第一夜 死んで、仕えて、捕まった
「さぁ、目覚めなさい」
………ここ……は?
「ここは死後の世界です。
私は神です」
………かみ……さま?
「そう神です。
貴方には選択肢があります」
………せんたく……し?
「このまま消えるか。
新たな命を得て願いを叶えるか、です」
……ねがい?
「例えば…ハーレムなんてどうでしょう?」
…ハーレム?
「えぇ、ハーレムです。
貴方を愛する大勢の女性に囲まれる。
そんな幸せなハーレムを作りたくありませんか?」
つくりたい!
つくりたいつくりたいつくりたいつくりたいつくりたいつくりたいつくりたいつくりたいつくりたいつくりたいつくりたいつくりたいつくりたいつくりたいつくりたいつくり…
「では…願いを叶えたい。
それでよろしいので?」
かなえて!
かなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえてかなえて…
「…クク、クケケ!!
良いじゃろう!
貴様の願いを叶えてやろう!
この邪神である妾がなぁ!」
邪神?
なんで?
縁結びの神様じゃ?
それに何も見えないし、体が変だ。
「貴様は今は魂のみじゃからな。
視覚も輪郭も無いわ。
仮初の器が壊れる前に進めようぞ。
手始めに希望を申せ。
さぁ、貴様は何を願う?」
俺の願いは決まってる!
異性に好かれたい!
愛されたい!
ハーレム!
ハーレム!
ハーレム!
「そうかそうか。
つまり精神操作の能力が欲しいのじゃな?
…残念じゃのう。
その願いは無理じゃ。
身の丈に合っておらん」
…え?
身の丈?
「願いには代償が付き物じゃ。
貴様の魂の価値では払いきれんのう」
魂の価値…
それじゃあ、どんな願いなら叶えてくれるんだ?
「そうじゃのう。
女の居場所が分かる能力なんかどうじゃ?
感知範囲は半径1mじゃ。
寿命を繁殖可能になる歳まで減らせば…
叶えられそうじゃな」
なんだよそれ!?
そんな有って無いような能力なんかいらねぇよ!
お、俺の魂の価値はそんなに低いのかよ!?
「妾の言う魂の価値とはな。
他者からの感情によって左右されるのじゃ。
誰かに感謝されたか?
誰かに認められたか?
誰かに尊敬されたか?
誰かに…愛されたか?」
愛されたかだって!?
俺は愛したかったんだ!
愛して欲しかったんだよ!?
「それはお前の感情じゃ。
魂の価値には繋がらんわい」
………そうかよ。
「クケケ!
しかし、そうじゃな?
妾の下僕となるならば…貴様に能力を与えてやろう。
能力が有れば貴様の願い、ハーレムも叶うはすじゃ」
下僕?
それに能…りょ…
「いかんのう?
仮初の器が壊れ始めたようじゃ。
ほれ、早く下僕になるのじゃ。
このままだと能力も得られぬ。
貴様の願いも叶わなくなるぞ?」
…げぼ……く…
……な………る…
「そうか、そうか!
貴様が次に目覚め時は妾の、邪神の下僕じゃ!
新たな命を楽しむが良い!
クケケ!
クケケケケ!」
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
一瞬、浮遊感を感じた。
例えるならば…階段を誤って踏み外した時のあの浮遊感だ。
「ぐぇ!?」
衝撃はすぐに訪れた。
痛む尻を撫でて気付いたが俺は今、服を着ていなかった。
凍えながら必死に拾い集めた厚着が全て無くなっている。
しかし、寒くはない。
少なくともここは雪が降り積もった野外ではないようだ。
どこかに保護でもされたのだろうか?
…いや、違う。
そうだ、思い出してきた。
俺は死んだ。
そして神に…邪神に会って、下僕になった。
ここはどこだ?
暗くて何も見えない。
微かに甘い香りと呼吸音が聞こえる。
側に何かいる!?
俺は息を殺してじっと固まった。
ここが動物の住処では無い事を祈りながらじっと待った。
そのうちに目が慣れてきて周囲の様子が少しだけ分かるようになった。
どうやらここは誰かの寝室らしい。
大きな窓から淡い明かりが差し込み、カーテン付きのベッドが目の前に置かれていた。
寝息はそのベッドから聞こえる。
…非常に不味いのでは!?
今の俺は全裸。
もしも、ここの住人に見つかれば警察沙汰だ。
不法侵入と猥褻行為で現行犯逮捕されちまう。
見つかる前に逃げなくては…
そう頭で分かってはいるんだ。
だが、俺は気になる。
あのベッドに寝ている人は女性だろうか?
もし、女性ならば運命の相手かもしれない。
邪神とは言え神は神。
その神が俺をここへ送ったのだ。
その場の相手も俺の願いに関係しているかもしれない。
いや、そうに違いない!
つまりはあのベッドで寝ている人は俺を愛してくれる人なんだ!
俺は急いで立ち上がりベッドのカーテンを掴むと強引に開けベッドに乗り上がった。
…乗り上がろうとした。
「い゛!?」
信じられない事に掴んだカーテンが腕に巻き付き、捻り上げてきた。
カーテンはぐんぐんと伸び、ついには全身を拘束されてベッドの外の床に押さえつけられた。
口の中にさえ、カーテンが入り込んでモノも言えずにいると部屋の明かりが突然、点いた。
俺は光が眩しくて思わず目を閉じた。
カーテンの向こう側から声が聞こえてきたが言葉は分からなかった。
声は歳の若い少女のもので淡々と話していた。
ドアの向こう側からも慌ただしい足音が近付いてくる。
非常に不味い状態から更に悪化してしまったようだ。
あぁ、せめてベッドで寝ていた人を一目見たかった。
【邪神】
クケケ!
嫌悪、軽蔑、敵意…
負の感情もまた魂の価値じゃ!
下僕よ、とことん嫌われ疎まれるが良い!
その感情は妾の糧となるのじゃからな!