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龍子(りゅうこ)。俺は争いごとは嫌いなんだぜ。ま、それはともかく今回はケンカしに行くわけじゃねえ。善隣外交の名の下の『偵察』だ。下手にも出るさ」


「結構考えているんだねえ。青龍(せいりゅう)も。あ、そう言えば(つがい)朱野雀美(あけのすずみ)先輩だっけ。四神(ししん)高校文芸部一番の武闘派だしなあ。私もつまんないことでケンカにならないようにしないと」


龍子(りゅうこ)は話が分かるんで助かるわ。ここでそんな卑屈なのはやめろとか言ってくる(つがい)だとやりにくくてしょうがないからな。さすがは俺の選んだ(つがい)だ」


 青龍(せいりゅう)、それは私を褒めているのか? それとも自分の見る目を自慢しているのか? 少々くすぐったいような気もするが、

「いやあまだまだほだされんぞ。私はそんな安い女じゃないからな」


「あー、朱雀(すざく)の兄貴か? 俺だ。青龍(せいりゅう)だ。いろいろ慌ただしいとは思うが、これから表敬訪問させてもらえねえかな?」


 うっ、青龍(せいりゅう)の奴、私の言葉を無視して、早くも朱雀(すざく)と話してやがる。それにしても体内にスマホみたいな機能を持っているのかな?


「何を企んでいる? やだなあケンカが強い朱雀(すざく)の兄貴相手に小細工したって通らないだろうがよ。兵隊なんか連れて行かないぜ。俺と(つがい)だけでの訪問だ。もっとも俺が兵隊連れて行ったところで朱雀(すざく)の兄貴にゃあ勝てないだろうがよ」


「もう本当。単なる表敬訪問でございますよ。そうだねえ。朱雀(すざく)の兄貴とその(つがい)様の創られた国の強いとこをちょっと見せてくださいよ。そうしてもらえればこっちも逆らおうなんて気が完全になくなるしね」


「いよっ、太っ腹だねえ。さすがは朱雀(すざく)の兄貴。いえね俺も(つがい)も隅っこの方に二つ席作ってくれりゃあ十分なんで、え? 一番よく見える席を用意してくれる? 朱雀(すざく)の兄貴の(つがい)様も俺の(つがい)に会いたがっている? そいつあどうも」


 げげっ、朱野雀美(あけのすずみ)先輩、私に会いたがっているのか。またバンバンご自分の想像力・創造力・表現力の凄さをアピールしてくるぞ。


 まあ、ためになることもたくさん聞けるし、全部が全部嫌というわけじゃない。ただ、凄く気を使う。四神(ししん)高校文芸部一番の武闘派だしなあ。


「いや今でもね、朱雀(すざく)の兄貴にはかなわないと思っているんだけど、んじゃまた神殿に近づいたら連絡するわ」


 ◇◇◇


「ふいー」

 青龍(せいりゅう)が溜息を吐く。

「いやあ気を使った。使った」


「お疲れ様」

 私はそういうと青龍(せいりゅう)の水色の背を撫でた。


「何の何の。我が最愛の(つがい)である龍子(りゅうこ)の創り上げた国を守るためなら、いくらでも頭なんか下げるさ」


 くっ、まだまだほだされんぞ。 

 

 ◇◇◇


 国境を越え、青龍(せいりゅう)と私の国から朱雀(すざく)朱野雀美(あけのすずみ)先輩の国に入ると熱気は一段と強くなった。まさに南の夏の国だなあ。


 そして、朱野雀美(あけのすずみ)先輩の創り上げた国かと思うと妙に納得がいくから不思議だ。


「おーい龍子(りゅうこ)。いよいよ朱雀(すざく)の国だ。よく見てくれよ」


 そんな青龍(せいりゅう)の呼びかけに私は下を眺める。


「!」


 私の創り上げた国は一面緑の緩やかな草原の国だったが、朱野雀美(あけのすずみ)先輩の創り上げた国は山また山。それも先端が丸かったり平らだったりするいわゆる高原ではなく、峻険な峰が連なる山地だ。


 山と山の間にほとばしる激流が走る。その下った先には森があるが、私が創り上げた森とは違う。鬱蒼とした熱帯雨林だ。ところどころに小さな集落があるが、殆どが険しい山か熱帯雨林だ。その中を人は懸命に生きている。


「厳しい……」

 そんな言葉が不意に口から出る。朱野雀美(あけのすずみ)先輩の国創りの考え方は私とは全然違う。


「人の数は少ないな。生活環境が厳しいんだろうな」

 青龍(せいりゅう)は呟くように言う。


 その言葉に私はもう一度地上を見る。険しい山道を歩く人の姿が僅かに見える。熱帯雨林の方にも人はいるのだろう。だけど、その数はそう多くはあるまい。


「見えたっ!」

 

 その青龍(せいりゅう)の声に私も前方を見る。一際大きな集落が見える。あれがこの国の都なんだろう。


朱雀(すざく)の兄貴。聞こえるか。俺だ。青龍(せいりゅう)だ。都が見えた。これから低空飛行に入るがいいか?」


「え? 迎えに出るからその場で待て? 分かった。兄貴、すまねえ。神殿まで誘導してくれるとは」


 青龍(せいりゅう)はその場で中空に留まる。

「でも迎えに来てくれるなんて、朱雀(すざく)青龍(せいりゅう)に一目置いているんじゃないの?」


 そんな私の問いに青龍(せいりゅう)は首を振る。

「違うって、俺が龍の姿のまま神殿に降り立ったら、どうしても人目につく。神として信仰されている朱雀(すざく)に匹敵する存在が現れたってんで、動揺する民も出てくる」


「……」


「その点、朱雀(すざく)が俺を誘導して、神殿に降り立てば、朱雀(すざく)が俺を従えているように見える。奴もそういう計算をしているのさ」


青龍(せいりゅう)の言葉のとおり、私たちが待つ中空に朱雀(すざく)はその翼を大きく羽ばたかせながら現れた。


朱雀(すざく)は一瞬だけ青龍(せいりゅう)の目を見るとすぐに背を向け、「ついてこい」とだけ言うとまた羽ばたき、この国の都に向けて、ゆっくりと降下していった。


「ふっ」

 青龍(せいりゅう)は小さく笑った。それは「どうだ。俺の言ったとおりだろう」という意味だった。


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