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「え? 兵隊。そんなん無理だって。俺の国と白虎の親父の国は直接接してないじゃん。だから、朱雀の国通って来ているんだけどさ。あの朱雀が俺が兵隊連れて国を通るなんて許してくれるわけがないじゃん」
「あ、そうそう。俺と俺の番だけだよ。前も言ったじゃん。おれが白虎の親父に一目置いているように、俺の番も白虎の親父の番に一目置いているんだよ。だからさあ、白虎の親父の番が創り上げた凄い国見せてよ」
「ん? 国境を越えて五里ほど行ったところに一里四方の森がある。そこの北側の入り口前で人間体になって待っていろ? 馬車で迎えに行く。うんそれはありがたいけど、大丈夫かね? 森って言ってもたくさんあるんじゃ? 何? その心配はいらない? 行ってみれば分かる? 分かった。行ってみるよ。着いたらまた通話するわ」
私はちょっとわくわくした。
「馬車で迎えに来てくれるの? 私、馬車に乗ったことないんだ。楽しみだな。随分丁寧に出迎えてくれるんだね」
「ふっ」
青龍は軽く笑う。
「馬車を龍子が楽しみにしているなら何よりだが、丁寧な出迎えってわけでもなさそうだぜ」
「え?」
私は少し警戒する。
「ひょっとしてすっごいボロボロでガタガタの馬車で迎えに来るかもってこと?」
「ああ、それはない」
青龍は即座に否定する。
「朱雀の野郎もそうだったが、白虎の親父も一番気を使っているのは自分の国の民の目だ。白虎の親父が唯一絶対神として教えてところに龍の俺が飛んできた日にはいろいろ都合がよろしくない」
「ボロボロでガタガタの馬車はないの?」
「ああない。おれたちゃ一応国賓だからな。丁寧な出迎えでないと言うのは……」
ドカカカカッ ドカッドカッドカッ
その時、青龍の言葉を遮るかのように凄まじい音がした。
「何? この音? 怖い」
思わず私の口からそんな言葉が出る。
その言葉に青龍はニヤリとする。
「安心しろ。龍子は何があっても俺が守るから。それでも不安だってのなら今この場で俺に抱きついたっていいんだぜ」
私はそんな青龍に、よく言えば冷静になった。悪く言えば冷めた。
「私は青龍の番じゃないから抱きついたりなんかしませーん」
青龍は私のそんな返しに、何とまたもやニヤリと笑った。
「それでこそ龍子だぜ。じゃ落ち着いたところで、何が起こっているのか。この音のもとを見てみろや。これも白幡虎威がその想像力・創造力・表現力で生み出したもんだぜ」
「!」
そうだった。怖がっている場合じゃない。何が起こっているのか、しっかりと確認しなければ。
私は顔を上げた。音のする方を見据えた。そこにいたのは……
◇◇◇
「騎兵隊? いやあれは……」
私は思い出した。
「あれは『モンゴル騎兵』だ」
白幡先輩は、西域のような異世界を舞台にした恋愛物語を得意としていた。そうだ。これは確かに白幡先輩が想像力・創造力・表現力で生み出した世界だ。
やがてモンゴル騎兵の先頭を走る白馬の姿がはっきりと見えてきた。馬を駆るのは鎧をまとったイケオジホワイトタイガー、そう、白虎だ。
そして、その白虎の背中に抱きついている真っ白なデール(モンゴルの民族衣装)を身につけている女性こそ「第11回エレクトリックボードノベル大賞」唯一の入選者白幡虎威先輩だ。
二人の騎乗した白馬を先頭に多くのモンゴル騎兵が続く。それらが囲んでいるのはキンキラキンの馬車だ。
青龍が言ったとおりボロボロでガタガタの馬車ではなかったけど、がっちがちに監視されるためのお迎えだわ。確かに丁寧とは言えないね。これは。
◇◇◇
「白虎の親父、お忙しいところの出迎え、すまねえ。しかもあんな絢爛豪華な馬車まで用意してもらっちゃって」
「ふん」
白虎は馬上でふんぞり返る。心なしか白幡先輩もふんぞりかえっているような気もする。
「こっちも暇じゃあないんだがな。まあ青龍がそこまで頭を下げるってんなら仕方ねえ。それに青龍の番は白虎の番の可愛い妹分だって言うじゃないか」
はあ、私が白幡先輩の妹分。雀美先輩も同じようなこと言ってたしなあ。モテる女はつらいぜ。じゃなくて四つしかない国の一つを傘下にすれば、それでもう半分は制したことになる。随分有利になるもんなあ。
「ありがてえぜ。青龍はもとより白虎の親父に刃向かおうなんて気はありゃしねえ。それに加えて、白虎の親父のすげえ番の想像力・創造力・表現力で創られた国を見せたら、そんな気はまるっきりなくなるわ」
「ふっ、そうかそうか」
青龍にうまいこと乗せられた白虎は上機嫌だ。
「青滝さん」
おおう、今度は馬上から白幡先輩が私をお呼びだ。
「はっ、はひ」
「ふふふ。何でも私が創った国に来る前に雀美が創った国を見てきたそうね。どうだったかしら?」
うぐっ、答えにくい質問を初手からぶつけてきましたね。ここは断じて両先輩のどちらかをおとしめる回答は禁忌。だが、私とて伊達にこの数ヶ月というもの四神高校文芸部で過ごしてきたわけではないわ。
「雀美先輩の創られた国は一人一人が強靱な身体を持つ、戦いに長けた強い国だと思います。少なくとも龍子が創った国よりは。但し……」
「但し?」
「白幡先輩の創られた国より強い国かどうかは分かりません。まだ白幡先輩の創られた国を見ていませんし。ただ……」