193 仕方がないから西の辺境に行ってみた。
こんばんは、こんにちは。
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※魔物参考資料 『魔物図鑑』 作者:龍崎 明様
『ファンタジー初心者用語解説』作者:滝川 海老郎様 他を参考にさせていただいております。ありがとうございます。
目が覚めたのは朝だったよ。
なんでこうなってるのかな。
サンとソラも隣に寝てる。フラットはいつも通り大股開きだね。ええと、ソファで寝てるのはノル、なの?
それだけじゃない。
テーブルの上にはいろいろあるよ。
果物やパンケーキ、蒸しパンが山盛りになってる。透き通った布がかけられているから、今すぐに食べたいくらいだ。
サンとソラにシーツを掛け直して、ゆっくり身体を起こしてみよう。
身体は大丈夫そうだ。
ええと、あのまま寝ちゃったのかな。
「ん? おきたかナギ。身体は大丈夫か? 具合悪いところはないか?」
「……うん、大丈夫みたいだけど。あのまま寝ちゃったのかな」
「そうだな。それも三日前にな」
え? 俺、三日寝てたのか。
「そうだ。食事のことはアルム神様が手当してくれた。だから痩せてないだろ?」
「うん? うん、そうみたいだね。そう、三日も寝てたんだ。ええと、ええと! 食堂の店主の返事を聞くことになってたし、西の迷宮もどうするか決めないとだし、代官も鑑定士ないとだし……あと事務局の職員たちと交わす書類も確認してない。どうしよう、何もできてないよ」
「ああはは、心配するな。全て進んでる。店主は職員として雇ってほしいと親子三人に返事をもらった。既にアダムと話をして食材を仕入れ、メニューの試作をしてるぞ。味見はアダムと司祭様たち、俺たち眷属、Bチーム、Aチーム、そしてブートとアニ。屋敷の料理長も参加してくれて、ほぼ決まってきた。事務局の契約書はアルム神様に書類を確認してもらい、多少の変更はあったが、完成した。そして西の辺境のことだが、これだけは勝手に進められない。だからこれからだな。フォレアからも毎日連絡が来る。お前が眠り姫だというと、フラットに連れに来て欲しいと叫んだくらいだ」
あははは、それは申し訳なかったね。
お腹すいたなぁ、と呟いたけど、お風呂にも入りたいから。
「風呂は入ってたぞ。フラットが入れてたが、髪の毛が上手く洗えないというから、俺が入れた。だから髪もサラサラだろ?」
えっと……?
ノルがお風呂に入れてくれたの? そ、それは……
すっごく恥ずかしいんだけど。
でも、まあいいか。
「ありがとう。ごめんねそんなことまでしてもらって。ノルが寝込んだら俺がお風呂に入れてあげるからね」
あははは~と爆笑してるノルだけど、小さいときからフラットをお風呂に入れてたからね。上手だよ、洗うのは。
「わかった。じゃあ、そのときには頼むな。で、メシを食うか?」
うん、食う!
じゃあ着替えをと言われて、ささっといつもの服を身につける。そして帯剣せずにローブを手に部屋を出た。
もちろん、その前にサンとソラ、フラットを浄化してからね。
ノルがフラットに俺が目覚めたことを告げて、先に食堂に行くと言ってくれた。飛び起きたフラットは、嬉しそうに笑顔で見送ってくれたよ。
「ナギ様! おはようございます。お身体は大丈夫ですか?」
「うん、ありがと。心配かけてごめんね」
いえ、それは良いのですが、と執事は心配そうだね。
あ、テーブルにあったおやつ、置いてきたと言えば、ノルがストレージに入れてくれてたよ。
それを渡して保存容器に入れてくれと頼んでくれたんだ。
うれしい、後で食べよう。
いつもの朝食が俺の前に並ぶ。
わ~い、和食だぁ~
ハグハグ食べる。
柔らかいだし巻きは最高だね。今日は鯛の一夜干し、里芋みたいな芋の煮込み、肉煮込み、豚汁、大根とイカの煮物、タコの酢物もあったよ。漬物は食べないので置かれてない。
それぞれ二人前ずつ平らげる。だし巻きは三人前食べました!
その後はデザートですよ。
昨夜出してもらった分は保存容器に入れてくれたらしい、というか、新しいのを作ってくれてた。これはどうするのかな、と問えば職員皆でいただきますので、と言ってくれた。オッドや馬番も食べられるから、ありがたいと言ってくれるんだけど。
ごめん、と謝ってからデザートに突入した。
その時に、フラットとサンが降りてくる。ソラはフラットの腕に抱かれてるよ。その後は俺の腕に移動しました。
大丈夫かとサンが聞いてくれるので、大丈夫と答えれば嬉しそうに身体を揺らす。
そして次に降りてきたアニとブートだが、俺がデザートを食べてるのをみて、アニは泣き出しちゃった。心配かけたんだね、ごめんなさいと謝ったよ。
とりあえず落ち着いた日常がやってきた気がする。
俺が迷惑をかけてたんだけどね。
じゃあ、今日はどうしようかと話を始めました。
西の辺境はどうするか、が最重要事項だね。
「ナギとしてはどうしたいんだ。ブルックスや王弟のことは横に置いといて考えてくれ」
うーん、まあ、あの二人と冒険者たちのことが片付けば迷宮のことは問題ない。それがあれば、民も仕事が増えるし生活も楽になるだろうからね。
「そうだな。それならやることはひとつだな。西の辺境を統べる者を決める。それが最初の仕事だろう」
そうだね、と返事をする。
じゃあ、西に向かうからとノルは眷属たちとBチームを連れていくことに決めたんだ。Aチームは? と問えば街の巡回は欠かせないからと聞いた。
そうだね、それも重要なことだよね。
ブートとアニは? と問えば、事務局のことをやる必要があるか? と問う。
明後日は契約日になるらしいので、今日ならばということだ。それなら一緒に行ってもらおうかな。
行動開始だと、このまま空間を繋ぐことになった。
当然、領主の館の庭に空間を開いた。
突然現れた俺たちを見て驚いたのは騎士たちだ。
「敵襲!」「侵入者だー!」「何者ー!」
そんな風にうるさいことこの上ないですよね。誰かなんとかして~
ほんと、うるさいんだけど!
「お前たち、うるさいぞ。代官を呼べ、今すぐだ。ナギが来たと言えばわかる。そうでないと、必要ない騎士など消すぞっ!」
うわぁ~、怖いねぇ。ノルさん、怒ってますね。
ザザーッと引いたね、騎士さんたち。
こんなところも統率されてるよ、面白いね。
「ナギ様! いらっしゃいませ。どうぞ、皆さんもお入りください」
どうも~
通された応接室で周りを探索します。
とうぜん、眷属たちはみんなやってるけど。ブートは敵意を探し、アニは鑑定魔法を利用して調べてるね。
「お待たせしました。それで本日は」
「ふむ。わからないのか。当地は辺境伯がいない状態だ。お前は代官だろう? つまり代理だ。だからナギがきて当然だろう。何か文句があるか?」
「い、いえ。ですが、先日、ナギ様が私に任せると言われましたので」
何いってんだこいつ。
文字通り代官に命じただけだろうが。
おかしい、何をしたんだ、こいつは。
(鑑定)
ふん、くだらんことをしてくれるな。これだから人は嫌いだ。
「オニキス、ブートとBチームを連れて代官の自宅にいって。地下の小部屋にここから持ち帰った財がある。それを持って帰って」
「うむ。承知した。ならば暴れてよいのだな」
「いいよ。国王の命だからね。文句があるなら王宮へ言えと伝えてね。気をつけるんだよ~」
行って参る。
そう言い、オニキスは騎士を一人連れてブートたちと出ていった。
「こいつも同じだったのか。で、残ってるのか?」
「まあ、なくはないね。アニ、何が見える?」
「は、はい。領主の部屋の寝室に隠し部屋があります。そこに何かありますね。綺麗な箱が積み上げられていますが、部屋に入る方法が見抜けません」
なるほどね、よく見えてるね。
「当たりだよ。部屋に入るのにはちょっと仕掛けが必要だね。そう、この世界では使われない方法で鍵をかけてる。ノル、アニを連れて部屋に行って。侍従長、部屋に案内して。あなただけは無条件で信用できるから」
かしこまりました、と侍従長はドアを開けて待ってるね。この人、本当に平民なのかな。間違いない平民だ。それでも能力は国内の貴族など比べようもないほどだね。決まりだね、この人に。
『ナギ、到着した。寝室に入る扉は壊した。隠し部屋の場所はわかったが、意味がわからない』
「そう。じゃあ、今から解除するよ。少し離れててね」
とりあえず、スキルを作ろうかな。
どんな鍵でも、異世界のロックでも解錠できるスキルが欲しい。ただし、奴隷や隷属の呪いなど、呪いの解除もできるようにしたい。スキル名は『解錠』
(クリエイト)
うん、できました。
じゃあいこうかな。
二階の領主の寝室にある隠し部屋。
(解錠)
ガチャリと音がして指紋認証のロックが外れた。
「ノル、もういいよ。あいたからドアを開けたままで中にはいって。閉まらないようにね」
了解だ、と聞こえてドアを開けたね。
後は任せておきましょう。
さて、他には使える人がいるかな。
(鑑定)
ええと、そこそこいるかな。
ここの屋敷って、平民の方が能力が高いじゃん。
侍従は全員大丈夫だね。五人いるけど見習いはいない、全員高ランクだ。
侍女は三十歳前後か。三人いるけど、良い人数だね。
料理人は、そこそこだね。料理長はあの人か。うわっ、すごいね。王宮料理が嫌いだけど、仕方なく作ってた。元々は庶民の台所という店の主だった。でも、冒険者たちに目をつけられてやりたい放題になり、一般客が来店できなくなった。それで店を締めたのか。
どうやら王弟殿下が食道楽で、評判が高い店の主を手に入れるために冒険者に依頼した。その結果、どこにも雇ってもらえず、領主の館しか働くところがなかった。これはひどいな。最低だぞ、あの王族。
仕事がなくなったから嫁さんにも逃げられたか。子供がいなかったのがせめてもの救いかな。
馬番も優秀だな。下男も人が良すぎるくらいの善人だ。庭師は一人だけど、優秀だぞ。そういえば、庭はスッキリとして綺麗だった。屋敷の庭師と同等だな。
これだけいれば十分だろ。
運営はやっていけそうだな。
執事はいらないから王宮に送るか。そうでないと仕返しとか、気になるからね。
よかった、戻ってきてくれたよ、ノルが。
「フラット、悪いけど侍従長と一緒にいって、執事を捉えてくれるかな。犯罪者を入れる空間に放り込んで」
「わかった。じゃあ、侍従長さん、お願いします」
かしこまりました、と一緒に行ってくれたよ。サンは俺と一緒に座ってるけどね。
「サン、何か食べる? ケーキ出そうか?」
『いいの、あるじ?』
「いいよ。ソラはまだ起きそうにないし、先に食べちゃおう。俺も一緒に食べるから」
あい! と小さなお手々を上げてくれたので、俺がもらってたおやつを出して蓋をあけた。
ミルクの小瓶を数本置いて、自分の分も出しました。
おいしいね、これ。
この前買った新作だっけ。
おいしいね、と言えば、うん~と返事してくれた。
「ナギ、隠し金はどうする?」
「そうだね、持ってて。書類を精査して、出すものは出すから」
わかった、と伝えてアニに侍従長が戻り次第、書類を管理していたのは誰か聞いて。そして内容の確認ね。そう頼んでおきました。
覚えてる間に言っておかないと忘れるからね。
最近はいろいろありすぎたし、全てをやろうとすれば疲れがたまる。だからやり方を変えようと思ったんだ。おじいちゃんも言ってた。皆がいるからって。だからお願いしようと決めた。
フラットが戻った時、すぐにアニが動いたね。
侍従長は食卓にアニを案内して、書類を取りにいった。
その間、俺は宰相、いや、フォレアと水晶板で話してますよ。
適任者を見つけたけど、平民なんだと伝えたよ。その場で国王も水晶板に姿を現した。
『ナギ様。平民でも全く問題ございません。ナギ様が見て問題がないと判断されたのでしたら、その者を任命して頂きたいです。書類は作成して送りますが、正式な任命の儀は後ほどということにいたしましょう』
「そう。それでいいのかな。じゃあ、このまま待って。侍従長、ちょっといいかな」
はい、とアニに頭を下げてやってきたよ。
「ええと、名前は何だっけ?」
「失礼いたしました。私はリミットと申します」
「わかった。陛下、この人が適任者だけど、本人に確認は取ってないんだ。どうしようか?」
『なるほど。そなた、リミットと申すか。我は国王である。ナギ様のお慈悲で西の辺境を何とか立て直したいと思っておるのだ。王弟である前辺境伯が悪事に加担したのは知っておろう。故に、西の辺境にはナギ様が良い人間をと見つけてくださったのだ。どうだ、引き受けてはくれぬか?』
「陛下、私のような平民へのお声がけありがたく存じます。お伺いしたいのですがよろしいですか?」
『申してみよ』
「はい。先程のお言葉ですが、意味がわかりかねます」
『うむ。すまぬ、突然本題に入ってしまったな。実は……』
国王は先日のこと、ブルックスのこと、俺が怒りに依頼を受けない、西辺境にはかかわらないと宣言したことを話した。
驚いていたのはリミットだ。
その上、無理をして東辺境の依頼をこなし、目をかけて欲しいと頼んでいたブルックスに裏切られ、王弟にも愛想をつかした。最初から王族貴族は大嫌いだと。裏切りは許さないと明言していた俺だから、何とかとすがったが、王子、王弟は許されなかった。その上、西辺境も見放されたのだと。全て本当のことを話したね。
だから、今回、良い人間が見つかれば一考してもいいと言ってくれた時には涙が出たと。あまりに甘い己のことを反省し、アルム神様さえご降臨され、叱られたのだと言ったよ。
読んでいただきありがとうございます。
平民の領主って、面白い展開ですね。
今後が楽しみです。
コメント・評価をいただけると、九龍はとっても頑張れます。
明日もどうぞよろしくお願いします。




