白蛇内乱! そしてその後ろにいるモノとは!
晴希、晴治の任務失敗?と簡単に考えて二人の尻拭いに向かったはずだったのに…まさかの内乱?謀反?
そしてその後ろにいる黒幕とは……。
第9部 白蛇内乱! そしてその後ろにいるモノとは!
教育隊と第一大隊との模擬戦が終わり、噂はあっという間に国中に広まった。 もちろん対外的にも情報は拡散していることだろう。 ちょっと噂が先行していた教育隊の評判を落とし、第一大隊の健在ぶりもアピールできる一石二鳥である。
さて晴治が先に戻ってきていることが心配だ。 晴希に何かあったのか・・・交渉に問題が発生したのか・・・それにしては晴治がのんきすぎる。 大したことがなければよいのだが・・・とりあえず謹慎させている晴治のもとに行ってみる。
晴治の家に行ってみると、何やらざわついていた。 母親に話を聞いてみると、晴希が帰ってくるとうわさを聞いた晴治が夜中の間に家出をしてしまったそうだ。 謹慎処分を受けている身で家にいないのだから、しかも私がいきなり顔を出したものだから、どうしたらよいか軽くパニックになっていたようだ。
しかし、私より晴希のほうが怖いってか! 白蛇でなにがあったんだか・・・?
晴希が戻るのを待っても良いのだが、晴治が逃げ込みそうな場所に心当たりもあったので話を聞きに行ってみましょうか。 どうせあそこしかないでしょう。
「片岡君! 片岡君はいますか!」
そうここは教育隊訓練場。 片岡教育隊隊長あたりにかくまってもらっているのでしょう。
ばつが悪そうな顔で片岡君が顔を出した。
「これは、大師匠! 先日は失礼しました。 私どもが自分たちの力を過信しておりました。 それぞれが訓練内容を見直し、さらなる負荷をかけて鍛えなおしております。 それで本日は何用で。」
まあその見直しも間違いではないけど、この前の模擬戦で何を学んだんでしょうか。 まああの力を凌駕する個々のパワーを身に付けることができたらすごいですけどね。 まあそちらは少し様子を見るとして・・・本日は何用ときましたか。 片岡君、あなたの良いところでもあり悪いところでもあるのですが、嘘が下手すぎます。 思いっきり顔に書いてます・・・晴治ここにいます・・・って。
「片岡君・・・晴治を出していただけませんか。 ここにいるのはわかっているのですから。 普通だったら、怒らないから出てきなさいとでも言うのでしょうけど・・・私はそんなに甘くはありません。 出てこなければ秒で殺しますよ! さあ3つ数えます、その間に出てきなさい! 私は怒ってます!」
それでも動きはない。 すると奥から手だけが見えて片岡君を手招きしている。 それに気づいた片岡君が奥へと消えていった。
数分後
片岡君が奥から戻ってきて、話を始めた。
「大師匠・・・あの・・・ご相談なのですが・・・私が晴治を説得して戻らせますので・・・あっ、ここにはいないんですよ・・・少し心当たりがあるので・・・大師匠には晴希さまの説得をお願いできませんでしょうか。」
「か・た・お・かー! 俺をなめてるのか! 何様のつもりだ! はぁ~・・・片岡君、君は何も悪くないね。 う・し・ろ・にいるバカのために苦労をかけるね。 心当たりのあるあの馬鹿に伝えてくれるかい。 半時以内に家に戻るように、そうでないと一生破門だと。 戻って正直に何があったのか話してくれたら晴希の件も考えてあげてもいいよと・・・伝えてくれるかい。」
そう伝えると私はその場を離れ、ゆっくりと少し遠回りをしながら晴治の家にむかった。 家が近づいてくると、大男が玄関先で土下座をして待っていた。 やることがいちいち大げさなんだから。 無視して家に入ってもそのまま土下座を続けている。 あまりにもかわいそうだったので、中に入るように声をかけると、子犬のように笑顔で部屋に入ってきた。 ぶんぶん振ってる尻尾が見えるようだった。
「晴治、まずは何があったか正直に説明しなさい。 事と場合によっては、晴希のことも考えないではないから。」
すると晴治は少しづつ話し始めた。 事の真相はこうだ。
晴希と晴治は意気揚々と若干なめきって白蛇へと乗り込んだそうだ。 晴治も最初の内は晴希の言うことをよく聞き後ろで仁王立ちをしてふんぞり返っていたそうだ。 晴希はのらりくらりと話をかわしながらこちらに有利な条件になるように誘導していたそうだ。 うまくいくはずだった・・・ある夜までは。
晴治は数週間たったある夜、晴治いわく舎弟と呼んでいる仲間たちから誘いを受け、勉強会という名の工作会に講師としてまんまと呼び出されたそうだ。 そこで先生先生とおだてられて、いい気になった晴治はあることないこと大盤振る舞い、勝手にいろいろと約束をしてしまったそうだ。 晴治はばつが悪かったのか晴希に話すことが出来ずに数日が経過したある日、晴希と晴治のもとに条件を箇条書きにした覚書のようなものが届いたそうだ。 晴希は晴治に問いただしたそうだが、晴治は知らぬ存ぜぬを通したそうだ。 確認のために席をはずしたすきに晴治は逃げ出しこちらに戻ってきたそうだ。
「晴治くん・・・やってしまったことは仕方がないとして・・・逃げ出してきてしまったことは許されない卑劣な行為ですよ。 そのしりぬぐいを晴希がやってるんですよね。 その間に報告もせず模擬戦でお山の大将ごっこですか。 あなたは何を考えてるんですか。 わかりました私も白蛇へ行ってきましょう。 あなたは何を喜んでるんですか。 許したわけではないのですよ。 謹慎はそのままです! 私が良しというまでは家から出ることも許しません! もちろん家での訓練も厳禁です! わかりましたか!」
晴治に念を押してから殿のもとに向かい、白蛇へ行くことを告げて、片岡第一大隊隊長に訓練科目を伝え、やることをやってから赤虎を出発した。 白蛇の城下町に近づいてきても何の反応もない・・・もっと抵抗があると思っていたのだが・・・拍子抜け状態で城下町に入った。 町は穏やかな時間が流れているように見えてある種の緊迫感が漂っていた。 ところどころに見張りがつきこちらを常に監視している。 私がこちらに来るという情報もどこからか流れているようだ。
「さて晴希はどこにいるのやら・・・こちらで晴希がいそうな場所がわからない限り、まずは大殿のところに行くのが正解でしょうか。」
独り言を言いながら、そう考えて城のほうへと向かおうとする。 するとどんどん監視の目が増えていくのがわかる・・・というよりあからさまに監視ではなく包囲しようとする意図が見えている。 これは城に着く前に動きがあるかなと考えたその時、ざあっと周りを囲まれた。
「どこの者たちか! この私を赤虎の八森と知っての狼藉か! 命が惜しくないものはかかってくるとよい!」
ダメもとでいきってみたのだが、やはり効果はなかった。 じりじりと間合いを詰めていた集団が飛び掛かってこようとした瞬間、奥から制止をする声がした。
「まあ皆の者待たれよ。 この方の強さはよく知っているであろう。 まともに戦って勝てるわけがござらん。 なんのための人質よ。」
人質とな。 ここで人質ということは・・・晴希のことでしょうか・・・あの晴希が簡単につかまるとは思えないのですが。 何か弱みを握られたのでしょうか。
「人質? 誰の事を言っているのかわかりませんが・・・晴希の事を言っているのであれば、人質には値しませんよ。 彼女は人質となって迷惑をかけることを良しとしないのでしょうから。」
「くっ・・・晴希殿だけではござらん!姫も人質にとっている! それでも言うことを聞かぬか!」
やっぱりですか。 そうでもなければ晴希が捕まるわけもないですね。 姫を人質にとられて、やむなく捕まったと。 しかしこいつらは本当に間抜けですね。 ぺらぺらと敵に話を漏らしてしまうのですから。 姫がどうなろうと私には関係ないのですが・・・さてどうしたものか。
「姫を人質にとって、大殿にでも圧力をかけているというところでしょうか。 私にとっては姫がどうなろうと関係ありませんし、こんなにこちらに人員を割いてしまったら人質の居場所は手薄になっていませんか? 晴希なら一人で打開してしまいますよ。 今頃、姫を連れて脱出していることでしょう。 人質の心配がなくなったということで、あなたたちはここでお亡くなりになるということでよろしいかな。」
「ま、まて。 いくら晴希が強いといっても女の子・・・そう簡単に脱出できるわけがない。 俺たちを騙し脅そうとしてもその手にはのらないからな!」
「まあ信じないのはそちらの自由です。 私は晴希の能力を信じて、今からあなたたちをあの世に送るだけです。 さあ覚悟してくださいよ。」
そう言うと、慌てて逃げ出すものや後ろに隠れるもの、しびれを切らせて襲い掛かってくるもの、いろいろだったが、頭目らしき人物が騒ぎに便乗して逃げ出していた。 これを追うべく走り出すと左右から切りかかってくる者がいた。 そのふたつの剣を軽くさばくと、その二人が行く手を阻んだ。
「八森とやら、噂だけは聞いている。 噂だけだがな! 眉唾な噂ばかりで、尾びれ背びれがついて独り歩きしているのだろう。 その噂をこの近藤兄弟が打ち破ってくれよう! さあ受けてみよ兄弟同時攻撃を!」
おそらく双子なのだろう。 そっくりな顔の男二人が交差しながら刀を縦横無尽に振り回している。 まあスピードはそこそこ、教育隊下位レベルというところか。 多分分身の術のような使い方をしたいのだろうけど・・・兄弟と名乗っちゃってるし・・・兄弟同時攻撃とか言っちゃってるし・・・自分たちからネタバレしてしまったら、何の意味もないでしょうに。 まあ時間の無駄ですね、退場してもらいましょう。
片手で二人の剣を軽くはらったら簡単に吹っ飛んだ。 二人は態勢をなんとか整えてこちらをうかがっている。
「お主、なかなかやるな! ではわれら兄弟の究極奥義を見せてやろう! くらえ究極奥義四つ葉残像剣!」
また二人が重なり、今度は二刀流でこちらへ突っ込んでくる。 二刀流で二人だから四つ葉ね。 まあ残像には程遠いけど・・・一般人には通用するのでしょう。 しかしネタ晴らしが好きな兄弟だこと。 殺してしまうのは簡単だけど、あとあと面倒なことになりそうだし・・・少し気絶しておいてもらいましょうか。 一歩前に踏み込み、相手の四つの剣をさばきながらそれぞれに当て身をくらわし、気絶させた。 二人はその場にうずくまり動かなくなった。 動かなくなった二人を確認し、さらに頭目を追う!
「へっ! ここまでくればもう大丈夫だろう! 近藤兄弟に目をつけられて生き残ったやつ等いない! 運のない奴だ!」
「誰が運がないって? 見方を犠牲にしてとっとと逃げ出すとは、しかもその速さで逃げ切れるとでも思っていたのかい?」
何でここにいるって顔で、面食らった頭目がそこに立っていた。
「お、おまえ、近藤兄弟はどうした! あの二人がそんなに簡単に負けるはずは・・・いや、噂は本当だったということか・・・。 赤虎のやつら大げさに噂をばらまきやがってと思ったが、どうやら本物だったようだな。 仕方がない、好きにするがいいさ。」
と言いながら懐から玉のようなものを取り出し、地面にたたきつけた。 一瞬にしてあたりは白煙に包まれて何も見えなくなった。 ただ何も見えないだけで、頭目は気配を消すまではできなかった。
「おいおい、またせこい技を。 ただ姿を消しても気配を消せなければ何もならないでしょう。 しかもドタバタと足音まで立てて。 逃げた方向がまるわかりですよ。」
気配と足音を追って少しづつ距離をつめていく。 段々と煙がはれてきた。 思い切って腕を伸ばし逃げている相手の襟をつかんだ・・・・と思った瞬間・・・・手が思いっきり空を切った。 頭目は姿を消していた。
「逃げ技は一級品とか? 気配と足音を演出して動かすとは。 さてどうしたものか・・・見失ってしまったかな?」
考えもなしに追っても相手の思うつぼだろうし、だからといって諦めるのも癪に障るし、冷静に考えてみた。 そんなに距離をあけて気配を動かせるものなのか? まったく逆方向だとして、どれくらいの距離を動かせるのか? いやまてよ逆方向に逃げていなかったら・・・実はこの先数メートルくらいの距離にいるとしたら・・・ここでだまされたと思って元いた方向に戻ることを目的としていたらどうだろう。 そうだ、このあたりにいるんじゃね? という結論にたどり着いた。 大きな声でだまされた風を装い少し距離を置いてもう少し煙が晴れるのを待ってみる。 すると数メートル先で何やら人影が動いた。 その瞬間距離をつめて相手の目の前に躍り出る。
「はい!正解! いやぁ~素晴らしい技術ですよ。 普通の人なら騙されていたでしょう。 命までは取りませんから、観念して晴希のところまで案内してくれませんか。」
首根っこをつかまえて、監禁場所まで案内させる。 町はずれ、川沿いの蔵屋敷までやってきた。 ここは国の中でもお偉いさんたちの蔵が並ぶ一体となっている。 いやいやいくらなんでもそんなばればれなことはしないでしょう・・・と考えている間にある屋敷前で頭目は止まった。 この屋敷は老中の一人、林田権左の屋敷だ。
「おいおい・・・ほんとにここであってるのか? 林田様のお屋敷だぞ。 また騙そうとても思ってるんじゃないだろうな? 乗り込んで、違いましたじゃ済まないよ。」
「そんなこと俺様のしったこっちゃねぇ! ここの若いのに誘われてこの計画に乗ったんだ! 晴希も姫様もこの屋敷の蔵の中さ! そういや今日はあの若いの・・・名前なんていったかな・・・そうだ権之進だ、あいつの顔を見ねぇな。」
権之進って・・・権左の息子だ。 そういえば、彩の国から戻って赤虎に戻るときに囲まれた輩の中にいた気がするな。 権左は知らないのか? いやいやあいつも反対派の一人って話だし、いざとなったら息子の単独犯として処理しようとでも考えてるかもしれない。 ということは、こいつの言ってることもあながち嘘ではないか。
「わかった。 もう少し付き合ってもらうよ。 必ず生きて帰してあげるから。 とは言っても権之進が生かしてくれるとは限らないから、そこから先は頑張って生き残ってね。」
そう言うと頭目を連れて、堂々と正面玄関から乗り込む。 大きな門構えの前で権之進を呼び出すが応答がない。 騒げど叩けど反応がない。
「たのもう! 私は赤虎城の八森と申す。 権之進または権左殿はいらっしゃらぬか! あまり手荒なことはしたくないのだが、応答しないのならば押し通るがよろしいか!」
木戸を叩き壊して押し入ろうとした瞬間、大扉が大きな音を立てて開き始めた。 扉があいた向こうには若い侍の姿、しかし権之進ではない。
「八森様、大変失礼しました。 当家当主権左がお会いしたいとのこと。 こちらへお越しいただいてもよろしいでしょうか。」
ここで大暴れして晴希と姫様救出を行ってもよかったのだが、まだ確証はなかったし、相手が話をしたいと言っているのだから聞いてからでも遅くはないかと考えてのってみることとした。
「かしこまりました。 お話、お伺いしましょう。 私の疑問にお答えいただけると思ってよろしいか。」
その若い侍は少し困った子をした後・・・
「申し訳ございません。 私のような一介の下級侍にはお答えできない事柄でございます。 ただ言えるのは殿は大変お困りの様子とだけ・・・お伝えしておきます。 では、こちらへ。」
玉砂利のひかれた豪華なお庭を抜けて別棟の茶室のようなところに案内された。 困っていると言っていたが、何に困っているのかが問題だ。 自分自身が追い詰められて困っているのか、不肖の息子が勝手なことをやってしまってどう対応したらよいのか困っているのか。 まさか部屋に入った途端、強襲を受けるなんてこともあるのか・・・そこまで馬鹿だったら救いようもないが。
茶室の小さな扉、なんていったか忘れてしまったが、そこからにじり入るには刀が邪魔と感じた瞬間思ったのが、これはやっぱり権左は馬鹿だったかだった。 邪魔だった刀を極力いつでも抜ける態勢にしながら中に入った。 しかし囲まれての強襲はなく、中にいたのはしょんぼりと小さくなった権左一人であった。
「これは権左殿、お久しぶりです。 私がお聞きしたい内容は、もう察しがついているはず。 その前に権左殿がお話したい内容をお聞きしましょうか。」
「これは八森殿、この度は不肖の息子がとんでもないことを起こしてしまったようで・・・先ほど部下に確認して初めて知った次第でして・・・私はどうしたらよいのか、見当もつきませぬ。」
「林田殿、晴希だけだったらともかく、姫様までとなると・・・私にもどんな結論になるやら、見当もつきませぬ。 良くて一生牢獄か、悪くて死罪か。 さて権之進はここにいるのですか? 姫様や晴希は?」
「それが朝方まではいたのが確認できているのですが、先ほどからとんと姿が見えずでして。 また姫様や晴希殿も姿が見えないのです。 聞き出した監禁場所にも形跡はあるのですが・・・姿がなくて。」
おっとこのパターンですか。 さて一緒に行動しているのか、別々に行動しているのか。 前者だと権左殿には最悪のパターンだし、後者で一人で逃げているのであれば打つ手もあるかな。 その場合姫様と晴希はどこへ行ったのやら。
「林田殿、捜索は始めているのですか? 現状はどうなっているのですか? わかっているところまで教えてください。」
「それが、捜索は始めているのですが・・・まるで手掛かりがなく。 権之進が立ち寄りそうな場所や潜伏しそうな場所を当たらせて入るのですが・・・いまだ発見には至っていないのです。」
「林田殿、監禁場所を見せてもらってもよいですか。 晴希がなにか残しているやもしれませんので。」
いくつか並んでいる蔵の一番奥の蔵へと案内されて中に入ってみる。 暗がりの中にうっすらと中の様子がわかる。 通りに面している奥の格子窓から光が入っているようだ。 中はがらんとしていて何もない。 床には切られたロープが散乱していた。 ただ切られたロープはどうみても一人分、無理やり切ったようなあとがある。 ここから考えられるのは晴希がなんとかロープを切って、連れ去られた姫様と権之進を追ったとみるべきか。 しかし蔵には鍵がかかっていた。 権之進は鍵を持っていた可能性はあるが、晴希はどうやってここから抜け出したのか。
「林田殿、権之進はここの鍵を自由に使える状態にありますか。 鍵はちゃんと保管場所にありましたか?」
「蔵の鍵は誰でも使える状態にはありませんでした。 権之進も例外ではありません。 鍵を使用できる人間がこのことに関与していないことは確認できています。 権之進がどうやってこの蔵を使うことが出来たのか・・・全く分からないのです。」
ということは、鍵がかかった状態で出入りができたということ・・・どこかに秘密の出入り口が必ずあるはず。 晴希にとっては、その出入り口を見つけること等造作もないことだろう。 となるとやはり権之進は晴希をおいて姫様だけを連れて逃げたと推理するのが妥当か。
「林田殿、最悪の状況のようです。 どうやらご子息は姫様を連れてここから逃げ出した模様。 それを晴希が追っているようです。 姫様もおいて逃げていればなんとかできたかもしれませんが、もし一緒に連れて逃げていたとなると、もうかばいようはありません。 覚悟しておいてください。 さて秘密の出入り口を探すのはあとでもよいでしょう。 私も彼らの捜索に加わります。 今日中に片を付けたいところですが、間もなく日が暮れます。 夜に紛れて国境を越えられるとやっかいですね。 林田殿、権之進に国外の知り合いや仲間がいるなど聞いたことは?」
「確か・・・奥の国に懇意にしている戦術家の師がいると聞いたことがあります。 手紙のやり取りでいろいろと学ばせてもらっていると。」
それが黒幕の一人か。 といっても末端の人物だろうけど。 そうなると奥の国へ向かった可能性がある。 晴希がどちらへ向かったかわからないが、権之進が赤虎へ向かったとは考えにくい。 やはり奥の国か。
奥の国となるとあまり時間がない・・・追いつけるか?
「林田殿、引き続き城内の捜索をお願いしてもよろしいですか。 私は奥の国の国境へ向かいます。 あとで大殿にはなんとかお話してみますので、ただ権之進については諦めてください。 生きてとらえてきたとしても死罪は免れないと思います。 ただ彼には聞きたいことが山ほどありますので、生きて連れて帰ります。」
目立たないようにメインの通りを避けて奥の国に向かっていると思う。 メインの通りを行けば、なんとか間に合うかもしれない。 大急ぎで奥の国へ向かう。 途中、目撃情報がないか確認しながら国境へと向かったが、情報はつかめなかった。 あの派手目の姫様を拘束して連れて歩いているのだとしたら目立つだろうし、ただ協力者がいて、籠などにのせて移動していたらわからない可能性が高い。
奥の国の国境へとたどり着いた。 この関所を通ったかどうか確認しなければならない。 はい!大商人秀治の出番です! 商人姿に早変わりして通行手形も使用して、聞き込み開始です。
「やあ、なんか物々しいですな。 なんぞありましたか? ああ私は怪しいものではござらん。 ほら手形も持っておるしの。 私は彩の国の貿易商人秀治と申します。」
「おお! これは失礼した。 かの有名な大商人秀治様とは。 あなたの事は噂で聞いています。 一代で彩の国に大店を構えて、彩の国の国王とも取引があるとか。 奥の国ではあなたは有名人ですよ。」
「いやいやたまたま運が良かっただけです。 奥の国のみなさまにも大変お世話になっております。 ありがたいことです。 それでなんぞありましたかな?」
「いや~、実はここだけの話ですが・・・上からのお達しで、要人が稀の国の間者に追われて奥の国に逃げてくると。 籠にのった要人とお供が3人と聞いているのですが、まだ到着しないのです。 まもなく関所を閉める時間なのですが、到着まではあけておけとの命令なので・・・どうしたものか。」
「そうですかそれは大変ですね。 私もこの国境で待ち合わせをしているのですが・・・私の待ち人もまだ来ないようです。 さてどうしたものか。 一緒に待たせてもらうわけにはいかないでしょうから、私はそちらの宿で待つとします。 それではまた、ご苦労様です。」
そういうと関所近くの街道が見渡せる宿に部屋を取り、権之進が来るのを待つことにした。 1時間、いや30分ぐらいたったころだろうか、街道の向こうの藪から籠を担いだやつらがあらわれた。 情報通りであれば、あいつらが権之進一行に違いない。 さて頭を抑えに行くかと部屋を出ようとした瞬間、一行の前をさえぎる影が現れた。
「あれは・・・晴希か?」
かなりボロボロな状態であったが、背格好や立ち居振る舞いをみると晴希に違いない。 その晴希が待ってましたとばかり一行の前に飛び出したのだ。 普段の晴希ならなんの問題もなく対応できるだろう・・・が、かなり疲労困憊なのが見て取れるし、武器も持っていない。 さすがの晴希でもかなりてこずることは間違いない。 これは応援が必要か。 そう思い宿の階段を駆け下りた。
宿の戸を開けて一行のほうに目をやると、晴希が膝をついて肩で息をしている。 これはかなりやばい状態だが、それでも晴希は立ち上がり立ち向かおうとしている。 さすがにこれ以上はと思い、一瞬で距離を詰め、晴希の前に躍り出た。
「秀治・・・さま?」
晴希は私の姿を見て安心したのか、か細い声で私の名前を呼んだ。 倒れそうになる晴希を抱きかかえ、そのまま相手を睨みつけた。
「権之進! やってくれるじゃないか! 姫様をおいておとなしくお縄に付け!」
「おのれ八森! お前さえいなければ! すべてがうまく回っていたものを! 姫様の命が惜しければそこをどけ! 奥の国に入ってしまえば私の勝ちだ!」
やはり奥の国に黒幕の一部がいるとみて間違いない。 しかし奥の国の向こうにも敵がいるやもしれない。 権之進がそこまで知っているわけはないだろうが、それでも奥の国の黒幕が分かればなんとかたどり着けるやもしれない。 泳がしても良いのだが・・・姫様まで奥の国へ連れていかれるのはいかがなものか。
その時だった、権之進の後ろから影が近づく。 それと同時に背後から姫様をつかんでいる腕をねじり上げ、姫様を奪い取った。
「晴治! よくやった! いや、じゃなくて・・・なんでお前がここに・・・。」
晴治は姫様を奪還したその勢いで権之進を取り押さえにかかる。 その一瞬の間を逃さずに権之進は晴治から距離をとり逃げの態勢に入る。 ここはさすが逃げの権之進! 権之進は得意の煙玉で姿を隠し、逃げに入る。 晴治は闇雲にあたりを探し回っているが、行先は一つだろう。
「奥の国か・・・。」
これは好都合! 泳がせて敵の黒幕のところまで案内してもらうとしましょう。 さあ大商人秀治の出番です。 権之進と距離を取りながら関所まであとをつけていく。 権之進は私がついてきていることに気づいていない。 関所まで来ると権之進が何やら関所の役人と会話をしている、少しもめているようだ。 そりゃあ人数が違うし・・・難しいのでは・・・と思ったが、いきなり役人の態度が変わった。 よっぽど後ろ盾の人間が強力なのか大物なのか。 少し間をおいて後に続く。
「秀治殿、お待ちの方とはお会いになられたんで。」
「それがですね。お使いの方が来られて奥の国の市場で待っているそうなんですよ。 いい商品を手に入れるためには相手のわがままも多少は聞いてやらないとね。 誰かに取られては後悔してしまいますからね。 急いで市場に向かわないと。 ところで先ほどのお侍様、なにやら少しもめていたようですが、あれが例のお侍様で?」
「それがね、聞いていた人数と違うものですから、お断りしていたのですが・・・。」
「何か特別なものが出てきたと?」
「そうなんですよ。 国のお侍様のお名前が出てきたもんで・・・しかもかなりの大物の。」
「そりゃあ大変だ。 そんな大物の名前が出てきたら通すしかなくなりますもんね。 お役所務めはたいへんですな。 心中お察しいたします。 まあ些少ですが彩の国のお土産です。 私が扱っている美術品なんですがお納めください。 内緒ですよ。」
今後、取り扱おうと思っているサンゴでできた根付をプレゼントして、いろいろと便宜を図ってもらわないとね。 まあ見たこともないような根付をあげたもんだから上機嫌だこと。 ここぞとばかり畳みかける。
「それでその大物とやらはどこのどなた様なんだい。 よっぽどの大物なんだろうね。」
「秀治の旦那・・・こればっかりはちょっとご勘弁を。 さすがに旦那にもお話しできませんわ。」
「そうかい・・・それは残念。 同じサンゴのかんざしを奥方にもと思ったのだが・・・それは残念。」
「旦那、旦那、ちょっとお耳を拝借。 ここだけの話ですがね・・・最初は城内でも有名な戦術家のお名前が出てきたんですがね。 それでは通すわけにはいかないとお伝えしたところ・・・なんと侍所奉行の老中であられる北野様のお名前が出てきたのと、覚書までお持ちでして。 これこそ内緒話、噂話でお願いしますよ。」
あらあら大物が出てきてしまいましたよ。 老中北野と言ったら姫様と若君の婚姻を反対していた反対派の重鎮ではないですか。 姫様を亡き者にしようとしたり、今度は拉致ですか。 どうせその戦術家とやらにたぶらかされて動いてるのでしょうが・・・そうなるとかなりの人数がこの件に関わっているものとみるべきでしょうか。 役人にかんざしをあげて、権之進の後を追う。 城に向かう通りが庶民の町から大きなお屋敷が並ぶ武家屋敷の通りに出てきた。 その中でもひときわ大きな屋敷の前で権之進が止まった。 しばらくすると通用門が開き、権之進は当たり前のように中に入っていった。 通りを歩いていた商人風の老人に声をかけて聞いてみた。
「もしもし、そこのお方、このお屋敷はどなたのお屋敷ですか。 とても立派なお屋敷ですね。 よほど高貴なお方がお住まいなんでしょうな。」
「お主、旅のもんかい。 このお屋敷は、この国の侍を束ねている老中北野様のお屋敷じゃて。 あんまり覗いていると切られちまうぜ。 気をつけな。」
そう言うと老人はこわばらこわばらと、足早にその場を去っていった。
やはりそうですか。 つながっちゃいましたね。 まさかの大物が釣れてしまいました。 ここは少し泳がせて内偵捜査といきましょうか。 そうとなったら晴希が心配です。 晴治がいるから大丈夫だとは思いますが、一度戻って晴希を見てやらねば。 あと晴治にもお説教を。 彩の国との共闘も大事ですが、あとの憂いも断っておかないと安心して西へ向かえませんからね。 晴希を見て晴治に指示を出したら奥の国潜入編に突入です。
第9話 完