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「ただ?」
「『第11回エレクトリックボードノベル大賞』に入選された白幡先輩の想像力・創造力・表現力からすると雀美先輩の創られた国と比べても、勝るとも劣らないのではないかということは容易に予想がつきます」
「ふふ」
微笑む白幡先輩。衣服はデールに変わったけどお嬢様っぽさは変わってないなあ。
「無難でお上手なお答えね。文芸部での経験が生きているようね」
「……(恐れ入ります)」
「では、私が創った国を青滝さんに見せてあげる。きっと雀美ではなくて、私についた方が得だと分かるでしょうからね」
うーん。雀美先輩もそうだったけど白幡先輩も自信満々だなあ。何だか白幡先輩の創った国を見たら、私は更に自信喪失しそうだけど、見ないよりは見た方が絶対いいはず。相手のことを知らずに闇雲に恐れるより、相手を知って恐れる方がましな……はず。
「私も白幡先輩が想像力・創造力・表現力で創られた国を見たいです」
「では青滝さん、我が国の贅を尽くした馬車でご案内するわ。青龍様もどうぞ。ねえ白虎様、私、帰りは青滝さんたちと一緒に馬車に乗ってもいいでしょう?」
「おうっ!」
イケオジホワイトタイガー白虎。元気よく応じる。
「可愛い妹分に虎威の想像力・創造力・表現力で創った国の凄さを存分に見せてやれや」
「言われなくてもそうするよ」
白幡先輩、いい笑顔。雀美先輩と朱雀もそうだったけど、白幡先輩と白虎も番として絆が深いみたいだ。
そう言われると私と青龍はどうなんだろうなあ。もっと距離を縮めるべきなんだろうか。いやっ、いやいや。それはそれ。これはこれ。よそはよそ。うちはうち。簡単には流されんぞ。
「おーい。龍子帰ってこーい。先輩が馬車の前で扉を開けてお待ちだぞ」
わっ、よりによって青龍に言われたよ。全く誰のおかげでこっちがこんなに悩む羽目になっていると思ってんだ。
「あらあら」
白幡先輩にっこり。
「青滝さん。ちょっとご機嫌斜めね。私と白虎様のように仲良くしなきゃ駄目よ」
くっ、何だか身の置き所がないような。しかし、めげてられるか。私だって私が創り出した国の民の笑顔を守りたいのだ。あなたの創り上げられた国、じっくり見せてもらいますよ。 白幡先輩。
「あら少しご機嫌が直ったみたいね。では青滝さん、馬車に乗って」
いかんなあ。ここは冷静さを取り戻さないと。白幡先輩の手のひらで踊らされることになりかねんぞ。
◇◇◇
「では私の創った国をよく見てもらうために窓を開けましょう」
そう言うと白幡先輩は慣れた手つきで馬車の窓を開ける。
窓から吹き込んでくる風は「涼しい」。さっきまでいた朱雀の国が南の夏の国だったのに対し、ここ白虎が西の秋の国だからだろう。
朱雀の国のように激しい熱気も感じられないが、私が創り上げた青龍の国の風のような柔らかい温かみもない。凜とした冷たさを感じる。この辺は私が持ち得ない厳しさを持っていると言えなくもない。
外を見回せば一面の草原だ。私が創り上げた国も広大な草原を持つがこの国はスケールが違う。私が創り上げた国には草原のほかに高山、大河、森林もかなりの面積を占めるが、この国は僅かに森林が点在するのみで、後は一面の草原だ。
そこには何もいないわけではなくて羊たちが草を食んでいたりする。それだけならまさに文字通りの牧歌的風景なのだが……
「おい。この馬車。速度がやけに速くないか?」
◇◇◇
青龍も何かに気づいたようだ。ここはまずその話を聞いてみよう。
「ふふ」
またも微笑を浮かべる白幡先輩。
「気づかれましたか? 青龍様」
「そりゃあ気づきますよ」
青龍は言い方は砕けているが、顔は真剣だ。
「決まった距離を全速力で走らせればこのくらいの速度も出るでしょう。だけど、ここから王宮までは結構距離がありますよね。この速度で走り続けてれば絶対バテる。それとも途中で駅があって、馬を替えるのですか?」
「いえ。馬は替えませんよ。このまま王宮まで行きます」
白幡先輩は微笑んだままだ。
「それで馬はバテないんですか?」
「バテませんわ。だって我が国の馬は全て『汗血馬』ですもの」
! 「汗血馬」!
中国史上に名高い名馬の品種。三国志に出てくる赤兎馬もそうだった。一日に千里を走ったという。
改めて馬車の窓から外を見つめてみる。馬車の周囲を護衛するモンゴル騎兵たち。彼らが駆る馬はみな精悍だ。
「この国に生まれし子どもたちはみな七歳の誕生日を迎えると共に一頭の子馬を与えられる。男女共にだ。その日より全ての子どもは母親のもとを離れ、自分の馬と共に生活する。このことによりこの世界随一のまさに人馬一体となった最強の騎馬軍団が形成される」
これだ。これが白幡先輩の想像力・創造力・表現力だ。雀美先輩とはまた違った力で強い国を創り上げてきた。
「青滝さん、あれを見て」
白幡先輩が指した先には乗馬したまま羊を追う者が、いや、あれは……
「白幡先輩、あの馬に乗って羊を追っているのは女の子? しかもぱっと見十歳になっていない子?」
「そう。羊を追うのは馬を一通り乗りこなせるようになった子どもたちの最初の仕事。この国の民にとって馬は靴と同じ。外出時には普通に乗るものなの」