「まあでも相手方が来ていいって言うんだから言ってみようや。ここで悩んでいても玄武のじじいの番がどんな国を創り上げたか分からないし、いきなりとっ捕まって殺されることもないはずだからな」
「いきなりとっ捕まって殺されるって、そんなことあり得るの?」
「だから普通に考えればあり得ないんだ。四神大戦自体が四体の神の番の想像力・創造力・表現力の勝負だからな。いきなりとっ捕まえて殺したら、ルールに反するんだが……」
「反するんだが?」
「相手が玄武のじじいだからな。どんな手を使ってくるか分からん。そこまではしないと思うが、そうなったら最後は俺が体を張って龍子を守って、何とか白虎の国まで逃げる。そこまで汚い手を使えば、朱雀の野郎も白虎の親父も黙っちゃいられねえ。玄武の国対他の三国という構図になる」
「私も武哉先輩は凄く強い国を創ってくると思うけど、そこまで汚い手は使わないと思う」
「青龍もそうは思う」
青龍と私の会話はそこまでで終わり、青龍は別室に行って寝た。私は何か寝付けなかったので、スマホで自分の創り上げた国の子どもたちと話した。
みんな元気だった。みんな笑顔だった。やっぱりこの笑顔は守らないと思った。使命感が出た。でも、プレッシャーもかかった。
◇◇◇
翌朝は快晴だった。だけど国境の山脈から吹き下ろす風は冷たいなんてもんじゃなかった。それでも、山脈の中の小さな道には武哉先輩の創り上げた玄武の国からの交易人たちがぽつりぽつりと行き来している。
「よし。行くぞ」
青龍はその言葉とともに綺麗な水色の龍の姿になる。
私は今でも青龍の番になることを受け入れた訳じゃない。だけど青龍の姿の美しさだけは認めざるを得ない。まさしく溜息の出るような美しさだ。
「どうした? 早く乗れよ。龍子」
いかんいかん。ここで青龍の姿に見とれていたとか言った日にはどれだけ調子づくか分かったもんじゃない。私は努めて冷静を装い、青龍の背に乗る。
温かい……
風の冷たさとは対照的に青龍の水色の体は温かかった。
このまま飛び立つか? と思われたが、青龍は何やら考え込んでいる。
「うーん」
「どうしたの?」
「いやな。今までも山はあったが今回のように急じゃなかった。だからゆっくりと上昇していけば良かったんだが、今回は青龍も垂直に近い形で飛ばないとあの山を越えられそうにない」
「へ? それじゃ私、青龍から落っこちるじゃん」
「うんそういう訳にはいかんからな。今回は青龍の背中に乗るんじゃなくて、しがみついてくれ?」
「へ?」
ちょっと気恥ずかしいが、青龍の背にしがみつく。
「よーしっ! いくぞっ!」
青龍は私の返事も待たず、飛び立つ。
「ちょちょ、ちょっと待って」
そんな私の言葉を青龍は聞き流し、山を越えんと急上昇する。
山脈から吹き下ろす風は高度が上がるごとに強く冷たくなってくるけど、青龍は負けてはいない。物ともせずに上昇していく。