010話「マネー・リッチ」
もうこんな早いタイミングで現れるとは…。
LPの1人、「マネー・リッチ」。
何だろう…不老不死の上レベルやパラメータがカンストをしているのに…、この付近では熱帯地があるのに…、痛々しい寒気がする…。
100年以上しか生きていないのにこの威圧感…。
夢希と同じ…いや、それ以上生きているような感じ…。
一瞬でも気を緩んだら…キュリテの言う通り、死ぬかもしれない…。
けど、前世と今世の世界を逆襲するまで、フロールを生き返らせるまで、理想の楽園世界を作り上げるまで、死ぬわけにはいかない!
夢希は、突然の攻撃を避けながら、スカウターで分析する。
夢希(マジック「ライフアンチ」?これを使うと、受けた相手は一定時間体力の最大値が1になる…か)
いくら防御力や魔法防御力がカンストしていても、低攻撃力や魔法攻撃力をカスってしまえば、1のダメージを受けるのはゲームでは珍しくない事だ。
MPの量と消費率からみて、4発が限界のようだが、MP回復アイテムを持っているかもしれない。
名前だけではどのような魔法なのかは分からないが、どちらにしろ警戒だけはした方が良いようだ。
夢希は剣と64N54を取り出し構えた。
奈々と蓮花も杖と銃を構えた。
マネー「…へぇ…たった3人で挑んでくるなんて舐められたものね」
初めてマネーが喋った。
夢希「へぇ…無口と思ってたけど、意外ね…」
マネー「緑のビキニに緑髪と紫のメッシュのサイドテール…。なるほどね。オガエの言っていた『復讐の魔王姫』か…」
夢希「他のLPの情報か…。情報が漏えいしないようにクズ達はすぐに殺すか意識を奪うけど…。どうやって知ったの?」
マネー「幼いころから他の国々が謎の崩壊をしていると聞いたことがあったけど、王女に就任しオガエ達に出会ってからそれを調べていたら、貴女の事を突き止めたのよ。…何故だか居城までは分からなかってけど」
零帝国はその周辺まで外界からは見えないようにステルスの結界を張っているが、「メーブル大量虐殺事件」の一件で、島から出入りしている者を除いた侵入者や脱走者を即始末出来るように、警備の強化等している為、場所までは認知されてない。
夢希「ご想像にお任せるとして、私が魔王姫『緑奈夢希』よ。…聞くまでも無いと思うけど、私の命を狙っているのは本当なの?」
マネー「…本当よ。貴女は私達の作る世界の害と判断したわ」
夢希「…同盟を結ぶ手もあるけど?」
マネー「貴女には強い悪の力を感じています。仮に同盟を結んでも、全てが終わった直後に裏切るでしょう」
夢希「善人じゃないってことは否定しないけど、私はクズ達のような裏切り行為をしたりはしないわ。貴女達だって私と同じ事をしてるじゃない」
マネー「私達はあくまで世界の害を排除しているだけです」
夢希「…まぁいいわ。同じ目的でも、その道を通れるのはどちからのみ…。私は私の信じるやり方をするだけ!私の命を狙うことは、私を否定してると同じ。だからお前達の物語はここで終わりよ!」
すると、突然…。
マネー「…そうか。貴女も同じなのね…」
何やら赤いオーラを纏っていた。
マネー「だったらここでお前達をぶっ殺してやる!」
先程と打って変わった。
鎧から赤と黄金のトゲがいくつも生えてきた。
杖は禍々しい形に変貌した。
まるで、怒りに満ちているような…。
夢希「2人とも、万が一の時はすぐに逃げて」
2人はうなづいた。
マネー「ゴールデンサンダーっ!」
杖から無数の電撃を放ってきた。
3人は避けて、攻撃した。
マネー「ウッドタワー!」
足元から先が尖った木が飛び出してきた。
マネー「レインアイアン!」
更に鉄の雨が降り注いできた。
反撃の余裕もない。
夢希(どれもこれも見たことない魔法だ!)
マネー「トラップサークル!」
逃げる夢希の足元に魔法陣が出現し、足が動かなくなった。
夢希「!?」
すると、マネーの上に強力な魔力を感じる…。
…まさか。
マネー「その命、刈り取ってやる!ライフアンチ!」
何も無い空間から無数の光の光線が放射され、夢希を貫いた。
夢希「っが!」
すぐにスカウターで確認すると、やはり自分の体力の最大値が1になっていた。
マネー「レインアイアン!」
またもや鉄の雨が降ってきた。
1発も受ければ、やられるかもしれない。
蓮花「させるか!バルカンバスター!」
数発撃ち出すと、弾丸から更に無数の弾丸が飛び出し、鉄の雨を次々と相殺した。
すると、ライフアンチの効果が切れた、最大値も無限に戻った。思ったよりも効果時間が短いようだ。
夢希「拘束も切れた。少なくとも後2~3発。もう当たらないわよ!」
マネー「黙れ!私の怒りはこんなものじゃない!アクアカッター!」
水でできたカッターが迫ってきた。
それも上手く避ける。
他の魔法を使わせれば、MPが減り、ライフアンチに必要なMPが足りなくなる。
このまま持久戦に持ち込めば…。
…だが、それを見抜いていたか否か、マネーはMPを回復するポーションを取り出し、それを飲んだ。
夢希「半永久的に発動できるか…。対策済みか…」
マネーの怒りのボルテージが増し続けるが、少し異変が出始めた。
マネー「ウッドタワー!」
先ほどから対象の位置から少しずつズレている。
奈々「さっきから、狙いが外れてきてない?」
蓮花「もしかして怒れば怒る程、集中力が落ちてきてない?」
夢希「なら…逆にそこを突けば…」
2人に小声で作戦を伝える。
奈々「わかった!」
蓮花「あぁ!」
3人は改めて構え直し、夢希は64N54で走りながら銃撃する。
しかし、どれもマネーには当たらなかった。
マネー「どこを狙っている!」
再びライフアンチを詠唱し始めた。
夢希はニヤリと笑い、横に飛んだ。
その向こうに、火の銃弾と雷がマネーに向かってきた。
マネーはかすりながらも避けると、杖と銃を構えた奈々と蓮花がいた。
蓮花「どうした?その程度なの?」
挑発すると、マネーの怒りは更にボルテージが上がる。
マネー「ふざけやがって…。リッチレイン!」
マネーの小袋から大量の金貨が溢れ、それらが2人に襲いかかってきた。
走って避けるが、追ってくる。
蓮花「減るどころか、どんどん量が増えてくる!マネーと言う名前通り、大金持ちだなっ!」
奈々「感心している場合じゃないよ!作戦通りに!」
マネーは何か違和感を感じた。何がおかしい?
何かに気づくと振り返った。
夢希は迫ってきた。
あの2人は自分を怒らせるための囮で、本命はこっちだ。
夢希(バフの魔法で攻撃力やスピードを上げまくった!この攻撃でっ!)
だがマネーは、ライフアンチを素早く詠唱し、夢希に向けて放った。
夢希(…まだ!ギリギリまで引き付けて…)
魔法と夢希の距離が縮まり、そして衝突…。
夢希「…今だ!」
直前にネックレスを引きちぎり、MAXのステータスを解放し、魔法を受けながらも怯むまもなく接近する。
マネーは慌てて詠唱し始めたが…。
夢希「その程度の力と覚悟じゃ、私の命は例え死神でも刈り取る事は出来ないわ!フロールとの再会と、理想の楽園世界を作るまでは!」
剣を大きく握りしめ、回転斬りを放った。
マネーの鎧に直撃し、その鎧を砕いた!
夢希は着地し振り返ると、少しづつ鎧が崩れ落ち、中からは、先程の怒りの声を出していたとは思えないほどの、美しい顔や体の全裸の女性だった。
2人は夢希に駆け寄り、それに見とれていた。
夢希「…これが…正体…」
こちらに向いてきた。
夢希「気をつけて。何を仕掛けてくるか分からないわ」
すると、マネーは不気味に笑いだした。
警戒しながら武器を構える。
すると、笑っていると思ったら、今度は頭を抱えながら崩れ落ち泣き叫んだ。
夢希「??」
マネー「いやッ!やめて!もうお金無いのに私を傷つけないでッ!私に怒りをぶつけないで!」
何度も何度も同じ内容を狂ったように泣き叫んでいる。お金やら怒りやら…。
しばらくして、ゆっくり立ち上がり、おっとりとした顔をしながらこちらに近づいてくる。
マネー「お願い…私を…お金と…怒りから…解放して…」
何かの罠か?
どちらにしろ攻撃体勢に入る。
蓮花「このっ!」
CLT-862で銃撃をしたが、ゆっくり歩いたまま横にステップ移動で避けた。
奈々「ウォーターカッター」
水の刃を飛ばしたが、先程同様に避けた。
夢希は剣で攻撃する。
しかし、まるで予知しているのか、かすりもしない。
そのまま夢希にしがみついてきた。
夢希「この!」
思いっきり蹴飛ばした。
かなりの握力だ。なかなか離れない。
夢希「2人とも!私に構わずに攻撃して!」
2人は驚きなぎらも、一斉に攻撃した。
2人の攻撃が夢希とマネーに次々と当たる。
夢希「言ったよね?私の命は死神にも狩り取れないって!」
剣をマネーの腹を刺し、64N54で頭部を撃った。
トドメに炎と雷の魔法を放った。
マネー「あ…あぁーーーーっ!」
彼女は大きく痙攣し、崩れ落ちながら倒れていき………
光に包まれると、1つの花になった。
恐る恐る近づいて手に取ると、つぼみに目を閉じ交差した手ブラをしている裸のマネーがいる。
花の色は怒りに満ちているように赤かった。
蓮花「…やったのか?」
夢希「…多分」
今までの王女達と次元が違った。強さと、彼女の苦しみが…。
脇を向くと、マネーの杖が地面に刺さっており、それを抜いた。
何やら怒りに満ちて、更にお金に執着しそうな、そんな感じがするような杖だ。中には、魔法の使い方の残留が残っているようだ。
戦利品として貰っとこう。
すると、夢希のスマフォが鳴り、電話に出た。
キュリテ『やぁ魔王姫ちゃん。調子良さそうね』
夢希「…キュリテか。なんの用なの?」
キュリテ『つれないねぇ。せっかくのお得意様に、その杖と花について教えようと思ったのに』
杖はともかく、花になったマネーの事を何か知っているだろうか?
フロールを生き返らせる手がかりになると思い、スピーカーをONにして2人にも聞かせた。
キュリテ『その杖に残る魔法の特に注目なのは、生物と液体を除いた物質を金に変える魔法のようね。これを利用すれば、金の素材を簡単に手に入るわね。良い物を手に入れて良かったわね。それでその花はマネー・リッチの残留生命である不老不死と怒りの魂が封じられているわね。それを使えば、自分と味方の攻撃力と魔法攻撃力をしばらくアップするみたいね。…さしずめ『命の花・怒』ってとこね。それなら蘇生魔法のエネルギー源の1つとして利用できるわ』
夢希「…けど、どうやらこの杖はマネー本人しか発動できないようになっているわね…。このままでは使えないわ」
キュリテ『その杖からスキルで奪う必要があるみたいね。夢希ちゃんなら楽勝よね?』
…「スキルシーフ」の事か…。
夢希「…私に近づいた本当の目的は覗きなのね」
キュリテ『顧客情報管理と言ってよ。勿論、外部には漏らさないから安心して❤…それはそうと、見てたわよ夢希。大したものね。不老不死とレベルとステータスカンストとはいえ、まさかこの世にLPのマネー・リッチを3人がかりで倒す者がいたとはね…。彼女は怒りに満ちていながら金に執着していた…何故だと思う?』
夢希「…前世に原因が?」
キュリテ『えぇ。彼女は貴女と同じく日本と言う国で生まれたわ。…けど、その生活環境はお世辞にも良いとはいえなかった。彼女が物心がついた頃には親から酷い虐待を受けていた。しかも家は貧乏で借金だらけ。学校でも常にイジメの標的にあい、教師を初めとした周りの大人達からも彼女に原因があると一点張り。町中からも彼女を白い目で見て、生卵や汚物を投げつけられてくる。…しかし、彼女に10歳になろうとした時に最悪の出来事が起こった。なんと同級生の給食費とやらのお金を盗んだとの事件が起きた。周りの大人からは一方的に責められ、無実を訴えても聞き入れられなかった。犯人は別にいるのかそれとも盗みはでっち上げだったのかは彼女は分からなかったが、大人達の後ろでくすくすと笑っているクラスメイトに目が入った。そして大人達から「すぐに盗んだと認めろ!認めないと警察に逮捕されて死刑だ」と言われた時に彼女の中の何かが切れた。気づいた時には、手にはハサミを持っていて、身体中返り血だらけで、学校の中にいる生きている人間は彼女1人だけだった。そして彼女の中の何が壊れ、親や町中の人間達を皆殺しをし始めた。警察官とやらも産まれたばかりの赤ちゃんも関係無く次々と。そして我に返った時には、この町にいる自分以外の人間は全員死んでいた。中には口では言いたくないような惨い死体になっていた者もいた。そして彼女は吹っ切れたように皆殺しに使った凶器で自決した』
蓮花「何なのその話!?真相はともかく、そんな大規模な事件聞いた事が無いんだけど!」
キュリテ『無理も無いわね。その事は貴女達の元の世界とは似てるけど全くの別の異世界…。貴女達の言葉では「平行世界」…つまり「パラレルワールド」の出来事なのよ』
奈々「平行世界って、本当にあるの?」
キュリテ『少なくとも、それは貴女達の元の世界をベースにしているようね。アマテラスでは平行世界は無いようだから、それはそれで残念だけど』
平行世界か…。もしかしたら他のLPも…。
キュリテ『それはともあれ、マネーの世界の政府や警察と言う組織は、これを隠蔽したってわけ。転生後の彼女の心に深く刻み込まれたのか、以降怒りを事とお金に執着する事を止められなった。しかし、その怒りは本来の怒りじゃないわ』
夢希「…何故私達にそんな話を?同情しろとでも言う気?」
キュリテ『…イヤ、貴女はそんな甘い世界に生きてはいない。…けど、あれはある意味正解だったわけよね』
夢希「何の話?」
キュリテ『貴女達と戦った事で、彼女の心も体も精神も浄化された。…さて、長話もここまでにしておこうか。貴女を狙っているLPはまだまだいるわ。気を抜かないようにね』
そう言ってキュリテは電話を切った。
かくして、LPの1人「マネー・リッチ」は倒され、戦場になった国とマネーの国である2271の国の保護できる住人達を零帝国に移され、その2つの国は滅ぼされた。
夢希は2人と共に自室のベットに座っていた。
夢希「今日はいきなりあんなのが現れるなんてね…。驚いちゃったよ。マネーって…何だか私に似てるわね…」
2人は黙って聞いている。
夢希「…本当に…辛かったんだよね…。何だろう…いつもの私らしくないわ…」
すると、夢希の目から涙が流れてきた。
夢希「…あれ?おかしいな…?何で泣いてるの私?」
涙を何度も拭くが、一向に止まらず、挙句泣き声をし始めた。
1度体験したはずなのに…、『死の恐怖』に恐れている。
いつも見ている光景や体験…、そして自分の命、ある日当たり前だった物が突然消えてしまう事…。
前世では嫌気がさして自殺したとはいえ…、今の自分は多くの人間を殺してきたとはいえ…、死が怖い…。
大好きなゲームやアニメも、よく食べているカレーやラーメンも、よく読んでいる漫画や小説も…。
観ることも食べることも遊ぶこともできなくなる…。
ライフアンチを受けた影響なのかは分からないが、自分の中からあふれ出てくる。
顔を抑えながら涙を流している。
泣きたくないのに…泣きたくないのに…。
すると、奈々と蓮花にベッドに押し倒された。
蓮花「全く…。魔王が涙を流すなんてね…。情けなさすぎね…」
奈々「…けど。夢希ちゃんはその分頑張ってきた。…だから当たり前だよね…。もう1人じゃないから…」
2人は夢希に覆いかぶさった。
…そうだ。私はもう1人じゃない。
この2人は勿論、この国の皆がいる…。
皆がいるからこそ、頑張れたんだ…。こんなことなんて、ちっぽけなもんだ。
奈々と蓮花を強引に引き寄せて、キスをした。
隣同士…3人同時のキスを、2人は驚いた。
夢希「…いいよ。今日は2人の好きにしていいよ。魔王姫としてではなく、家族恋人として…」
今夜はお楽しみになりそうだ。
作中には書かれていませんが、マネーのライフアンチをスキルシーフで奪えるか、鎧を砕く時に同時に試したのですが、他人に奪われない・コピーが出来ない隠し効果を持っている為、奪うことが出来ませんでした(奪ったら、残りのLP戦で無双してしまうので)。また、ライフアンチは、不完全不死の奈々と蓮花達にも効きますので、今後の夢希の彼女達を守る課題となります