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旅立つ時は来た時と同様に、まず朱雀が本来の姿に戻る。神殿中に「おおおお」という歓声が上がる。
続いて青龍が本来の姿に戻るが、これは全く歓声は上がらない。この国の唯一絶対神は朱雀。そう徹底的に教育されているのだろうなあ。
私が青龍の背に乗ったことを確認した朱雀はその両翼を大きく羽ばたかせ飛び立つ。
またも上がる大きな歓声。私をその背に乗せた青龍はゆっくりとその後をついていく。
「雀美は龍子が正しい判断をすると信じている。待っているよ」
うわあああ。雀美先輩、最後にまた言ってくれましたな。はあーっ、どうするべ。
私は思わず口にする。
「ねえ青龍。私もいろいろ考えたんだけどさあ」
「すまねえ。龍子。今は朱雀の兄貴についていくだけで精一杯なんだ。落ち着いたらこっちから話しかけるからちょっと待ってくれないか」
! 私はすぐに察した。朱雀の「兄貴」と言うのは、まだ私たちの会話が朱雀に聴かれることを警戒しているのだ。
「兄貴」と言っているし、青龍の能力からして、朱雀についていくのが大変というのは考えにくい。ここは沈黙が吉だね。
朱雀はこの国の神殿から見えないところまで飛んでくると振り返った。
「じゃあな。白虎の親父と玄武のじじいの国もよく見てこい。見れば見るほど俺様の国が最強だとよく分かるだろうからな」
朱雀。さすがは雀美先輩を番に選ぶだけある。見事な俺様キャラだなあ。
「いやあ朱雀の兄貴。世話になったわ。言われたとおり白虎の親父と玄武のじじいの国をよく見てくるわ」
「じゃあな」
朱雀はこの後は振り返りもせず飛び去っていった。
◇◇◇
朱雀の姿が見えなくなってから、また私は話を切り出した。
「ねえ青龍」
「まあ待てって」
青龍のその言葉と共に青龍の頭を飛び越え、小さな虫が私の前に降り立った。
よく見たらそれは小さな小さな龍だった。
「何これ可愛い」
「青龍の髭を抜いて作った青龍の分身だ。もう一匹、朱雀の神殿にも置いてきた。意識して見ないとカマキリにしか見えねえ」
自分の分身をカマキリと呼ぶのも何だが。
「この子何をしてくれるの?」
「朱雀の神殿にも置いてきた一匹が朱雀とその番の会話を聞いている。青龍の背中にいる一匹はその情報を受信して話してくれるんだ」
神様の作った盗聴器ってわけだね。
◇◇◇
「お疲れ様―。朱雀」
うん、これは雀美先輩の声だね。
「おうっ、神殿と国境との中間くらいまで送っていったわ。青龍たちも後は自分たちで白虎のところに行くんだな」
「雀美も龍子が何か言うかなあとも思ったけどこの国の凄さに驚いたみたいで神妙だったわ」
「おう、青龍の野郎も小賢しいとこがあるが、柄にもなく神妙に組み手見てやがったからな。分かったんだろうよ。こっちの強さが」
「傘下につけと言ったけど、龍子は虎威や武哉の国を見てから決めると言った。まあでも最終的には傘下になるだろうけどね」
「おう。朱雀と雀美の作った国は最強だからな。まあそんなことよりな……」
ドサッとベッドの上に倒れ込む音がした。
「うっ、うーん。これ以上は聴かないのがマナーってもんだね」
「だってよ。小龍お疲れさん。休んでくれ」
小さな小さな龍さんはその場に座り込むとそのまま寝入った。それもまた可愛いね。
◇◇◇
ようやく普通に会話出来るようになった私は青龍に声をかける。
「ねえ青龍。私は間違っていたのかな?」
「ん? 何がどう間違っていたと思うんだ?」
「だってさ。私の想像力・創造力・表現力で創った国は豊かで穏やかで笑顔の溢れるいい国だとは思う。でもさ。でもさ」
「……」
「雀美先輩の創った国と戦争になったら負けちゃうよね。あんな拳法の練習ばかりしている国と戦争になったらボロボロにされちゃうよ」
「うーん。そうとも言えないんじゃないか」
「!」
青龍の言葉に私は驚く。
「どういうこと?」
「確かにな、龍子の創った国と朱野雀美の創った国。おのおのの国民が一対一でケンカしたら、あっちの圧勝だろうな。でもな国同士の争いは必ずしも一対一のケンカってわけでもないよな」
「!」
何かヒントがつかめそうな気がした。
「それよか。もう白幡虎威が想像力・創造力・表現力で創った白虎の親父の国に入る。まだ朱雀の野郎の国にいるうちに白虎の親父と通話する。すまねえがちょっと静かにしていてくれねえか」
「……」
うーん。もうちょっとで何かつかめそうだったのだが。
◇◇◇
「おう、白虎の親父かい。俺だ。青龍だ。え? 何の用かって? いやいや、お世話になっている白虎の親父の国を表敬訪問したいのですよ。え? 何を企んでいる? やだなあ。俺が何か企んだって白虎の親父にかなうわけがないでしょうが」
何か朱雀の国に入る時と同じパターンだなあ。