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 翌朝、白幡(しらはた)先輩はそれはもう実にいい笑顔で私に言ってくれた。

青滝(あおたき)さん。昨夜は残念でしたわね」


 やはりと言うか何と言うか、やっぱり監視していたわけですね。しかし、私はその時はもうとにかく眠くて何か言い返す気力もなかった。


 朝食に出してもらったボールツォグという小さな揚げパンとウルムというバターはとても美味しかったが、それでも私は寝ぼけ眼のままだった。


 そして、乗った馬車が昨日同様キンキラキンの上等な代物だ。揺れが適度に心地よく、私を眠りに誘う。そして、私はそれに逆らえなかった。


「ふふふ。青滝(あおたき)さん、お疲れのようね」


 そんな白幡(しらはた)先輩の言葉も聞き流し、私は眠りについていた。


 ◇◇◇


「おい、龍子(りゅうこ)起きろ。目的地に着いたぜ」


 青龍(せいりゅう)の声に私は目を覚ます。ああーよく寝た。


「ふふ。もっとよく目を覚まさせてあげましょうか?」

 白幡(しらはた)先輩はそう言いながら馬車の窓を開ける。


「寒! え? 何なの? この寒さ?」


「ふふ。青滝(あおたき)さん、外に出てみなさいよ。何で寒いか分かるから」


 白幡(しらはた)先輩の言葉に従い、私は肩をすくめながら馬車の外に出る。


 そして答えはすぐ分かった。


 北側に連なっている見上げるような高さの山脈。私の創り上げた青龍(せいりゅう)の国と北側の玄武(げんぶ)の国との間にも山脈が連なる。だけどこちらの方が恐らく高い。そこから乾いたひどく冷たい風が吹き下ろしてくるのだ。


白幡(しらはた)先輩、これは?」


「私が創ったもんじゃないよ」

 白幡(しらはた)先輩は首をすくめながら言う。

「これを創り上げたのは武哉(たけや)。おかげで隣国だっていうのに武哉(たけや)がどんな国を創り上げたのか、さっぱり分からないんだよ」


「はああ」

 いやでもすごく納得がいく。武哉(たけや)先輩らしいと言えばまさにその通りだ。


「まあそれでもね」

 白幡(しらはた)先輩は背負子を背負ってくる何人かの人を指差す。見ると凄い量の荷物を背負っている。

「あの人たちは武哉(たけや)が創り上げた玄武(げんぶ)の国からあの山脈を越えて来た人たちなんだよ。目的は交易。交易には熱心なんだ」


「はあ、どういうものを交易しているんですか? やっぱり北の国だから毛皮とか持ってくるんですか?」


「それがねえ」

 白幡(しらはた)先輩は首をすくめたままだ。

「むしろ毛皮とかはこっちが輸出しているんだよ。羊毛や乳製品、干し肉とかね。向こうが持ってくるのは」


「……」


「簡単な機械とかの加工品なんだ。正直搾乳機とか武哉(たけや)が創り上げた国からの輸入に頼っているところがある。あっちの国の人がいったんばらしてうちの国に持ち込んできて、こっちで組み立てて渡してくれるんだよ」


「輸出品が機械?」

青龍(せいりゅう)が独りごちる。そして、その眼光は鋭かった。


 何か思うことがあるのだ。だけどこの場、白虎(びゃっこ)白幡(しらはた)先輩のいるところでは言わないだろうが。


 それとは別に私はあることが気になった。武哉(たけや)先輩が創り上げた国から交易目的でくる人はあの峻険な高山を越えてくるのだ。


 普通に考えれば相当鍛えられた筋肉質の肉体の持ち主だろう。現にこれほどの高山ではないが、雀美(すずみ)先輩の創り上げた朱雀(すざく)の国も山がちで、そこの住人たちは筋肉質だった。


 ところが武哉(たけや)先輩が創り上げた国から来る人たちはむしろ細身だ。よくあんな大荷物を背負えると思えるような体をしている。それにみな目が虚ろだ。


「じゃあ青滝(あおたき)さん」


 ◇◇◇


 あ、白幡(しらはた)先輩に呼ばれた。


「私と白虎(びゃっこ)はもう行くね。いつまでも騎兵に護衛させておくわけにはいかないし。でも最後にもう一回だけ言う。雀美(すずみ)の創り上げた国より私の創り上げた国の方が強い。そして、正直、武哉(たけや)は悪い子じゃないけどつかみ所のないところがある。青滝(あおたき)さんがどこかの傘下になるつもりがあるなら、私のところが一番いいと思うよ」


「……」


「じゃあね」

 最後に白幡(しらはた)先輩は飛び切りの笑顔を見せた。


 私と青龍(せいりゅう)白幡(しらはた)先輩と白虎(びゃっこ)、そしてそのモンゴル騎兵たちを見えなくなるまで見送った。


 ◇◇◇


 改めて思い直すとやっぱり涼しいを通り越して寒い。


「昨夜の寝室よりはだいぶ落ちるが、あそこに玄武(げんぶ)の国から来た交易人が自由に使っていい小屋がいくつかあるそうだ。その一つを使わせてもらおう」


 青龍(せいりゅう)の言葉に私も頷く。

「そうだね。先のことはともかくいったん建物に入ろう」


 ◇◇◇


 小屋に入ると青龍(せいりゅう)は自分の髭を一本抜くと、小さな小さな龍を作ると小屋の中を探らせる。


「どうやらこの小屋は監視されてないな」


「ふう」

 その言葉に私も一息つく。白虎(びゃっこ)白幡(しらはた)先輩もここまでは監視しなかったか。


「いやな……」

 青龍(せいりゅう)は神妙な顔のままだ。

白虎(びゃっこ)の親父のこともあるが、玄武(げんぶ)のじじいの監視も入っているかもしれんからな」


「え? だってここはまだ白虎(びゃっこ)の国でしょう? なのに玄武(げんぶ)の監視が入るの?」


「ああ」

 青龍(せいりゅう)は頷く。

「それくらいはやりかねないと思っている」


「まあ」

 私は溜息を吐く。

「そういうこととは別に私は今回も自信なくしたけどね。雀美(すずみ)先輩も凄いけど、白幡(しらはた)先輩はもっと凄い。強い国創ってきたよ。私じゃあ勝てる気がしないよ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] それぞれ個性的な国ですね。 龍子ちゃん頑張れー!!
2024/06/04 20:44 退会済み
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