64 大人のすることはわからないね。
こんばんは、こんにちは。
いつもありがとうございます。
今日もよろしくお願いします!
『いただきます!』
フラットの声に、一斉に食べ始める。
もぐもぐ、ガツガツ。よく食べるね、いい子だよ。
『だしまきとハンバーグ、おかわりぃ~』
はいはい。
『僕もハンバーグたくさんとオムレツ下さい』
はいはい。フラットは当然食べるよね。
取り分ける度にサラダをのせるけど、二人とも何も言わず食べてくれる。いい子たちだね。
ゆっくり食べた朝食も、そろそろ終わりそうだ。
またメルトたちは戻ってこない。
まあ、いいよね。皆大人だし。
美味しい紅茶を飲んでデザートの焼き菓子を食べる。
とても美味しいお菓子に心が和む。
結局、出かけるまでに戻ってこなかった二人。
それなら、置き手紙をすることにした。
今から出かけることを書いて、通信用の水晶を置く。
メルトは持ってるから、これはノルにあげるからね、と記した。最後に、ミルロット商会で買い物してから帰ると書いたのでわかってくれるだろう。
「お戻りでしたか、ナギ様」
「ご無沙汰しております、会頭」
それで本日は?
いつものやりとりに安堵する自分がいる。
「えっとチーズとミルク、野菜などを。いろんな種類をたくさんください。生野菜もありますか?」
もちろんです、と笑顔で補佐に告げている。
「パンはいかがですか。さっき届いたところですよ」
おお、ありがたい。
「忘れてました、パンをお願いするのを。可能な限り欲しいです。あと、調味料一式を大箱で。それと植物油とパスタ、小麦粉やパン粉もね。あと、お菓子の作り方とかの本はありますか?」
こちらです、と連れて行ってくれた。
焼き菓子と蒸し菓子の本だ。それ以外ではパンケーキみたいなものの作り方。それを全種類買うことにした。
あっちこっち行くならお菓子も作れた方がいいからね。
「魔道具でオーブンがあればいいんですけどね」
そんなことを呟いてみれば、ございますよと聞こえる。
「あるんですか? 魔力で動きますか?」
「はい。一般家庭用の大きさで、魔石でも魔力を貯める水晶でも動きますよ。持っていない家庭もありますので、オーブンだけ欲しいというお声が多くなりまして。当店で魔道具を作らせました。今のところ、問題なく使えておる様でございます」
う、うれしい! それなら鳥の丸焼きとか作れるよね。鳥がないけど……
本当は魔道キッチンが欲しいんだけど、炊飯用とか普通のコンロとか。魔道具のコンロはたくさんあるからね。オーブンだけなかったんだよ。
じゃあ、鳥肉はありますか?
ございますが、どれくらいの大きさがよろしいですか?
大きい方かいいです!
このやり取りに、補佐の男性は楽しそうに笑ってた。なんでだろうね?
唐揚げができると嬉しくなる。跳び上がりそうなくらいですよ。
魔道オーブンが少々お高いくらいで、他はいつもの通りですね。
金貨百三十一枚を支払って全てをアイテムボックスに入れた。もちろん、焼き菓子も大量にゲットしてありますから、楽しみは増えました。
外に出て、また俺たちだけ出かけると伝えておく。仲間が残って家から討伐に向かうからと言えば、なるほどと感心してた。お気をつけてと送り出されて、店の前でフラットの背に乗った。サンはお利口で鞄の中にいるよ。
手を振って空に上がれば、一気に飛び始めたフラットはぐんぐんスピードを増してゆく。
とても気持ちいいんだけど、早すぎで周りがよく見えないよ。
薬草もたくさんあるから、ポーションも作りたいな。魔道具もあれから使ってないんだ。ゆっくりできる時間がないから仕方ないんだけどね。かなりのお金もあるけど、使うこともないし。困ってますよ、実際の所。
旅に出れば少しくらいは使うかな。空間があるからあまりお金も使わないし。どうしようかなぁ。何か考えてみようかな。
ぐんぐん飛ぶフラットの背に乗ってる俺とサンだけど、メルトからの連絡もない。なんで連絡してくれないんだろう。ひと言いって欲しかったんだけどね。行ってきます、くらいは言いたかった。まあ、いいけどね。大人のすることだから子供の俺には口を出せないし。
途中で休憩しながら飛んだ。
フラットは甘い焼き菓子を大量に補給しながら、お昼ご飯も食べて一所懸命飛んでくれたんだよ。
だから午後のお茶の時間には、王宮に到着してた。
「フラット、ありがとうね。疲れたでしょ?」
『ううん、大丈夫だよ。一人ならお茶の時間とかないし、ご飯も魔物を食べるだけでしょ。でも、ナギがいるしサンもいるから。楽しいから大丈夫。あれくらいじゃ疲れないしね』
どうやら本当らしい。真偽判定の結果は間違いないから。心から驚いて、そのパワーに感心した。
「戻ったのか、主」
「ただいま。それでどうなの、国の事は」
「知らんぞ。我は主がおらぬ時に何かをいうことはない。逆手にとられて、手伝わされるのはごめんだからな。ギルドはどうであった?」
「うん、ギルマスは助かるって言ってくれたよ」
他の人と臨時のパーティーを組んで討伐に臨むんだと話してた。回復役と魔法使いもいるから大丈夫でしょう。でも夕べ戻って来てないと言えば、驚いていた。出発までに戻らなかったから置き手紙してきたんだと言うと、なぜだか悲しそうな眼をしたオニキスが少し気になった。
「ナギ様。お帰りと聞いて安堵致しました。おかげさまで何とか話しは進んでおります。既に国民には詳細を通達致しましたし、街に掲示板を作って張り出しております。少しですが、事業所以外の一般の国民の税負担も下がりますので、喜んでおる様です。陛下がこちらで国民の前に姿を見せる予定も決まりましたし、全て、ナギ様たちのおかげでございます!」
「そんなことないよ。ブーゲリアたちが頑張ったからだよ。僕たちはとっかかりをつくっただけだし。もう国の統治権は移動してるんだし、気にしないで。あとはミスリルと迷宮だけは楽しませてもらいます!」
ご存分にどうぞ、と笑顔だ。迷宮都市としてこの街は運営されることになるらしい。街の名前はまだないが、迷宮を売り物にしたいという。かなりの設備が必要になるだろうけど、出店希望の宿や商会なども巻き込んで造るつもりだと聞いた。やっぱり頭がいいよ、こいつは。
「ねえ、ここのギルドって知ってる?」
「いえ。私はまだ面会をしておりませんので。面会の申し出はありましたが、あまりに忙しすぎて。ナギ様は向かわれますか?」
「うん、行ってみようかと思ってる。まだ未開の迷宮のことは言わないけどね」
「では、フルレットを同行させましょう。共に話しを聞けば今後の対応が決まると思いますので」
ありがたいよ、と言えばオニキスも行くと言う。それは何とか了解してくれた。でも、しばらくいて欲しいらしい。本当にいるだけでいいのかと聞けば、オニキスは主である俺がいないから、何に対しても返事をしないと断言したそうだ。うん、オニキスもかなり頭がいいのだよ!
じゃあ、とフルレットと共にギルドに向かう。
当然、オニキスも一緒だけど。オニキスは剣を持ってないので、宝物庫で手に入れた剣をみてみれば、普通より長めの長剣があった。それも華美ではなく有名な鍛冶工がつくった逸品らしい。確かに鑑定でも素晴らしいものと出てた。金額にすれば白金貨数十枚レベルだって。
帯剣ベルトがないので、装備と防具をみてみれば、ありましたよ、専用のものが。なんで別に置いてたんだろうね。価値もわからないやつが持ってても仕方ないでしょ。
さっそくつけてみると言うのでみていれば、それはそれはかっこいいんだ。
ちょっと見直したけどね。
街をみたかったので、大通りを歩いて向かうことにした。
王宮から出て、ゆっくり街をみて歩く。
このあたりは高級な店がたくさんあるみたい。貴族御用達だとフルレットが笑う。
それなら俺たちには関係ないよね。
いい風が吹く街だ。長い髪も後へと靡いて気持ちがいい。少し寒いけどね。
そろそろ寒い時期になるらしく、今のうちにと季節ものを売る店が多そうだ。
歩いて行けば、少しずつ店の様子が変わってくる。奥には住宅地があるらしく、大きな商会が並んでいる。それと一緒に小さな店も増えてきた。そして鍛冶工房や武器屋、防具屋など冒険者向けの店が多くなってきた。住人と冒険者が共存してると言うことかな。このあたりの裏には冒険者用の宿がたくさんあるらしい。迷宮があるから集まるそうだ。だから迷宮産という言葉が目立つんだね。
通りの脇に屋台がいくつも並び始めた。
それに反応したのはフラットとサンだ。
今のフラットは大型のシルバーウルフ姿。サンはいつも通りだね。
『ナギ、欲しい』
『サンもたべたいよ、あるじぃ~』
はいはい、と待ってもらって買い物をする。
「主。我の分も買ってくれ」
オニキスも食べたいらしいので、オッケーする。
どれがいいの、と聞けばフラットは肉串屋の前で止まる。
「らっしゃい! どうだい、美味いよ~」
「じゃあ、肉串を三十五本と野菜入りを三十五本お願いします」
「あいよ! ちょっと待ってくれるか、できてるのは渡すからな。新しいのも焼くから」
は~い、と振り返れば皆ニコニコだ。フルレットだけは呆れてるよ。
他には何かある?
みてみれば、ホットドッグがあるんだけど、フランクフルトが中に挟んである。これ、全く日本と同じだよ!
待っててね、と小走りでその店に行けば、黒髪の男性がつくってる。隣りにはきれいな女性がいるけど、金髪だね。
「すみません、これって何本くらいなら買っていいですか?」
「え? えっとな。パンが百本くらいだけどどうする? ソーセージはもっとあるんだけどな」
ふうん、ひとつ買って味見してみるが、美味い。
「ソーセージってどこで売ってるんですか?」
「俺がつくるんだよ。気に入ったか?」
「うん。気に入った。じゃあ、ホットドッグをできるだけたくさん。それとソーセージって売ってもらえる?」
問題ないらしい。ソーセージだけ買いに来る人もいると聞いた。それはありがたい。
「じゃあ、残る分のソーセージは全部買います。そのままでいいですから」
ありがとうな、とさっそくつくってくれるらしい。
肉串を買ってくるからと戻って行けば、できたてはフラットがアイテムボックスに入れたようだ。
「あと十五本だから、もうちょっと待ってくれな」
「じゃあ、お金払っておきます。さっきと同じようにこの子に渡してください。アイテムボックスに入れますから」
「そうか! と嬉しそうなおじさんにお金を払って移動する。オニキスには一緒にいてもらうことにした。
ホットドッグ屋さんに戻れば、ソーセージを奥さんが用意してくれていた。その分は先に払ってアイテムボックスに入れる。出来上がったホットドッグも受け取ってお金を払い回収だ。
残りは六十本くらいだと聞いて、どうしようかと考える。今からギルドに行くからだ。
オニキス! そう叫べばこちらに駆けてくる。
「これ、たくさん買うんだけど、あと六十本だって。お金を預けるから受け取ってくれる? サン、オニキスと一緒にいて、出来上がったらアイテムボックスに入れて」
承知、了解ときこえて、フラットに念話する。
『フラット。お肉受け取ったらオニキスと合流してギルドに来てね。僕とフルレットは先に行ってるから』
『わかった。もうすぐできるみたいだから、一緒にいくね~』
よろしくね、と頼んでフルレットとギルドに入るんだけど、呆れてたよ。あれほど買ってもすぐなくなるんでしょうね、だって。まあ、当たってるけどね。
「いらしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」
「ナギと言います。冒険者です。ギルドマスターに面会をお願いします」
そう言ったけど、怪訝そうな視線が返ってくる。
「冒険者、ですか。ギルドカードを見せてください」
完全に疑われてるよね。
金色のギルドカードをみて立ち上がった受付のお姉さんは、名前をみて首を捻る。そして弾けるように跳び上がった。
「し、失礼しました。Aランク冒険者ナギ様。ギルドマスターに知らせますので、少しお待ちください」
はい、頑張ってね。
階段を駆け上がる姿に呆れていると、フルレットが呟いた。
「一気に態度が変わりましたね。あれでは受付とは言えないでしょう」
うん、そう思うよ。
「へえ、あのちっこいやつ。Aランクかよ。無理だろそれは」
「縁故じゃないか。どっかのお貴族様とかな」
などと、クスクス笑いと共に聞こえる声だけど。別に言いたきゃ言えばいいよ。
ドドドドっと降りてきた男性はかなりのデカさだね。オーガみたいだよ。
「な、ナギはどいつだ?」
はい、と手を上げれば、やっぱり驚いてるね。
「えっと、ギルマスのソルトだ。で、要件は?」
「数日前からこちらに来てますので、ここのギルドはどうなのかと思って。依頼も見に来ました」
そ、そうか。って、なんでキョドってるの?
フルレットを見つけてあんたは、と聞いてますよ。
「私はフルレット。国の仕事をしている者だ。ナギ様がギルドに行きたいとおっしゃるので同行した」
国の仕事? と首を捻ってますね。
ギルドにいる人が多い気がするけど、迷宮に入る人なのかな。それなら時間は関係ないから。
「そ、それで。このギルドはどうだ?」
どうだって聞かれても。ここしかわからないし……
その時、オニキスがやって来た。後ろに続いてるのはサンの鞄を首にさげたフラットだ。
「主。戻ったぞ。それで、どうなのだ、ここのギルドは」
「よくわからない。まだ来て名乗っただけで、どうだって聞かれてるけどね」
ふむ。とオニキスはギルマスを睨んでいる。
「そ、その人は? それに後にいるのはシルバーウルフか?」
「はい。この子たちは僕の眷属です。シルバーウルフとスライム、そしてドラゴンですね」
ドラゴン!?
おおお? ギルド全体が反応したよ。
「あ、あの。もしかして……この国を滅ぼしたって言うドラゴン、か?」
「うむ。そうである。我が王族を処刑した。それがなんだ、今はユリアロウズ国であろう?」
ガタガタ震え始めるギルマス。そして職員は全員が固まってる。食堂でいろいろいってたやつらは、慌てて姿勢を正したよ。
読んでいただきありがとうございます。
情けない話ですよ、ナギが出発するときに戻ってないなんて。その上、連絡もない。
信じられないですね。甘えてますよ。
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