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自らの創り上げた国を誇るように語る白幡先輩。私は何も言えなかった。雀美先輩の創り上げた国も強そうだった。そして、白幡先輩の創り上げたこの国は多分もっと強い。
私は自分の家から自分以外誰もいなくなってしまったことが寂しくて、自分の家に多くの人が出入りする笑顔溢れる国を創り上げた。
だけど、それは間違っていたのではないかという気がしてきた。これは四神大戦なのだ。いくら笑顔が溢れていても戦に弱くては、その笑顔も踏みにじられてしまうだろう。
私はもはやこんなことをしている場合ではないのではないか。一刻も早く自分の創り上げた国に戻って、もっと厳しく強い国に創り変えなければいけないのではないか。
「あのう、こんだけ馬がいるってことは馬乳酒とかも飲めるんですかね?」
◇◇◇
私も絶句したが、白幡先輩も絶句した。一体何を言っているんだ。この青龍は?
「ぷっ」
だがすぐに白幡先輩は吹き出した。
「青滝さんの番様は面白い方ですね。お酒が好きなんですか?」
「はい。もうね。大好きなんですわ。いろんな酒飲ましてもらっていますが、馬乳酒はそうそう飲めるもんじゃない。飲めたら嬉しいなあ」
「ほほほ。我が国には馬乳酒の他に羊の乳から醸造したシミンアルヒもありますわ。そちらもいかが?」
「そいつあ嬉しい」
「ほほほ。青滝さんの番様は本当にお酒がお好きなんですね。お強いのですか?」
「はっはっはっ、俺あ飲むのは大好きですが、こと強さで言うなら白虎のダンナの足元にも及ばない」
「そうね」
ここで頬を染める白幡先輩。
「白虎様はお酒も強いけど、本当にいろいろなことがお強い」
何だか話が変な方向に行っちゃって、私もなんとリアクションしていいものやら分からない。
だけどそれまで煮詰まったようになっていた私の気持ちが何だかすっきりさせられたような気がしなくもない。
◇◇◇
白虎の国の王宮は朱雀の国のそれよりはるかに大きかった。
もちろん白幡先輩の創り上げた国だから、豪奢な生活をするためではない。
そして、私は今、その意味を実感している。石造りの王宮、その高さは高い。その高さはこの国の豊かさを誇示するためからくるものではない。
この場所からは草原で展開されるモンゴル騎兵たちの演習ぶりが一目瞭然なのだ。それは素人目にも極めて練度が高く、規律が取れているのは簡単に見て取れた。
この白幡先輩の創り上げた国と私が創り上げた国が戦争になったらどうなる? 万に一つも私が創り上げた国の方にはないだろう。
なのにこの青龍ときたら何だ? 馬乳酒とシミンアルヒをぐびぐび飲んで、テーブルの上に所狭しと並べられた羊、山羊、牛の肉料理をがつがつ食べて(馬はパートナーとして扱うため馬乳は飲用に供しても、屠殺して肉にするのはタブーとされているそうだ)、白虎の「どうだ? 俺の国の騎兵は?」という問いにも「もごもご、さすが凄いっすね。もごもご」と。
! だけど私は気づいた。青龍は一見飲み食いにかまけているように見える。いや、そう見えるように仕向けているのだ。明後日の方を見ているようでしっかり騎兵たちの動きを目で追っている。
そんな私に白幡先輩が声をかけてくる。
「青滝さん、どう凄いでしょう? 私の創り上げた国は?」
私は神妙な様子を見せ、こう答える。
「はい。凄いです。強い国ですね」
その回答に白幡先輩は満足そうに微笑む。
「そう。先に見た雀美の国より強いかしら?」
うぐ、やはりそれを聞いてきたか。ここは。
「はい。白幡先輩の国は雀美先輩の国に劣ることはありません」
「そう。だったら、あなたの創り上げた国、私が創り上げた白虎様の国の傘下にならない? 守ってあげるわよ。雀美の創り上げた朱雀の国から」
やっぱりそう来たか。さてここはどう答えようか。
「ありがたいお話ではあるんですが、実はこの後玄田武哉先輩の創り上げられた国にもお伺いさせていただこうかと思っていまして、その答えはその後までお待ちいただけますと」
「ふーん」
白幡先輩の表情が冷たくなる。あわわわわ。
「まあいいけどね。ただまあ武哉がどこまで見せてくれるか、怪しいと思うけどね」
それはそのとおりでございます。恐らく武哉先輩は三人の先輩方の中では最もガードが固い。ぱっと見は文芸部一、人当たりが柔らかいけど、実は奥の深さも文芸部員の中では群を抜いている。
◇◇◇
「ぷはー、飲んだ食った飲んだ食った」
後方では青龍が満足そうな声を上げている。
「何だ何だ? もう飲まないってのか?」
「そりゃあ白虎の親父に比べれば俺なんざ飲めやしないよ。まあ俺が白虎の親父に敵うとこなんか何もないけどさ」
「そうかそうか。でも我が国の食い物と飲み物は全部美味いだろ。何しろ俺の番の虎威の想像力・創造力・表現力が創り上げた国の産物だからな」
「おうっ、何でも凄え美味いぜ」
「そうだろそうだろ」
白虎は満足そうだ。