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8 あれから二年過ぎて六歳になったけど、戦争のための薬草採取は……終わらないんだよ。

こんばんは、こんにちは。


いつもお越しいただきありがとうございます。

タイトルをつけるのに、いろいろ悩みます。

毎回悩みます……

「お前、ここにいろ。おーい、誰か。ギルマス呼んでくれ!」

 あ、あの。本当にすみません、と平謝りだ。

「俺に謝ってもなぁ。まあ、ギルマスがどうするかだ。とりあえず、あいつに謝れ」

 すみませんでした! と俺の前で頭を下げるんだけど、食堂には? 視線を巡らせば、ショルダーさんが後でな、と仁王立ちだ。おお、怖い。

 ドドドドと階段を駆け下りてきたギルマスが鬼の形相で現れた時、フラットの食事が終わった。

 クリーンしてやれば嬉しそうだ。

「ショルダーしゃん。ぼく、やくそうさいしゅ、いきたいしゅ、いいしゅか? ねえ、ギルマシュ?」

「あはは、お前の方がよほど大物だな。朝飯は足りたか?」

「しょとのパンやしゃんで、いつもおひるかっちくの、おおめにかいましゅ」

 そうか、と笑顔で送り出してくれる。戻った時には話しをつけておく、と言われて頼んでおいた。ショルダーさんにも謝れば、クッキーの袋を持たせてくれる。頑張って来いよと言われて手を振ってギルドを出た。



 その日の採取は絶好調だった。

 朝、厄落としができたかな。

 それぞれかなりの数を採取して、一番高値のオット草は今までで最高数になった。

 でも、それとは別に、戻る途中で魔物にも遭遇した。まあ、いつもより少し奥へ入ったからだけど。

 このとき、ショートソードを手に入れてて良かったと心から思った。ディグビッグが追いかけられていたのを狩り、追いかけていたオークも狩った。ディグビッグは三十三頭、オークは三頭だ。

 明日からのフラットの肉をかなり確保できそうだ。

 ショートソードの切れ味は素晴らしかった。

 撫でるようにするだけで、ディグビッグの首からは血が吹き出た。オークは一瞬で両足首の腱を切り裂き、動けない所を頸動脈カットで仕留めた。さすがに、デカいオークが三頭転がった時には、どこから手をつけようかと苦笑した。まあ、順番に首筋を切っていったけど。もう事務的だな。


 全てをアイテムボックスに収めてから、頑張ってくれたフラットをクリーンする。残り十頭くらいのディグビッグを任せてオークを狩りにいった俺だったけど、早々に狩りを終えたフラットは、俺を見て安堵したように端っこで食事をはじめた。あはは、信頼されてるのかなぁ。

 でも、武器は大切だと改めて思う。

 以前の短剣と解体用のナイフじゃぁ、これほどスムーズには行かなかった。多分、魔法に頼っていただろう。魔法を使うことは問題ないけど、それに頼りすぎると剣で戦う時に動きが悪くなると思ってる。だからできるだけ剣で討伐することにしてるんだ。

 まあ、もっと高ランクになればそうは行かないんだろうけどね。

 そうなる前にできるだけ動けるようになりたいから。



 ギルドに戻った。最後の戦いがあったから、いつもより少し遅めだ。

「おかえり、ナギさん。ギルマスが待ってるからね。えっと、薬草出してくれるかな。獲物は?」

 あります、と言えば、素材買取カウンターに声をかけ、奥へと連れて行かれた。

 今日も狩ったのかと聞かれたので、正直に話した。

「そうか。戻る前に襲われたって、大変だったな。ここに出せるか?」

 デカいオークが三頭とディグビッグが三十三頭と答えれば、とんでもないな、と呆れられた。

「しゅみません。でも、フラットがとちゅうでディグビッグをたべちゃったからへったんでしゅ。それで、ディグビッグさんびきぶん、おにくほしいしゅ。オークもあればうれしい」

「おう、フラットの飯だろ。じゃあ、ディグビッグ三頭分とオークを一頭だと多いか?」

 お願いします! そう頼んでおいた。嬉しいと思いながら薬草を籠三個分取り出せば、お姉さんは笑っていた。



 ギルマスの隣りには朝の冒険者たちが縛られて床に座っている。

 僕はどうすればいいの?

「気にせず座れ。今日も薬草頑張ったか?」

「はい。いろいろ、ちゃのまれてちゃので、じぇんぶ、おおめにしましゅた。でも、もどるとき、まものがでちゃから、しゅこし、おしょくなった」

「何を狩った? ショートソードはどうだった?」

「ディグビッグが三十くらいとでっかいオークが三でしゅ。ショートソードはしゅごかった。じかんいらなかっちゃよ」

 そうかそうかと嬉しそうだ。

「計算できたら持ってくるだろうから、少し待ってな。それと、こいつらだけど。いろいろ調べたら前にいた街でトラブったらしい。依頼を受けて戦ってた冒険者たちが負傷して動けないのをいいことに、手負いで弱ってた魔物を横取りしたんだ。その上、皆を助けもしなかった。居づらくなったんだろうな。それでこっちに流れてきたみたいだ。ちゃんと助けに入ったら問題なかった。弱った魔物を狩っても何の自慢にもならない。もし、その冒険者たちを助けていたら、獲物も気持ちよく渡しただろうけどな。横取りと判断されたのはそのあたりだろう。だから、ペナルティを科されることになる。もちろん、以前のギルドに警備兵たちが連れて行く」

 そうなんだ。それはダメだよね。冒険者見捨てて獲物だけ持ち帰るなんて。

「で、お前への謝罪と食堂への賠償、お前が食いっぱぐれた朝食分も含めて、あっちのギルドと話して、こいつらに借金をさせた。食堂へは俺が渡しておいた。お前へは迷惑料ということだ。銀貨五枚だけど、悪いな少なくて」

「ちょんでもない! そんなのいらないしゅ」

「これはケジメだ。こいつらは迷惑をかけた迷惑料を支払う義務がある。それは誰にでもあるから覚えておけ。まあ、お前は問題ないだろうが。あっちでも結局借金になってるみたいだしな。力を合わせて稼げば、少々の金額くらいはすぐ返せる。するかしないかは本人次第だ」

 それはそうだろうね。社会人として責任が発生するから。

 わかりました、と頷いて男たちを見た。項垂れているだけだが、これじゃぁ無理かな。フラットまで、つまらないものを見る目で見てるよ。


 ドアノックの後、声が聞こえる。

「ナギさんの査定が終わりました」

 おう、と答えたギルマスは、テーブルをあけてくれる。

「今日もたくさんありがとうございます。まず、薬草ですが、オット草が二百十本、マーグル草が……」

 話しを聞いてるけど頭には入れてない。後で明細くれるから。

「そして魔物ですが……」

 最後の肉の話しだけをしっかり聞いておくことにした。明日の朝、ディグビッグだけ渡してくれるらしい。オークは夕方だと言われた。よかった、これでしばらくフラットの食事は大丈夫だ。

「では、合計で金貨二十二枚と銀貨九枚小銀貨七枚のお支払いです」

 ありがとうございますと、いつものように一緒に置いてくれてた革袋にお金を入れて、アイテムボックスへしまった。

 それを見ていた男たちは驚くばかりだ。

「ビックリしたか? いつもこうじゃないけど、こいつは毎日かなりの薬草を持ち帰る。お前たちの街にも依頼が来てるんじゃないか? 探索スキルか鑑定スキルでもあればひと儲けできるぞ。他国の戦争に必要なものだ。毎日、こいつには依頼主から多く欲しい薬草の指定がくるほどだ。だがな、誰でもできるわけじゃない。ちゃんと本を見て勉強してるんだぞ。努力と日々の積み重ねだ! お前たちみたいに親に大きくしてもらったわけじゃないんだからな!」

 怒りが再燃したギルマスだけど、事情を話したんだろうね。

 再び男たちは項垂れた。

「じゃあ、ぼくたち、ごはんにいきましゅ。ありがと」

 ゆっくり休めよ、と言ってくれるギルマスに手を振ってその場を離れた。


 



 そんな風に日々過ごしてきた。

 戦争のための薬草採取は、あれから二年経ったけど続いている。ということは、戦争もつづいているということだろう。

 俺も六歳になった。

 背も伸びた、と思う。

 そういえば、そろそろステータスを確認した方がいいかな、と今夜することが決まった。


 戦争のおかげ、というのも嫌だけど、薬草採取でかなりのお金を手に入れた。

 ショートソードのおかげで、魔物を狩るのも楽になった。

 なにより、フラットが大人になった。ものすごくでかい。三メートルくらいの長さだろうか。

 今は、薬草採取に行く時、強化魔法を使い走って行くこともない。毎日フラットの背に乗っていくからね。

 眷族のネックレスをしているし、子供の頃から知っている街の人たちは、もう驚くことはない。フラットも人の言葉を理解しているので、良くない感情の人は避けてくれる。魔物狩りも全く問題ないが、途中で食事をすることがある。食堂の食事は肉持ち込みで焼いてもらうことにしている。料金は同じでやってくれるから助かるんだ。


 今は、魔物を狩った後、肉を一部返してもらう。なぜって、フラットのご飯だから。宿で食べる時には焼いてもらう。採取中に昼食を食べるとき、余分に焼いておく。昼食も、火をおこしてスープを作り肉を焼き、野菜を食べて過ごしている。気分だけはすごく大人になった気がする。

 今日の昼は、干し肉と葉物野菜のスープにするつもりだ。それとフラットは肉を焼く。俺はパンの屋台でサンドイッチとホットドッグを数種類買ってアイテムボックスに入れて行くと決め、薬草の依頼書をもらって外に出た。

 いつもの店でサンドイッチとホットドッグを数個ずつ買ってフラットの背に乗る。

 今日の薬草は一番値段が高かったオット草だ。もし時間があれば、次に値段のいい、マーグル草も頼みたいと言われた。どちらも戦争がらみらしい。

 まあ、それは気にしないことにしている。そうでなきゃ、やってられないから。


 最近は金額がいいので、草原の風の皆も薬草採取を優先的にしているらしい。まあ、生息地はどこにあると位置を大まかに書いてくれているので、あちらこちらに行くんだろうけど。

「フラット、今日は、ムーンベアの森に行こう」

 ふぁふっと泣いたフラットは、近道に向かって街を歩く。

 さすがにこの大きさでは、街を走り抜けることはできない。でも、あちらこちらと近道を確保しているので、かなりの時短になる。俺の探索マップはかなり優秀だ。


 森の方へと舵をきったフラットはゆっくりとスピードを上げて行く。民家が見えなくなったとき、ぐんとスピードが上がった。

 以前は強化して走ってもこれほど早くはなかった。でも、角を曲がってから十分くらいしか経ってない。なぜ時間がわかるのかと言えば、魔法で時間を把握できるようにした。無属性魔法と複合魔法を使ってダメ元でやってみたら、できちゃったのだ。

 だから今は安心して狩りができる。


 さて。ここからは俺のターンだな。


<サーチ・オット草・マーグル草>


 同時に広範囲でサーチする。すると、西側なら両方あるみたいだ。東の方にはオット草が多い。

「じゃあ東に行こう」

 ふぁん! と鳴いて先へと歩いて行く。

 俺が歩くより、フラットに乗ったまま移動すればあっという間に群生地だ。

「この辺だね。じゃあ、いつものようにお願いね」

 ふぁふっと引き受けてくれたので、俺は探索を発動してからオット草を引き抜いて行く。

 いつものように一列飛ばしながら引き抜いて行くのだが、この方法は草原の風にもお願いしておいた。


 無事に二時間ほど採取し、ひと休みしてから再び採取だ。

 今日は何事もなく、昼まで採取できた。おかげで、二百本近くある。

「じゃあ、この先に少し広い所があるから、お昼ご飯にしようか」

 ふぁふ! と嬉しそうに小枝を集めてくれるのだ。絶対に俺の姿が見える範囲からは出ない。多分、俺の事を守るつもりなんだろう。大きめの木は、木工所で捨てる半端な材料をもらってアイテムボックスに大量に入れているから、火をおこすための小枝集めだ。

 少し残っていた枝を取り出して、あたりの石を積み上げて行く。

 そして、鉄の棒でドールーハに作ってもらった網置き台をセットした。この上に網をおけば肉でも野菜でも焼けるから便利なんだ。

 火起こしをはじめれば、フラットがたくさん小枝を取ってきてくれたので、それを積み上げて火をつける。

 その上に、そっと木を足して行けば、乾燥している木にはすぐに火が付いた。煙が収まった所で台をセットして網を置く。

 まず、フラット用にカットしてもらった肉をおいた。俺用は薄く切ってもらっているので、後から焼くんだ。

 フラットは全く足りないのだが、途中で魔物を仕留めることが多い。それを食べてから探索に戻ってくる。とりあえず俺がお茶を飲み始めるまでは、一緒にいてくれるけどね。

 

 ステーキを二枚置いてやれば、隣りにあるホットドッグとサンドイッチも一緒に食べ始める。残りの肉も焼きながら、俺は自分の肉を焼くんだ。網の端には干し肉のスープがあるので、フラットの前に置いてやれば、大きな尻尾が嬉しそうに揺れる。

 俺もスープを啜りながら肉をひっくり返して、サンドイッチを口にする。

 お、そろそろ匂いにつられて魔物が集まったか。

 肉の美味いやつ、ディグビッグだっけか。あれだろうか。あれなら嬉しいんだけどね。肉が美味いから。それに買取もそこそこの値段がする。うん、やっぱりそうみたいだね。

 でも、こいつらはフラットがいるときには襲ってこない。上位に対しては喧嘩を仕掛けないのだ。だからフラットはひと通り食べた後、俺から離れて食事に向かうフリをする。ただ、用心深いので、しばらく様子を見てからなんだけど。

 そのあたりは心得たものだから、二人でタイミングを計る。 

 食事を終えた俺は、食器をクリーンしてアイテムボックスに入れる。その後は湯を沸かして紅茶を入れるんだ。

 そのころには、ディグビッグも気を抜きはじめているから、そろそろ始まるかな。

 そう考えて、鍋を網から下ろしておく。


 ブキュ! と合図のような声が聞こえた後、ドドドドと駆けてくる。こいつらはショートソードより短剣の方がいいからと短剣を引き抜いて振り返った。

 すると、フラットが前足の爪でで交互にディグビッグをなぎ払っている。あはは、俺の出番はなさそうだね。そう思いながらも、次々切り裂いてゆく。

 そろそろ終わりだな、と手を上げれば、ディグビッグを二頭引き寄せたフラットは、肉を食べ始めた。内臓はダメだと言いきかせているので、その周りだけを食べている。

 その間に俺は獲物をアイテムボックスに収納してゆくのだ。

 おお、最高数かもしれない。三十五頭いるよ。よかった。これなら数頭分、肉をとっておいてもらっていいかもね。


 

読んでいただきありがとうございます。


明日もどうぞよろしくお願いします。

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