66 これからの進む道が決まったね。
こんばんは、こんにちは。
いつもありがとうございます。
今日もよろしくお願いします!
いつものように目を覚まし、いつものように朝食を食べ、いつものように着替えをする。
そして、宿を出た。
宿の前ではノルが待っていた。
「おはよう、ノル。昨日はごめんね」
「いや、俺こそ。本当は止めなくちゃダメだったんだ。でも、酒が入ってベロベロの皆に意見する勇気がなかった。本当にごめん。許してもらえるとは思ってないけど、なんでもするから。俺はナギに償いをしなくちゃならないから」
そう言ってくれる。本当に真面目だよね、ノル。
じゃあ、一緒にギルドに行こうと歩き出す。
俺の隣りにはフラットとノル。鞄の中ではサンが眠っている。ゆっくり歩いているんだけど、夕べのオニキスの剣幕を思い出して笑ってしまった。
一応、現状を念話したんだけど、すぐにでも飛んできそうな勢いで怒り始めた。隣りにいたブーゲリアが何とか止めてくれたけどね。
なんと言うことだ! なぜ主の部屋で! なぜ、そんなやつらと! 怒りを散々ぶちまけた後、ノルが無事で良かったと呟いたのだ。オニキスも優しいよね、とノルに言えば優しく笑った。
でもオニキスの気持ちは当然だよ、とため息をついている。こんなため息をついてたら、ノルがダメになる。冒険者として優秀なノル。だからこれからも頑張って欲しいんだ。それだけは伝えたいと思ってる。多分、ギルマスも同じように思ってくれてるはず。それならノルに声をかけてくれるだろうと予感しているよ、俺は。
そろそろギルドが見えてきたね、と笑顔で歩く俺たちの前に、変な集団が出てきた。
「お前、ナギか?」
なに、こいつらは。
「そうだよ。それが?」
「ふふふ、本当に女みたいだな。お前の事を気に入った人がいてな。で、俺たちが迎えに来たと言うわけだ」
バカじゃないの、こいつ!
俺に腕を伸ばした男の前でフラットがググンとでっかくなった。
「なんだこいつ、魔物か! それにしてもデカくないか?」
「煩い、早くガキをさらえ、こいつらに用はない」
剣を手にした男たちがわらわらと駆け出す。
「フラット殺さないで! 一歩手前ならいいよ!」
くわぁん! と泣いたフラットは、男たちの肩を腕ではじいている。
サンはバッグの中から氷の弾丸で攻撃してるよ。ノルはショートソードで対応しながら水晶を片手に誰かに連絡してる。多分、ギルマスだよね。
俺? おれは当然、氷の弾丸ですよ。それも大きめのね。男たちの脚を吹っ飛ばしながら進んでる。ギルドまでは目と鼻の先だから。
脚を吹っ飛ばされた男たちは剣を離さないんだけど、プロ根性は褒めてあげるよ。そう思っていたら、サンの弾丸が右腕を確実に仕留めている。
ショートソードで斬り合ってるノルは、的確に相手の急所をせめているんだけど、殺さない。後で話しを聞くからね。
数分はそんな風に戦っていたけど、かなりの数の男たちが沸いてくる。これじゃ、危険だ。
フラット! そう呼べば近くに来てくれる。ノルを手招きしてかけより、飛翔魔法でフラットの背に乗った。そのまま空に上がるフラットの背から、魔法を行使する。
<悪人の脚を止めたい>
ペキペキペキ……
足下が凍ってゆく男たちは、何とか逃げだそうと頑張ってるけど無理だよ~
ナギ! そう聞こえた時、ギルマスとマックスさんが立っていた。
大丈夫かと聞かれたので、大丈夫と答える。
警備隊を呼んだらしい。それなら大丈夫だね、とフラットに降りてもらった。
「お前の魔法か、これ」
うん、そうだよ。
「おっそろしいな、お前は。いつの間にこんな魔法を使えるようになった」
うーん、わからない。
「まあいいか。何か言ってたか、こいつら」
「そうだね、と俺の事を気に入ってるやつがいるんだと言った。他はいらない、僕だけ」
そう言えば首をかしげている。
「あいつらはおそらくだが、傭兵崩れだな。でも、そんなやつらを雇ってヤバいことをさせる人間は多くはない。すぐにわかると思うぞ」
そう、と俺は無関心を装う。
俺は男たちを鑑定して知っていた。主犯が誰かを。
でもなぜあの人が俺を?
どれほど考えても理解不能。とりあえず、警備隊に任せる方がいいだろうね。
ギルドに入ればマックスさんが待っていた。
「大丈夫か?」
優しい言葉をかけてくれるんだけど、さっきのことだけじゃないんだろうね。
大丈夫だよ、とできるだけ明るく答えてみた。
フラットをクリーンして食堂で落ち着いた。
ノルと一緒にマックスさんも腰を下ろす。
紅茶が運ばれた頃、二階からメルトたちが降りてきた。
食堂に入ってきたけど、俺には関係ない。
「ナギ、本当にすまない。俺たちにできることがあるなら何でもする。隣家の修理も俺たちが……」
「必要ない。僕がちゃんと隣のお家は治すから。もう、大工さんもギルマスが手配してくれた。だから放っておいて」
マックスさんが拳を握りしめている。
ギルドの空気が微妙なものになっているけど、今日だけは仕方がない。
「ねえ、マックスさん。相談があるんだけど」
いいぞ、とメルトたちを手で追い払ったマックスさんは話しを聞いてくれるみたいだ。
「あのね。ノルの事なんだけど。ノルは腕のいい斥候なんだ。マックスさんのパーティには斥候はいるけど、ノルは斥候だけじゃなく、中堅もこなせるんだ。だからパーティーに入れてくれないかな」
ナギ! とノルが口を挟む。
「そうだよな。お前はどうするんだ?」
「まだいろいろあるんだよ。だからすぐには冒険者として動けない。でも、ノルは俺と一緒だとダメになりそうな気がする。罠や扉の解錠なんか、すごいんだ。だからその実力を認めてくれる人とやった方がいいと思うんだ」
ふむ、と腕を組むマックスさん。
「で、ノルはどうなんだ。俺のパーティに入りたいのか。それともナギと一緒に行きたいのか。単独で頑張りたいのか」
「俺は……俺はナギに迷惑をかけた。でも、俺はナギとこの子たちと一緒に活動していきたい。ナギが許してくれるなら、役に立ちたいんだ」
そうか、と無言になったマックスさんだけど、何を考えてるんだろう。
「ノル。お前は今回の火事騒ぎで、ナギに償いをしたいのか? それだけなのか?」
償いって? ノルは悪くないよ。
「その思いもある。でも、俺の本心はナギと一緒に魔物討伐や迷宮に潜りたい。そして役に立ちたいんだ。それが一番の償いになると思ってる。でも、償いたいからパーティーにいたいわけじゃない。ナギというリーダーと一緒に頑張りたい。眷属のみんなと一緒に頑張りたいんだ。結果、それが償いになるかもしれないけど。決して償いの為に、じゃないよ」
そうか。まただよ、マックスさん! 何考えてるの?
「ナギ。ノルの気持ちは本当だと思う。お前ならわかるだろ?」
うん、真偽判定でも、真だ。
「それならお前が嫌じゃなければ、今までと同じで仲間として協力すればいいと思うぞ。それを望んでいるのはノルだしな」
それはそうだけど。
「でも、僕は家もなくなったしね。今のところ、あそこにもう一度家を建てる気にはならないんだ。だからしばらくあのまま空き地にしておくつもり。倉庫は無事だったから、いつか使うかもしれないけど。そんな僕の仲間でいていいの、ノル」
「うん、仲間でいたい。役に立つことは少ないかもしれないけど、いろいろできるようになりたいんだ。ショートソードだけじゃなく、長剣とか他の武器も使えるようになりたい。でなきゃ、今日みたいに囲まれたら対応出来ないから」
そうなんだ、俺と一緒に頑張ってくれるっていってくれる。
『フラット、サン。どう思う? ノルの気持ちは本心だよ』
『ナギ、僕はいいと思うよ』
『サンもさんせーだよ~』
ふふふと笑う。それなら断る理由はないね。
「わかった。ノルがそう言ってくれるなら一緒に頑張ろう。この街を離れることになるけど、いいの?」
全く問題ないらしい。そういえば、ノルはこの街出身じゃなかったね。
「それじゃ、今までと変わらずよろしくね」
右手を出して握手を求めれば、満面の笑みで握手してくれた。
「よし、決まりだな。じゃ、ギルマスの部屋に行くぞ。そろそろデクさんも来る頃だしな」
は~い、と焼き菓子の残りを口に頬張るフラットとサン。思わず笑ってしまった。
クリーンを掛けてやればサンは鞄に入った。フラットは大きめの狼のまま立ち上がる。
マックスさんもいくらしいから、後ろについて二階に上がった。
驚いたことに、ギルマスの部屋にはデクがいた。
「デクさん。せっかく造ってくれた家なのに、すみません」
「気にするな。木造は火にはかなわない。それは世の中の理だ。いつかまた住む気になったら声かけてくれな」
はい、と頷いてソファに座った。
隣家の仕様と見積もりを説明してもらう。
思っていたよりも金額は抑えられそうだ。謝りにいきたいと言えば、相手が望んでないらしい。直してくれるなら問題ないと言ってたって。それでいいのかな。
少々作りを大きくすることになったけど、それは無条件で受け入れた。金額は材料費がかかるから、金貨八百枚くらい。それでおつりが来るようにすると言われて安堵した。隣の家も大きな家だからね。
じゃあ、そのまま工事を勧めるからと言ってくれた。これ以上は受け付けないと言ってくれるらしい。やるなら実費だと言ってやる! そう息巻いていた。どうしても被害者意識が働いて、放っておけばどんどん要望が増えるらしい。ちゃんと契約書を交わしてくるからと言ってくれた。
それなら、とアイテムボックスから王宮でもらった焼き菓子を取り出す。そして紅茶もね。それを渡してもらうことにした。王宮の料理人が作ったものだと言っておくからと笑いながら出て行った。
そうだ、今いっておこう。
「あの。僕はしばらく仕事でここにはいません。だから支払いはギルマスに頼んでおきます。よろしくお願いします」
了解だ! とデクさんはカラカラ笑いながら出て行った。
「ギルマス、お願いできますか?」
「ああ。お前のギルドカードに金を入れておけ。そこからデクに振り込むから。とりあえず、最終的な金額は連絡する。それでいいか?」
お願いします、と白金貨二枚を入金してもらうことにした。
次はノルの事。
マックスさんが俺たちの会話を話してくれる。
最終的にはそう決まったんだから問題ないとギルマスは言ってくれた。
「ナギ。この街を出るのか?」
「出る? いやそうじゃないよ。でも、向こうの事もあるから、しばらくは戻りません。その後も、どこかへ旅をしたいと思ってます。だから数年はいないと思ってください」
残念だな、と呟いたギルマスに驚いた。
「何かとんでもないことがあるなら呼んでくださいね。魔物暴走とか」
「おう。それは頼むぞ。早めに言うから」
「はい。でも、他の眷属も乗れるので、ノルも一緒に戻れますよ」
他の眷属? と驚いてるけど。
ドラゴンです、といえばあいつか、と笑った。
「ノル。買い物したのか? 剣はどうした」
「まだです。服とか靴もないですし。持ち出せたのはナギにもらった魔法袋だけだったから」
そうか、と悲しそうなギルマスだ。
「そう言えば、ナギ。メルトが持ってた魔法袋はナギがつくったんだよね。あれはどうする?」
そうだね、別にいらないけどさ。
「いいよ、別に。あれは時間も止まらないし。ノルには今度時間が止まるのをつくるね。あ、でもみんなが持ってるから普通ので容量が大きい方がいいかな」
今ので十分だよ。ありがとう、とノルはいう。
「あれ? メルトは何も持ち出せなかったと言ってたぞ。剣すらな。魔法袋も燃えたんじゃないか?」
そうかも、とノルが言った。どうやら皆を起こしたとき、かなり火が回っていたらしいからね。でも気にしないよ。だってお金渡してるからね。
じゃあ、ノルの買い物に行ってから戻ります。
「家の敷地には結界を張っていきます。誰か使いたい人がいたら貸してもいいですから」
わかった、とギルマスは寂しそうだ。
皆でギルドを出て行こうとすれば、受付のお姉さんや買取カウンターのおじさん、解体の人たちが出てきて、見送ってくれた。
「絶対に戻ってこい。立ち寄るだけでもいいから、時には顔を見せてくれ」
おじさん、ありがとう。
皆に挨拶してギルドを出た。
外で待ってたメルトたちを無視して、俺たちは歩く。そうだ、ミルロット商会に行こう。あそこでノルの服を見繕えばいい。剣は俺が作ってみたいから、とりあえずの剣をドールーハの店で買おう。
ゆっくり歩いてドールーハの店に入って行く。
「おお、ナギ。大変だったな」
あはは、皆知ってるんだね。
「まあね。それでね、おじさん。この人が使うショートソードあるかな」
「メンバーか。じゃあ、これはどうだ? 一般的なショートソードだが、俺がつくったからいいものではある。お前の剣には及ばないけどな」
そうか、いくらと聞けば金貨四枚だというので、買うことにした。
「ナギ、そんな高価なものを」
「大丈夫、僕のより随分安いんだよ。僕のは本当の金額は知らないけどね」
あはは、と笑っておじさんに支払いをする。帯剣ベルトは丁度良かったので、そのまま使うと言ってくれた。
じゃあ、と手を振ってドールーハの店を出る。
「ありがとう、ナギ。大切に使うよ」
いいよ、別に。
そう言ってミルロット商会へ向かった。
読んでいただきありがとうございます。
なんだか変な輩がチラッと出てきましたね。イメージはあるんですが、後々明らかになるかどうかは決めてません。機会があれば、とっちめましょう。
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