10(第二章完結)
「まあ聞けって。親父の選んだ番は誰だったと思う? 藤原香子だぜ」
「藤原香子って、まさか紫式部?」
「白虎の番は清原諾子とか言ったな。朱雀の番は、えーと菅原とか言ったな。玄武の番も藤原何とかだったな」
「清少納言に菅原孝標女に藤原道綱母ね。前回は凄い方々が番だったのですね。しかし、それも私が三人の先輩に負けないという根拠にはなってないよね」
「いいか龍子。そのそうそうたる番の中で俺の親父は勝ったんだ。一番優れた番を親父は選んだんだよ」
「!」
「その番の能力を見抜く目を俺は親父から引き継いでいる。安心しろ。龍子の想像力・創造力・表現力は他の三人に負けるもんじゃない。ちゃんとした根拠があって言っているんだ」
何かそれもちゃんとした根拠とは言い難いような気がしなくもない。青龍のお父さんに番の能力を見抜く目があったのは事実なんだろうけど、それが今の青龍に引き継がれているかなんて分からないし。
でも何となく元気が出てきたような気がしなくもない。私は青龍にうまいこと乗せられているチョロインなのかもしれない。でも悪い気もしない。何か自分で自分が浮ついているような気もするが。
「でもまあ」
「ぬ? 私も何となく気持ちが持ち上がってきたけど、何かまだ話があるの?」
「龍子が何となく不安だってのは俺にも分からんでもない。そうだな。ここは一つ敵情視察といこうか」
「へ?」
「白幡虎威、朱野雀美、玄田武哉の三人がその想像力・創造力・表現力を行使して創った国を見てこようってのよ」
「えーっ」
「ほら言うだろう。敵を知り己を知れば百戦危うからずってさ。己を知ることも大事だが、そればっかりじゃ煮詰まっちまう。敵も知らないとな」
「でも大丈夫なの? 『敵』なんでしょう? そんなによく見せてくれるかな?」
「うーん」
ここで青龍は考え込む。あれ?
「朱雀の野郎と白虎の親父は見せてくれると思うよ。あいつらは自分たちの強さを誇示することで、相手を怖がらせて萎縮させて有利にことを運びたいという考えだからな。問題は玄武のじじいだ。うまいこと見せてやっているという形はとってくるだろう。だが、本当の肝になるところは見せない形をとるだろうな」
あー、何となく分かる。番のみなさまもそうだもの。白幡虎威先輩と朱野雀美先輩は、ここはこうやったとかここに力を入れたとかここの表現に気を使ったとか惜しげもなく教えてくれる……と言うかアピールしてくる。
しかし、玄田武哉先輩は別だ。なるほど、通り一遍のことは話してくれる。しかし、要になるところはミステリアスかつ底の知れぬ恐怖を感じさせる微笑を浮かべ、スルーしてくるのだ。
「まあでもそれを心配したって始まらねえ。肝心のところ隠されても見ると見ないじゃ大違いだからな。見る方がいいに決まっている」
「見に……行くの?」
「ああ、行こう。龍子が想像力・創造力・表現力で創ったこの国を守るためにな」
私は少し考え、そして、大きく頷いた。行こう。見に行こう。私の創ったこの国を守るために。
「第二章 建国」はここで完結です。
次話から「第三章 彷徨」に入ります。