006話「エルフの協力者キュリテ」
奈々を連れ帰ってきてから2ヶ月が過ぎた。
夢希は、奈々がもしもの時の護身の為に、この2ヶ月間牢獄してある囚人や侵攻している国の王族達を彼女の手で殺し、レベルを上げていた。
アマテラスに連れて帰った次の日には、昨日まで無かった彼女のステータスが夢希の「スカウター」のスキルで見えるようになっていた。どうやら前世の世界から連れていくと、この世界で生き抜く為の力が授かるようだ。
奈々は特に魔法の才能がかなりあり、次々と強力な魔法を取得している。
だが…、何故この世界の人間は稀に魔法と科学の両方を持つ者又はどちらも持たない者が居るのか…。何故この世界に女性しかいないのか。何故この世界の人間がタマゴから産まれるのか…。いずれにしろ1000年以上生きた夢希はこの世界の事を全て知っている訳では無い。
…話を戻すが、奈々は最初こそ「ごめんなさい…」やら「殺すつもりは無かった…」等言って抵抗感や罪悪感を感じていたが、1週間もしないうちに彼女はかわった。
前世以上の人格や性格が最悪の人間達を殺し、彼女らに奴隷や家畜同様の扱いをされた善良の住人達からの感謝で、やがて奈々は今の夢希同様の性格になり、クズ達を殺す事で大きな快感に満ちていた。何時しか看守達からは異名として「愛と殺戮の魔女」と呼ばれていた。
同時に夢希の前世の名前を一切言わなくなり、先日産まれた彼女と自分の子である「奈緒」の子育てを両立していた。フロールの子であるフローラも妹として一緒に遊んでいた。
この世界と国に住み慣れた奈々に今から半月前に特注品としてこの国の普段着である水着を贈った。この国では全員緑色を着ているが、奈々には特別に彼女の好きな色であるオレンジ色にしてある。
さて、肝心の夢希なのだが…。ある人物に会うために城下町の店に向かっていた。
フライドチキン店「バード・フライ」に入っていく。
店員「あ、夢希様!いらっしゃいませ!」
夢希「今日は『林檎鳥』を丸ごと1匹頂くわ」
そう行って店員について行く。
そこには、色んな種類の鳥が入った四角の結界がいくつもあった。
これは夢希が十数年前に壊滅した国の魔法を参考に開発した料理素材保存魔法の「冷蔵結界」である。
これは多くの素材を小さくコンパクトに入れられ、品質や鮮度をどんなに長時間経っても入れた時と全く落ちない保存性が高い魔法である。また、消費する魔力は前世の世界の冷蔵庫の消費電力と比べると、10000分の1しか消費しないし、当然ながらCo2も全く出ないので、コスパ的にも環境的にも良い。
夢希は特に良いのを選び、数分後に丸ごとのフライドチキンを調理してもらった。
夢希はフォークとナイフで肉片を切り取って食べた。
林檎鳥…その名の通り、リンゴの風味が口の中に広がって、まるでリンゴを丸ごとかじっているような感覚だった。
肉は食べ終わり、骨だけが残ると、店員にある事を頼んだ。
残った骨を、熱に満ちた油に入れた。
夢希「普通鳥の骨は食べれないけど、この世界の鳥の骨は美味しく食べれるから、デザートとして食べれるわね」
揚げた骨をカリっと噛んで砕いた。
まるでポテトチップを食べているような感触だった。
骨も食べ尽くしコーラを頼んで食後のドリンクを堪能した。
すると、夢希が座っているテーブルの向かいに誰が座った。耳が長く尖っている。
???「彼女と同じチキンと飲み物を」
店員に注文した後、その人物は夢希に顔を向けた。
???「よ!久しぶりね魔王姫ちゃん!」
夢希「…『キュリテ』か…」
キュリテ「あらあら…。私の顔を見た途端に怒ったような顔をして~。お姉さんキライになっちゃう~❤」
夢希「この世界で唯一の長寿のエルフとはいえ、私の5倍以上も長生きしているクセに『お姉ちゃん』って…」
キュリテ「相変わらず塩対応ね…。そこが貴女の可愛い所でもあるのよ❤」
彼女の名前は『キュリテ』
先にも言った通り耳が尖って長寿のエルフであり、夢希が信頼できる数少ない人物でもあり、情報屋兼武器商人でもあった。
身長は170cm前後、外見は女子高生に近く、髪色は緑のメッシュをした金髪。髪型は(前世の知識ではあるが)夢希が知っているエルフでは珍しくボブショートである。
彼女が何故このエルフの女性と知り合いなのかは…それはまた別の話で…。
夢希はキュリテとはビジネスの関係で、ある物を引き換えにこの世界の情報や武器に素材等を提供してくれる。夢希が他の国にはない制作した魔法や兵器は、彼女の協力があっての事。性格面には少々面倒で苦手だが、夢希にとっては切っても切れない付き合いである。
曰く、年齢は『ヒント1<X<100000歳』らしい(先程の夢希の発言は、この世界の経験上の推測である)。
キュリテ「前置きはさておき、素材と魔法の参考本といくつかの武器、そして最新の情報を引き換えに、いつものの例の物を」
夢希「わかっているわ…。今回は前から欲しがってた物で…」
夢希は(大荷物を運ぶためにお気に入りの手提げバッグの代わりに)大きなリュックから大きな入れ物を取り出した。
中には、様々な色や大きさをした炎がたくさん入っていた。
キュリテ「ほぉ…これが君が言っていた前世の世界の魂か…。確かにこの世界…いや、それ以上の悪意や負が満ちてるね♥流石お得意様」
夢希「お世辞はいいわ。あくまでビジネス。取引用の物価をついでに手に入れただけよ」
魂を入れている入れ物は『魂の監獄』で、死んだ者の魂を閉じ込める物である。
キュリテ曰く、死んだ者の魂は本来輪廻転生し、記憶を全て消え、新たな姿状態で新たな生を受けるらしい。
しかし、この魂の監獄は、その名の通り、転生せずに監獄に閉じ込めるらしい。
キュリテは何故魂を集めているのか?本人曰く趣味で集めているらしいが、その真偽は不明である。
夢希は、この魂を集めて、情報などを得ている。
キュリテ「さて…約束通りの素材やこの世界の情報を…」
キュリテは、新たな素材のマップを夢希に渡した。
キュリテ「今回の情報だけど…貴女にとって面白い話になるわ」
夢希「何よ?またムチャクチャな事を言う気じゃないでしょうね?」
キュリテ「聞いたわ。フロールが死んだって。この十数年前姿見せないし、話したがないと思ったけど…」
夢希「…」
夢希は暗い顔をする。自分がしっかりしなければ、彼女を死なせずに…。
キュリテ「…もし、生き返らせる事が出来たら…って言ったら信じる?」
夢希「!?」
キュリテ「思った通り、この話に食いついたわね」
キュリテは、運ばれてきたチキンとコーラを食べたり飲みながら話をした。
キュリテ「ある王国で、人を生き返らせる魔法の研究をしていて、戦死した兵隊を蘇生して戦力をほぼ保ち、ハーフや素質無しを壊れた玩具を治す如く何度も生き返らせてまた壊れるまで痛めつけまた生き返らせる。『殺してくれ』って頼んでもお構いなく何度も」
夢希「なんて酷いことを…。けど、その方法を知れば…!」
キュリテ「いえ、生き返らせるのはあくまで、死後半年以内。十数年も経っちゃムリでしょうね」
夢希「何よ…。ぬか喜びをさせて私を…!」
キュリテ「待ちなさい。話を最後で聞きなさい。つい最近知ったことだけど、新たな蘇生の研究をしていると聞いてね。…貴女、まだフロールの魂はあるよね?」
夢希「え?えぇ」
あの事件で死亡した住人達の魂はキュリテに少しずつ提供したが、フロールの魂だけは渡せず、今も自室に飾ってある。
キュリテ「噂程度のレベルだけど、その研究が、魂さえあれば死んでからどんだけたっても生き返らせる事ができるらしいわ」
夢希「!?ホントなのそれ!?」
キュリテ「あくまでも噂だけどね。…もしその方法を手に入れれば、あるいは生き返らせるハズ」
フロールが生き返れる…。しかし、それはあくまでも噂で、僅かな可能性に過ぎない。けど…。
夢希「どこの国なの!?」
キュリテ「第4343の国…名を『ルトゥール王国』」
2週間後
夢希達は、キュリテに案内され、王国が見える丘まで来た。
夢希「あそこがルトゥールか…」
キュリテ「そうよ。戦力こそ劣るけど、先にも言った通り、蘇生の魔法で何度も蘇るから、ある意味相手にしたくない国なのよ」
夢希「まぁその余裕も、もうすぐ終わるけど」
しかし、零帝国からそんなに離れてない距離とは…。最近知ってよかった。知らずに攻めて滅ぼしたらもう手段はなかったであろう。
夢希「よし。みんな!いつもの通り、まずは情報収集よ。変装して街中で気になる情報を集めていくわ」
バレないように数人で分かれて国に入る。
残りは万が一のためにキュリテと共に丘で待機。
夢希を含めた一同は不審がれることも無く侵入し、城下町を探索する。
夢希 (さて…どこから…)
近くの店の看板を見ると、『おもちゃ屋ドール』と書いてあった。中から人の悲鳴のような声が聞こえる。壁紙には「修理も受け付けます」と書かれている。
夢希(人を玩具同然と言ってたのはホントらしいね…。けど、今は情報集め。悪いけど、ここはガマン…)
酒場で(夢希にとってかなり不味い)料理を食べていると、ある噂話をしており、耳を傾けた。
貴族風住人1「ねぇ知ってます?あの4つの同盟国の噂を」
貴族風住人2「えぇ。100年位前から突如総力を上げたあの…」
貴族風住人3「確か、4つの国は50歳の若さで政治に就任したって」
貴族風住人1「何やらここ最近、その周辺の国を壊落しているらしいわ」
貴族風住人3「え!?まさか、1000年前から起こっているいくつのも国が滅んだと言う謎の…」
貴族風住人2「けど、時期的に関係は無いのでは?だって1000年以上も前で」
貴族風住人1「さあね。変わってから狂ったように国を攻め落としているのは確かよ。噂では王女4人共不死身らしいのよ。胴体を斬っても炎に焼かれても死なないらしいわ」
貴族風住人4「何よその化け物!?」
貴族風住人1「あくまで噂よ。…けど、それより信じられないことに…その4人の王女達は、汚れた血や劣等種を保護してるらしいわ」
貴族風住人2「何でそんな存在価値が無い連中を!?」
貴族風住人1「さあね。確かなのは王女達は狂ってる事に間違いないわ。時々奇妙な事を叫んだりしてるらしいから…」
その噂を聞いていた夢希。
夢希「同盟国?皆どう思う?」
看守1「分かりかねません。夢希様に似た事をしているとは…」
夢希「そうよね。一体何の目的で…。この世界の連中はまともなのは殆ど居ないハズだけど…」
王女達が不死身ってのも気になる…。それだけ力が強く様々な対策があるのか?それとも…?
夢希「…今は気にする必要は無いわ。目的はこの国の情報よ」
5日間の情報集めを終え、ミーティングを始めた。
看守2「城を調べた限りでは、どうも地下室が怪しそうです」
夢希「地下室?」
看守3「警備が特に厳重で…時にこの国の王女が時々出入りしているみたいで…」
そこが研究室だろうか…。
夢希「よし!地下室は私と数人で行こう!残りは私の連絡の合図が来たら、いつものように国を滅ぼし、クズ達の生け捕りや抹殺、そして奴隷等助けられる人達の保護を‼」
看守達「了解‼」
夜になるのを待つ間に、夢希は先日キュリテから魂を引き換えに買ったオートマチックハンドガン「64N54」を試し撃ちしていた。
前世で有名な拳銃「ワルサーP38」をベースにしているが、見た目に反して装弾数は25発。特定の方法で消音器効果を貼ることもでき、オプションで擬似的な狙撃銃にしたり実弾は勿論、麻酔弾や麻痺弾等を発砲したりできる。
何故キュリテがこんな物を持っていたかは、曰く「企業秘密」との事。
夢希はこの数日この銃を試し撃ちし続けていたが、妙なガタツキや反動も無く扱いやすい。
銃の重量も軽くなっており、夢希なら片手剣かナイフかハンドガンなら二刀流も可能である。
夢希(リロードしなきゃいけないのは変わらないけど、研究中の魔法で応用すれば、隙をかなり少なくなるハズ。今回のような狭い場所なら、魔法や下手な武器よりもハンドガンの方が頼りになる場合もある)
射撃練習を終え、空になったマガジンを抜き、新しいマガジンを差し込んだ。
数時間後の夜
夢希達は無数の警備員を背後から口を抑え、致死率の高い毒薬が入った注射器を首筋に注射し、警報される事もなく抹殺し(殺した警備員達の魂をちゃっかり魂の監獄で回収した)、地下室への階段を降りる。
降り切ると、そこには頑丈な扉があった。
夢希(随分分厚そうね。…ま、こんなの私にかかれば…)
夢希は「透視」の魔法を使い、扉の向こうを見た。
そこにはやはり研究室のようで、壁に貼られている紙には、「魂の蘇生の実験経過」と書かれていた。
夢希(情報通り、魂があれば生き返らせる事ができる研究をしてるようね。この研究を悪用すれば…。私が正しい使い方をしなければ…)
電話を取り出し、外で待機している看守達に連絡した。
夢希「…私よ。情報通りフロールを生き返らせる事は可能みたい。予定通り研究室を制圧するわ。貴女達も5分後に予定通りに攻撃を開始して」
リン『了解しました!夢希様。ご武運を…』
電話を切り、厚い扉を思いっきり蹴飛ばした。
強引に開けられた扉の音で、中の研究員達や王女が驚いた。
王女「だ、誰よお前達!?」
夢希「お前達クズに名乗る名前は無いわ」
研究員1「何を寝ぼけた…げふっ!」
言い終わらない内に夢希は64N54で発砲し、頭を撃たれた研究員は吹き飛んで倒れた。
王女「なっ…!?」
夢希「…殺れ」
看守達が一斉に入り込み、研究員達を殺し始めた。
王女「どんな目的かは知らないけど…我が国には蘇生の………」
またもや頭に発砲し、ルトゥールの王女は死亡した。
夢希「悪いね。少し急いでるのよ」
ここは看守達に任せて研究資料を調べ始めた。
研究員達が夢希に魔法で攻撃しようとしたが、いずれも看守達に遮られた。
夢希(確か「魂の蘇生」だったわね…)
かき分け続けると、「魂の蘇生」と書かれた研究レポートの本を発見した。
夢希「これだ!」
開いてみたが、何故か文字がモザイクのようになっていて読めない。
夢希「襲撃者対策の魔法か…ちょっと…」
振り返ると、夢希と看守以外の生存者がいなかった。
夢希「ありゃりゃ…。解読法を聞こうと思ったのに…。ちょっとモタモタしちゃったか…」
これでは読めそうに無い。ここはキュリテに何とかならないか聞いてみようか。
すると、電話が鳴った。
夢希「リンか?もう終わった?」
リン『思ったより早く終わりました。指揮官である王女が居なかったせいか、呆気なく全滅しました』
夢希「そう。これから帰還する。10分以内に奴隷や住民を連れて脱出して」
電話を切り、レポート本やいくつかの役立ちそうな資料を看守達に渡し、国を1つ吹き飛ばす時限爆弾「銀河爆発石」をタイマーセットした後に設置し、夢希達は脱出した。
10分後
大爆発した国を、夢希達は丘から眺めていた。
キュリテ「ほ〜、さっすが私お手製の銀河爆発石♪相変わらずキレイな花火を咲かせるね♪」
夢希「それで?この研究レポート読める?」
キュリテ「どれどれ?」
キュリテは本を開き、モザイクかかった文字を見た。
キュリテ「高度な情報防止の魔法ね…。少し時間がかかるけど、何とか解析してみるわ。私に預せて?」
夢希「わかった。頼んだわ」
数日後の夜
何とか城に帰還し、自室でベッドに飛び込む夢希。
夢希「今回もやり切ったわ…」
仰向けになり、自室を見渡した。
前世の自室から持ち帰ったゲームやぬいぐるみにマンガ本等。
あっちにとって約数日しか経ってなかったとはいえ、あのクズ家族の性格上、夢希が稼いで貯めて買った物をどこかに売ろうしてたので、無断で売却は免れた。
次に見たのはこの国で作られたゲームにぬいぐるみ等。夢希の知識を参考に多くのゲー厶が作られ、多くの住人も愛されている。
そして最後に見たのはフロールの魂。
あの日の事が未だに忘れられないが、彼女を生き返らせる事ができる。
時間はかかるが、必ず生き返らせてみせる。
そう決心すると、電話が鳴った。
もう解析が終わったのか?
夢希「もしもし?…なんだヒナタか…。え?今なんて?」
ヒナタ『先ほど前世の世界にいる看守から連絡がありまして…夢希様を精神的に傷つけ追い詰めたSNSとやらのクズ連中を全員見つけました‼』
夢希「そうか‼それじゃ、1週間後に出発する!それまで準備をしときなさい!」
電話を切り、夢希はしばらく笑っていた。
夢希「やっと…1番復讐したいクズ達を発見したわ…。私の好きを否定した報いを受ける日がやっと来たわね…」
夢希はバッグから転生してからずっとやり続けた「大乱闘スマッシュブラザーズSP」が入っているゲームを手に取り見つめた。
夢希「私を誹謗中傷した事を…死んでも後悔し続けるがいい…」
R-18版にも書いてありますが、新キャラクターの「キュリテ」は、ゲーム「MGS4」に登場する某武器洗浄屋をキャライメージにしています。「キュリテ」という名前は実名ではないが本名は不明らしい。名前の由来はフランス語で「闇」からきている。