65 僕の、家が……
こんばんは、こんにちは。
いつもありがとうございます。
とんでもないタイトルですが……
今日もよろしくお願いします!
「ゆっくり話しをした方が良いのだろうが、受け入れないのなら仕方がない。主、王宮へ戻るか?」
そうだね、とフルレットを見上げた。
「ギルドマスター。お主の考えは理解した。ユリアロウズ国国王陛下は世界ギルド協会とも繋がりがある。よって、報告をしておくとしよう。ではナギ様。戻りましょう」
……ちょ、ちょっと待ってくれ!
なんか叫んでるけどもう遅いよね。
フラットがググンと大きくなって元の姿になったから、冒険者たちは腰を抜かしたみたいだよ。
アイテムボックスから椅子を取り出して装着し、俺に乗れと言う。じゃあ、と飛翔魔法で浮き上がって鞍に座った。フルレットと話すのはこれくらいのほうが楽だね。上ばかり見ていたら疲れるし。
オニキスからはサンが入った鞄を渡される。それを斜めがけにして、鞄はフラットの背に乗せた。
ギルドから出れば、肉串屋のおじさんが驚いているけど、俺をみて手を振り替えしてくれた。ホットドッグ屋さんも同じ反応だね。他に興味をひく食べ物もなかったので、ゆっくり歩いて王宮へと戻った。
「いかがでしたか、街の様子は」
「楽しかったよ。美味しそうなものを買ってきたくらいかな」
なるほど、とフルレットにあとでギルドの報告をと告げていた。
じゃあ、俺たちは少し休みますよ、と寝室へと向かう。そこで買ってきたものの味見をするためだ。
当然、後ろに侍従が付いてくるんだけどね。
肉串やホットドッグを取り出して食べまくる。
大きな皿は、肉串で一杯だよ。
俺はフラットが咥えた肉串を引き抜く役です。だって、途中から食べられなくなったからね。それでも五本食べたよ。そしてホットドッグは一本食べました。美味しかったね、これは。やっぱり日本というか地球に関係ある人かもしれない。興味深いね。
途中から眠ってしまった俺だけど、夕食にはしっかり参加した。一人前以上は食べたけどね。残りはお弁当にしてもらってアイテムボックスに入れた。
それならお弁当を作りましょうかと言ってくれる料理長には感謝だ。迷宮に行くのがわかってるからなのかな。
いいの、と聞いてみればブーゲリアも是非にというので、人数分頼むことにした。まあ、同じでいいから大盛りでねと言えば、笑顔で頷いてくれた。
朝昼晩とつくりたいが、アイテムボックスがないから冷めてしまうと悲しそうなんだ。えっと、確か押収した魔道具の中にあったと思うけど。
リストで確認すれば、バッグ型のものがある。容量は五十メートル四方で時間停止機能付きだ。
「じゃあ、これ使ってくれる。こんな形だけど、時間は止まるよ。五十メートルの立方体くらいは入るみたいだから」
おお、是非、と受け取ってくれた。ただし、いちいち口金を止めなくちゃいけないので、それだけ頼んでおいた。
さっそく今夜から仕込みをしてくれるらしい。楽しみだな~
ある程度、お弁当が溜まるまで、王宮の中を探検した。
あちらこちらに部屋があって迷いそうだよ。マッピングしてるから問題ないけどね。
騎士団長は実力を試すと騎士団を鍛えている。
そういえば、オニキスが剣を使うところはみたことないよね。
「ではやってみるか。しかとご覧あれ、主よ」
うん、みてるよ、ちゃんと。
騎士団長はとても嬉しそうだ。
模擬専用の剣を手にしたオニキスはかっこいいとしかいいようがない。
それに、剣の腕も大したものだ。
恐ろしく強い。
それしか言えないほどだ。冒険者ランクで言えば、SS
ランク以上だろうね。とてもかなわないよ。
「主、どうであった。我の剣は使えるか?」
「使えるかって? 十分すぎるよ。もし冒険者ならみたこともないくらい強い。たぶんSSランク以上だよ」
ふむ、そうか。
とても嬉しそうなんだけど、オニキスが。
そんな風に二日過ごして、三日目の朝、家のある街のギルドから連絡があった。
「おはようございます、ギルマス」
「おはよう。ナギ、気持ちを落ち着けて聞いてくれよ。お前の家だが……」
なに? 家がどうしたの?
「全焼だ。火事になったんだよ」
えっと、火事?
「そ、それって……で、怪我人は? メルトとノルは大丈夫なの?」
「それは問題ない。だが家がな……戻ってくるか?」
どうして家が火事になるの? 誰かが火をつけた? たばこは吸わない二人だから、やっぱり放火かな。
「戻るか、主よ」
「うん。一度戻って確認してくるよ。家が焼けちゃった、なんて……」
頭を撫でてくれるオニキス。身体を寄せていたわってくれるフラット。腕の中に飛び込んで来てくれたサン。
どうしよう、家が。僕たちの家が。気に入ってた家が燃えちゃった……
「ナギ様、お気を確かに。確認されたあと、こちらにお戻りください。お待ちしておりますので」
「ありがと、ブーゲリア。戻ってくるよ。家をみて、原因さえわかれば戻るから。オニキス、頼むね」
「うむ。我のことは良い。こちらのことも気にするでない。皆、待っておるぞ」
ありがとう、とフラットの背から手を振って空に上がった。
サンはずっと俺を見ている。気にしてくれてるんだろうな。心配かけちゃうけど、申し訳ないけど……今は二人に甘えるしかないから。僕一人じゃ受けとめられない気がする。
無言のままフラットの背に乗ってる。
フラットは休むとも言わずに飛んでくれてるんだ。いつもよりかなり速い速度だ。疲れるだろうにね。ごめんね、二人とも。今の俺は心のよりどころであった家のことが気になって仕方ないんだ。
昼を少し過ぎた頃、ギルドの前にフラットが着地する。
先に家を見たかったけど、ギルマスに話しを聞いた方がいいからね。
「ナギさん。お帰りなさい。ギルマスがお待ちですよ」
はい、と階段を上がる。フラットも今日は一緒にいてくれるみたい。サンは当然一緒だ。
ドアをノックすれば、ガバッと開いた先にギルマスが立っている。
「早かったな。フラット、頑張ってくれたんだな、ありがとよ」
ふぁふっと鳴いたフラットは、俺の隣を離れずに歩く。
部屋にはメルトとノル、そしてショルダーさん、ピット、そしてマリーとランがいた。
皆立ってるんだけど、どうしたのかな。
座れと言われてソファに腰を下ろせば、フラットは子犬の姿になって隣に座る。サンは膝の上だ。
「すみません、フラットはノンストップで来たので、ここでお水を飲ませていいですか?」
「いいぞ。そうだ、休み無しで来たんだな。フラット、サン。水飲んでいいぞ。腹が減ったろ。食堂に行くか?」
二人は拒否した。それならと、焼き菓子を出して置いてやった。
フラットは床に降りて少し大きくなって水を飲む。そして焼き菓子に食いついた。サンはテーブルの上で同じように飲んで食べる。
「それで。なぜ家が火事になったんですか? 放火?」
「いや、違う。火の不始末だ」
火の不始末? 意味がわからない。
「実はな。討伐から戻ったこいつらは、メルトの提案でお前の家に行ったらしい。で、酒を飲んだ。ベロベロだったみたいだけど、ノルは酒を飲まないから早々に自分のベッドに引き上げたらしい。その後、だが……」
ギルマスが口ごもる。
何があったの?
そこからは皆が話してくれた。
残った五人はずっと飲んでたらしい。それで、変な雰囲気になって。でも部屋がないからって、俺の部屋で男三人女二人で色事が始まったという。
途中でたばこを吸い酒を飲みながら、事が終わった後、全員が眠ってしまった。その後、誰かは覚えてないけれど、たばこの火の不始末で発火したという。それにいち早く気づいたのはノルだった。もし、ノルが気づかなかったら、他のやつらは焼け死んだだろうと聞いた。
それを知った俺は言葉を失う。
俺の家で? 乱交してたの? それも俺のベッドで?
全く信じられない!
俺は、そんな事のために家を使えといったんじゃない。二人が活動するのに困るからと思った。ただ純粋にそう思ってた。それにメルトって、俺の事が好きとか言ってなかったっけ? まあ、大人の男だからそんなときもあるんだろうと理解できる。相手が誰でもいいけど、人の寝室で乱交するってどうなの? それだけで十分信頼はなくなった。
「……ノ、ノル。ありがとうね、気づいてくれて。自分の家で人が死んだなんてことになったら、生きていられなかった。本当にありがとう」
そんなこと、とノルは言葉に詰まる。
でも、そっと近寄って、背を撫でてくれた。
涙が出そうになる。でも泣いちゃダメなんだ、ここで。
「ギル、マス。近所のお家は大丈夫だった? 火は移ってない? 怪我人は?」
「うむ。実はな、家のある方の隣家が少し焼けた。怪我人はいない。だからデクたちに見積もりさせてる。修理になるか、半分壊してでも新しくするか、だな」
明日には話しができると聞いたので、明日、出直してくると伝えた。
今夜はどうするんだと聞かれて、宿を紹介して欲しいと伝えた。従魔がいれば高くなるぞと言われたけど、問題ないから、と言えばさっそく水晶で連絡してくれるらしい。
「あの、ナギ。本当にごめん。こんなことになるなんて思ってなくて……」
メルトは心から申し訳ないと思ってるみたいだけど。他の面々も同じ。それでも僕には理解できないんだよ。
「ごめん、僕には理解できない。宿代わりに使われたことも、酒を飲んだことも、僕の部屋でいやらしいことをしたことも。それが一番嫌だ。なんで僕の部屋をそんなことに使うの?」
あそこは僕たちのエリア。その上、たばこを吸ったって? たばこはね、匂いが付くからわかるんだよ。誰がって訳じゃなくて、なにがって細かいことじゃなくて。皆のことが嫌い、ノル以外は。僕がいないから羽目を外したんでしょ。元々ノルは真面目だし、余計なことは言わない人。多分、嫌な気持ちになったと思うけど、それも言わなかったと思う。僕だって同じだと思うからいいんだ。ノル以外の大人たちの事、少しは信頼してたのに! どうして裏切るの! 僕が子供だから? なんで、僕を辛い目に会わせるの? 僕を利用しただけなの? 僕は何か悪いことをしたの!
「なんで、なんで、僕は……一所懸命生きてきただけなのに。三歳から皆に助けてもらって冒険者をやって来ただけ。それが、どうしていけないの! 僕はどうすればいいの!……」
ナギ! とギルマスが顔を抱えて肩を抱いてくれる。
気がつけばわーわー泣いてた。
両親が殺されて以来、泣いたのは初めてだ。
フラットは僕に身体を寄せてサンは胸に張り付いてくれてる。そして、念話で『泣かないで』と言ってくれてるんだ。人じゃない、魔物のこの子たちがそう言ってくれてるのに、どうして人間はわからないの!
しばらく泣いてたけど、ギルマスが宿に行くかと聞いてくれる。コクリと頷いて立ち上がった。
当然、フラットとサンは一緒だ。
「ナギ!」
メルトが叫べば、フラットが唸り始める。
ガルルルルル~と唸っているフラットは、本気だ。もういいから、と撫でれば収まってくれた。
ノルが明日、話したいと言うので頷いておいた。
ギルマスと一緒に歩いて向かったのは、ギルドの近くにある大きな宿だ。
当然、フラットもサンも受け入れてくれた。
銀貨五枚払って、広めの二人部屋に入った。
「ギルマス、ありがとう。僕、両親が死んでから初めてあんなに泣いた。ごめん、心配かけて」
「気にするな。俺も驚いてんだ。だが、お前が言ったようにノルがいてくれて良かった。泥酔した人間が命を落としたとなると、土地は使い物にならん。ただな、お前の家だ。だから隣家の修理代は請求されるがどうする? あいつらに借金させてもいいぞ」
フルフルと首を振る。
「大丈夫、僕が払うから。デクさんたちにお願いして欲しい。多少無理を言われても問題ないよ。だからお隣さんが希望する家を作って欲しい。最悪は、隣の人たちにも被害が出てたかもしれないんだから。そのあたりの交渉も、デクさんに頼みたい。ギルマスも力を貸して」
わかった、とギルマスは頷いた。
食事は、と聞かれたけど食欲はない。
いらない、と言えばゆっくり休めと言ってくれた。何かあったらすぐに連絡しろと言われて安心した。
ギルマスが帰ってから、二人に食事を出してやる。
『あるじはたべないの? あるじがたべないなら、サン、いらないよ~』
『ナギ、一緒に食べよう。ナギが食べないなら僕も食べないよ。だから食べようよ。その方がいい。明日もいろいろあるんだしね』
ふふふ、二人は自分のご飯を食べなくても俺に食べろと言ってくれる。本当に可愛い子たちだ。
お腹は空いてないけど、食べようかな。そうしなきゃ、二人は食べられないからね。
「じゃあ、食べるよ。何がいい二人は」
俺が先に決めろという。これは本気だね。
それならテーブルにいろいろ取り出した。最後にシチューも出して、つぎ分ける。
いい匂いが鼻を刺激するから、お腹がすいてきたよ。
焼きたてのパンをたくさん出して、籠ごと置いた。
「じゃ、食べようね」
わ~い、とサンとフラットは食事を始めた。
俺も負けじと食らいつく。
シチューが食べやすいな。そしてパンが美味しい。途中でグリルチキンを出して、煮豚も出した。俺の好物だ。
案外するすると腹に入るので驚いている。
そう。いつまでも思い悩んでも仕方がないから。
気持ちを切り替えて明日から頑張ろう。
読んでいただきありがとうございます。
ナギの大切な家が燃えちゃいました。
その上、とんでもないことが告げられて、本当に可愛そうです。
ノルは別として、メルトは完全に甘えてるし酷い裏切りです。許せないですよ、本当に。
何とかナギが立ち直ってくれればいいんですが……
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