待つもの
田中公園、夕暮れ時に子供たちでにぎわう場所。
学校の帰り道、僕は思い悩んだとき必ずといっていいほど訪れる場所である。
夜には人っ子一人いなくなり、考え込むためには最適な居場所だ。
「入るべきか?入らないべきなのか?」
ブランコに座りゆっくりと漕ぎ始める。
威勢のいい子どもたちとは全く異なった遊び方だ。
笑顔で公園に入れる彼らに尊敬の念を覚え、妬みともとれる感情を抱いている。
ため息交じりの吐息がそれを物語っていると実感できた。
――
「さあ、答えなさい入りますと!」
「ごめん、ちょっと考えさせて。」
「ったく」
――
なんであの時うんと力強く言えなかったのか。
僕と彼女は全く違う存在なのである。
あんなにアグレッシブで、友達も多く、そして容姿も端麗。
ああいう人は何の苦労もなく、生活を送ることが出来ているんだろう。
それに引き換え僕は、いつも人の目を気にして、嫌われているんじゃないのか、どこかで陰口を言われているのではないかと考えると心配でままならない。
毎日の生活が崖っぷちで、ハーネスなしでロッククライミングしているようなものだ。
ため息の数が大きくなる。
ブランコをこぐスピードもさらに遅くなる。
「ピコン!」
スマホから通知が一通。
僕はポケットからそれを取り出し、確認する。
「どうせ、クーポン券が届きましたとかくだらない通知だろう。」
しかし、予想とは違い、ぴよりんの配信予告通知であった。
僕は、あの一件からチャンネル登録し、配信があればリアルタイム視聴をしていた。
「今日は苦行ゲームジャンプクイーン攻略その29か。いつまで続けるんだ全くクリアできないゲームなのに。」
ジャンプクイーンはいわゆる落ちゲーだ。少しでも操作ミスをしてしまえば、また最初からの挑戦となる。
このゲームをクリアできるのは、数パーセントだそうだ。
「ハイ皆さんこんばんは!あなたのよりどころぴよりんでーす。今日はあのゲームの第29弾だよー。今日こそクリアするからねー。」
さっきまで学校にいた人が今は少し遠く感じるネットの世界にいる。
何か奇妙な感じだ。
「だはー、何このゲーム、クソゲー?あっ失礼しましたぴよ。よーし気を取り直して頑張るよー。」
同じところで何度も何度も失敗して、どうしてあきらめないの。
コメント欄も全く流れなくなっているし、需要なんてないんじゃないか。
「うーん、おりゃー、もーー。あきらめないよー。」
中には、心無い言葉を吐き捨てるものだっている。
「つまんな。(コメント)ありがとうございます。もう少し面白くなるように頑張っていきますので、応援よろしくお願します。」
僕は上に行くことが怖い。
それだけ、皆に注目されてしまうから。
でも、彼女はそれを恐れず、どんどん進んでいる。
少し声がかすれている気がした。
これはいつも彼女の声を聞いている近しい人にしか理解できないモノだ。
「広江さんも苦労しているんだな。」
「もう少し、後ここを登れば、よしっよしっいったぴよ!」
無理なものなんてないんだ。誰もがだれも初めから最強なんてことはない。
多くの悩みを抱え乗り越え成長しているんだ。
ブランコを止め、僕は立ち上がり大きく息を吸った。
「僕は、やるぞー。」
いつもは、チカチカしてつくのかつかないのか曖昧ないな電灯は今日だけは、思い切り点灯していた。
評価の程をよろしくお願いいたします。