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「よし。行くぞ」
青龍はそう言うが早いか、人間体から龍の姿に変わる。
…… 私は言葉を失う。悔しいが綺麗なのだ。青龍と言うものは、体色が濃緑だと思い込んでいたが、綺麗な水色なのだ。あの子どもたちがこれを見れば、「綺麗。綺麗」と言って触りたがるんじゃないかな。
あ、それで思い出した。
「青龍、私が不在の間も子どもたちは私の家に訪ねてくるよね。何回も訪ねてきて私がいなかったら寂しい思いしちゃうんじゃないかな? 何とかならないの?」
「私の家って、確かにあれは龍子の元いた家そっくりだが、あれは俺の鎮座する『神殿』だぞ」
青龍は龍の姿のまま苦笑した。いやあれはどう見ても私の家だろう。
「まあいい。俺は龍子のそういうところも好きで番に選んだんだからな。子どもたちに寂しい思いさせたくないというのなら、龍子の想像力・創造力・表現力で対応してみ」
やっぱそれか。だけど私の紡ぐ言葉でみなが幸せになるなら、それは嬉しい。
「私の家、いや、神殿の居間に置かれているテレビ受像機。それを通じて神殿にいる子どもたちは青龍の番がその場におらずとも画面を通じて会話を楽しめる。番の方では手持ちのスマホで対応している」
気がつけば私の右手の中にスマホが収まっていた。
「ははは」
青龍の苦笑いが聞こえる。
「前回の四神大戦に参加した親父はスマホなんて想像もできなかっただろうな。それにしても龍子、もうすっかり自分で自分の事を番と言っているが、もう番になってくれるということでいいのかな?」
私は首を振る。
「それはそれこれはこれ。自分で自分のことを番と言うけど、それはあくまで便宜上の話」
「へいへい」
青龍はまた苦笑する。
「何度でも言うがおれは紳士だからな。龍子がその気になるまでいくらでも待つ。そして、龍子は必ずその気になる」
くっ、何その自信満々ぶり。全然こっちの心に響かないなら華麗にスルーだが、結構刺さるから困る。しかし負けんぞ。私はそんな安い女じゃありません。
◇◇◇
「青龍。今更だけど、今回はこの世界に来た時と比べて、何だかゆっくりと、しかも、低空を飛んでいる感じだけど、何でなの?」
「ああ」
青龍はそんな私の問いに穏やかに答える。
「だって下を見てみろよ」
! 私にも見えた。草原の上で、耕地の上で、街の中で、そして、学校とおぼしきところで、青龍とその背に乗る私を見上げ、手を振る無数の人々。
「みんな口々に何か言っている。何て言っているのだろう?」
「龍子の想像力・創造力・表現力で綴ってみ。聞こえるようになるだろ」
青龍の言葉に私は文章を綴る。その国の神が、その本体である龍の姿を現し、番を背に乗せ、厳かにその空を舞うとき、その国の民は最高の敬意と笑顔をもって手を振る。そのとき発する言葉は……
「神様―っ、番様―っ」
「神様―っ、番様―っ」
「ふふ。やはりそうか。それもあるが、ここでよく見ていけよ。龍子がその想像力・創造力・表現力を駆使して創り上げたこの国をな。そして、これから見ることになる白幡虎威、朱野雀美、玄田武哉がその想像力・創造力・表現力をもって創り上げた国々と対比してみるんだ。そのことが……」
「そのことが?」
「この四神大戦を勝ち抜くための鍵となる。そのことが龍子が強く望むこの国の民の笑顔を守ることに繋がる」
! 緊張感が走った。だけど、青龍の言葉に従い、下を見下ろした私から出た言葉は
「緑だ」
北に連なる山脈の山頂付近こそは白いが中腹からは緑あふれる大森林だ。森林は山麓まで広がり、その先はやはり大規模な果樹園だ。
「やはり『緑』」
その先も馬や牛が草を食む草原。
「すなわち『緑』」
更にその先は米や麦の農場。
「これまた『緑』」
当たり前だが、まあよく見れば「緑」以外の色もなくはない。私の家、いや青龍が言うところの「神殿」近くの都は建物が集まって白い。他にもいくつか町があって白い。
しかしだ、圧倒的に「緑」である。これでもかと「緑」である。
「私の想像力・創造力・表現力をもって創り上げた国は『緑』なのだ」
「はあっはっは」
青龍は今度は爆笑した。
「『緑』いいじゃないか。豊かな国だってことじゃないか。人が笑顔で暮らしやすいって国ってことは人も増える」
私だって自信があって国創りをしているわけじゃない。何か悔しくもあるが、青龍にそう言ってもらえるとホッとするのも事実だ。
◇◇◇
今までずっと受ける風は柔らかく温かだった。それが徐々に徐々に温度が上がっていき、ついには暑く感じるようになった。
「これは一体?」
「朱雀の国に近づいてきているんだ。朱雀の国は南の夏の国だからな」
朱雀? あの真っ赤な中国拳法のような服をまとった少年の国?
「そうだ。本体は赤い翼を持った鳳凰だがな。四神の中では唯一俺より年下だ。だがそれを言うと五十歳しか違わないだの、自分の方が貫禄があるとか言って、怒り出すからな。今回は『兄貴』と呼んで顔を立てることにするわ」
「五十歳しか違わないというのも人間の私からすると凄いけど、随分と下手に出るじゃない? 何か青龍らしくないというか」