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挿絵(By みてみん)

自作AI生成イラストです。


第一章は、ありま氷炎様主催の「第九回春節企画」参加作品です。

 帰宅したら家は真っ暗だった。


 私は大きな溜息を吐こうとしてやめた。こんなことは昨日今日始まったことじゃないし、これからも続くだろう。


 ダイニングの明かりを点けるとテーブルの上にお(さつ)が分かれて一枚ずつ置かれていた。


 一つは五千円札。これは母。もう一つは一万円札。これは父のだ。


 双方とも夕食代とのこと。父の方が金額が高いのは、母が先に五千円札を置いていたのを見て、母より自分の方が高い金額を渡したぞと言いたかったのだろう。


 ◇◇◇


 我が家は父がその名前を言えば多くの人が知っているであろう商社の部長。母は本職よりテレビコメンテーターとしてその名を馳せる大学教授。


 端から見ると恵まれた家庭に見えるかもしれないが、私が生まれてしばらく経った後、父が愛人を作ったことで夫婦仲は破綻。対抗するかのように母も愛人を作り、私は祖母に育てられた。その祖母も昨年他界してしまった。


 そうなると父も母も更に家に寄りつかなくなったが、それでも一人娘が栄養失調になっただの、貧窮のあまり汚い格好していたとかなると世間体が悪いと思っているらしく、生活費だけは潤沢に置いていってくれている。


 まあ、そのおかげで私も好き勝手やらしてもらっているわけだが。


 ◇◇◇


 夕食を冷蔵庫に保管していたラップで包まれたご飯、作り置きの野菜炒め、野菜サラダ、インスタントのカップ味噌汁で済ませた私は二階の自分の部屋に向かった。


 というか今となってはこの家全部が私の部屋なのだが、この辺のけじめをつけたい気持ちは残っている。


 部屋に入るとすぐにパソコンのスイッチを入れる。豊富な生活費のおかげで通信環境には惜しみなく予算をつぎ込めている。この点は実に快適だ。


 開くページは「第11回エレクトリックボードノベル大賞」。今日の20時が最終選考の発表日なのだ。もちろん私も参加しているが、同じ高校の文芸部の先輩三人も参加している。いずれも劣らぬ猛者たちだ。


 ページを開くと一番上の大賞は「該当者なし」。やっぱりこのコンテストは厳しい。今回で11回目だけど、大賞受賞者が出たのは一回だけだったはずだ。


 下を見ていくと「入選 1名」。入選者は「白幡虎威(しらはたとらい)」。うーんやっぱり白幡(しらはた)先輩か、ということは……


 「朱野雀美(あけのすずみ)」「玄田武哉(げんだたけや)」佳作。うーんこれは。明日は玄田(げんだ)先輩はともかく、朱野(あけの)先輩と白幡(しらはた)先輩の間には血の雨が降るんじゃ。


 あ、いけないいけない。人の心配しているだけじゃなくて、自分はどうだ。えーと、私、青滝龍子(あおたきりゅうこ)はあー、また奨励賞かあ。


 でもまあ他の学校に行った友人に言わせるとうちの高校、四神(ししん)高校は無茶苦茶なんだそうだ。普通は二次選考通れば大喜びで、文芸部員四名が全員最終選考に残り、何らかの賞を受賞するというのは考えられない現実だと言っていた。 


 そう考えると私が奨励賞を取れている現実をこそ喜ぶべきなのだろう。私から見ても三人の先輩方の才能は凄い。大した才能のない私が張り合うべきではないのだろう。うん。そうだ。そうに違いない。


「本当はそんなふうに思ってないのだろう」


 ◇◇◇


 不意に声がした。若い男の声だ。父の声ではない。


 振り向くと濃い緑色の古代中国の文官服のようなものを身にまとった若い男性が一人。見たところ二十歳くらい? ウエーブのかかった長い黒髪を縛りもせず垂らしている。


 スリムな長身。色白で目鼻立ちはすっきりとし、私好みのイケメンではある。しかし、あの前頭部についた二本の角は何だ? 文官服ともどもコスプレか?


 いかんいかん。見入っている場合ではない。どんな理由があれ、無断で人の家に入り込めば、それは「不審者」。たとえそれが私好みのイケメンであったとしてもだ。


「不審者さん」

 私は右手にスマホを握りしめ声をかけた。

「この家には女子高生が一人しかいないと知って、侵入したのでしょうが、こちらもこういった場合の対策は考えてあります。110番通報される前に出て行った方がよいですよ」


 それを聞いた「不審者」は一向に動ぜず、逆にどっかとその場に腰を下ろすと話し始めた。

「まず『不審者』じゃねえ。青龍(せいりゅう)っていう神だ。そんで龍子(りゅうこ)がそのスマホで警察を呼ぶのは勝手だが、呼んで(いぶか)しがられるのは龍子(おまえ)だぜ。俺の姿は特定の人間にしか見えないからな」


 くそっ、イケメンは得だな。そういう俺様な態度もポイントアップになるから。しかし、ほだされんぞ。

「初対面の人に『おまえ呼ばわり』や『下の名前で呼ぶ』のは失礼ですよ。それに私は『特定の人間』なんかじゃありません。私に見えるものは誰でも見えるはずです」


「いや。龍子(おまえ)は『特別な選ばれし人間』だよ」

 「不審者」こと青龍(せいりゅう)はついにその場に横になり、右腕で自分の頭を支えた。

「俺たち『神』を見ることが出来る人間は四人しかいねえ。白幡虎威(しらはたとらい)朱野雀美(あけのすずみ)玄田武哉(げんだたけや)、そして、おまえ青滝龍子(あおたきりゅうこ)。それだけだ」


「…… 文芸部の三人の先輩方のことまでよくご存じですね。単なる『不法侵入』ではなく『ストーカー』だったとは。これはますます捨て置けませんね。通報します」


「おうっ」

青龍(せいりゅう)は寝そべったまま答えた。

龍子(りゅうこ)の性格からして、はっきりさせないと納得しないだろうからな。まあ、龍子(りゅうこ)のそういうところも俺は好きだぞ」


「何言ってんだ。こいつ」と思いつつ、私は110番通報した。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ねこひめ、と申します。なんだか冒頭読んでわくわくドキドキしています。続きが気になるぅ。のんびり読みたいので今度また読みに来ます。ブクマしました♡
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