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こんな雷鳴が鳴り響く夜には  作者: ひでのすけ
8/17

大改革! 目指せ最強攻撃隊!

思ったよりダメダメだった正規軍!

大改革に着手する秀治だが…教育隊との関わりは…。

目指せ!最強!

目指せ!最強攻撃隊!

第8部 大改革! 目指せ最強攻撃隊!


 若い青年たちの成長を目にして若干安堵したのだが・・・その上に立つ指揮官クラスの方々の成長はどうなっているのでしょうか・・・。

 不安と期待を胸に城へと向かう。 その途中でいろんな方々から声掛けされる。 その声掛けの言葉が問題なのだが。


 「八森様、彩の国はいかがでしたか。 おいしいものがそろっているそうですね。」


 「八森様、彩の国はいかがでしたか。 きれいな装飾品がそろっているそうですね。」


 「八森様、飛鳥様とのご婚約、おめでとうございます。」


 いやいや! 昨日の今日で、飛鳥との話がここまで広まるとは・・・しかも婚約なんてしてないし・・・さては飛鳥さんルートですか・・・やはりおそるべし調略活動。


 それよりも、私が彩の国へ行っていた情報や彩の国の情報が出回ってるのはもっと問題です。 こちらは殿の仕業でしょうか・・・ほんとにあの親子は・・・。


 城につくと殿についている従者が近寄ってきた。 なんか申し訳なさそうな顔をしている。


 「八森様、申し訳ございません。 殿は少しお疲れがでてしまいお休み中です。 私がご案内させていただきますので、お申し付けくださいませ。」


 「殿は大丈夫ですか? こんな短時間で何かあったのでしょうか?」


 「ご察しください。 飛鳥さまです・・・。」


 「あ~、察しました。 では本日はよろしくお願いします。 まずは侍所へ責任者のところへ連れて行ってください。」


 「かしこまりました。 教育隊片岡様のところでよろしいでしょうか?」


 「いやいや片岡君のところは先ほど顔を出してきました。 この国の軍事の中枢へ正規軍のところへお願いしたいのですが・・・。」


 「失礼しました。 もはや教育隊のほうが主力のような状況でしたので・・・かしこまりました、それでは第一大隊 隊長 片岡様のところへご案内します。」


 「ちょっとまって! また片岡様?」


 「はい! 教育隊隊長片岡様のお父上でございます。」

 おいおいお父さんを差し置いて息子のところへご案内するつもりだったんかい! まあそれだけ教育隊が巨大な力をつけてしまったということなんでしょうけど。 しかし正規軍の第一大隊隊長 片岡さん・・・武闘会ではみなかったような気が。 あとで知ったことなのですが、殿の配慮で武闘会に正規軍は参加させなかったそうだ。 負けて威厳をなくすのが怖かったのでしょうか。 しばらくするとひと際豪華な隊舎へと案内された。 外見もここは城ですかって言わんばかりの豪華さで、中に入っても城なみの設備が整っていた。 

 中に入って、数人の兵士にあったが、みなだらけ切ってしまっていて挨拶の一つもない。 奥の階段を上がると金ぴかな装飾がされた和室があらわれた。


 「ここの施設はとても豪華で立派ですね。 特にこの部屋は戦う人たちが集まっている施設に似つかわしくない。」


 「八森様、侍所である武士が集まるところは、かつては国でも優秀な方々が集まる場所で文武両道な精鋭部隊だったのです。 国からも手厚い援助と保護が与えられ、若者たちは正規軍に入ること、そしてこの侍所に詰めることができる身分になることが、希望であり憧れでもあったのです。 今はこんな状態ですが。」


 どうやら武闘会に参加していた腕に覚えのある方々は、どちらかというと戦になると雇われる傭兵であって正規軍ではないこと。 まあ一部殿のそばについている親衛隊のような側衆のなかにはかなりの腕がある人物もいるようだが。 殿が身の回りにつわものたちを集めるようになってから、正規軍の立場が下がりみんなやる気がなくなってしまったようだ。

 

 そうだったとしても、彼らには最低限、国と民を護ってもらわなくてはならない。 安心して国を離れることができるように頑張ってもらわなくてはならない。 根本からぶち壊して、大幅な意識改革を断行しなければならない。 もともと優秀な侍集団だったはず。 意識改革ができて目的さえあたえれば・・・一気に覚醒する可能性もあります。 これは腕の見せ所!


 そうと決まればまずは隊長にお会いせねば始まらない。 さらに奥の階段を上へと上がる。 上の階へとあがると、またイメージが変わった。 なぜだか洋風の作りになっていて床にはふかふかのえんじ色の絨毯がひかれ、家具類も洋風で・・・いや和洋折衷というとよく言いすぎか・・・いわゆるバラバラ。


 「趣味が悪い・・・。」


 「申し訳ない。 ただ私の趣味ではないのです。 前隊長が外つ国の文化にかぶれていて・・・捨てるに捨てられず困っているのです。 あっ!失礼しました。 わたくしこの隊の大隊長を務めております片岡作蔵と申します。 以後お見知りおきを。」


 「これは失礼しました。 わたくし八森秀治と申します。 こちらこそよろしくお願いします。」


 教育隊隊長の片岡ジュニアは、どうやら父親似のようです。 物腰柔らかく、ただ目の奥の光は底が知れない感じなどはよく似ています。 片岡父さんは数か月前にこの部隊に配属され、改革を託されたようだが、なかなかうまくいかずに頭を抱えている状態の様子だった。 これならば大胆な改革断行も可能なような気がする。


 「片岡殿、先日息子さんにお会いしました。 立派な息子さんで、教育隊をしっかりと鍛え上げ、まとめあげていました。 感心しました。」


 「いえいえ八森様、あやつは用意された舞台で用意された台本で踊っているだけ。 お褒めいただくのはうれしいのですが、あまりあやつをいい気にさせないでいただきたい。 すべては晴希や晴治のおかげで立てているだけです。 そういう私はもっと情けない! 息子以下ですわ! この数ヶ月、殿からお預かりしたこの隊を少しでも使える部隊に変えようとここまでやってきたのですが・・・私には変革への才能が無いようです。」


 「片岡様、ここまで堕落してしまうとそんじょそこらの改革では変わるものも変わりません。 まずあなたから大幅な意識改革を示していかなければ!」


 「部署変更をしたり、役割変更をしたり、目標を決めたり、ルールを厳しくしたり、いろいろと打ち出しては見たのです。 これ以上どうしたらいいのか・・・。」


 典型的な改革方法を行ってはきたというわけですね。 やる気のない人間をどんなに配置転換しようとも、目標を決めてモチベーションを上げようと思っても響くわけがないですから。 また、だらけてしまっている甘やかされている人間に対していきなりルールを厳格化しても反発を買うだけで、いっそうやる気をなくしていきます。 これは本当に大大大改革を断行しなければなりませんね。


 「片岡様、お耳を拝借。 実は、・・・・・・・・・・・・・ということで、・・・・・・・・・・を行おうと思います。 ご協力いただけますか?」


 「えっ・・・・・いや・・・・・しかし・・・・・それは・・・・・ちょっと・・・・・。」


 「たいしたことではありません。 正常な状態に戻す作業を行うだけです。 ただ、いくつか時間を有する問題もありますので、できることから始めましょうか。」


 「何から始めればよろしいか。 お手柔らかに頼みますぞ!」


 「片岡様、あなたがそんなんでどうするんですか! あなたが率先して隊員たちに示していかないことには、お願いしますよ。 まず手始めにあの趣味の悪い部屋から何とかしましょうか!」


 「いや・・・どうせこの建物、いずれ・・・」と言いかけた片岡を八森は人差し指を口に当ててさえぎった。


 二人は部下に命じて、隊長室にあった趣味の悪い調度品をすべて運び出させた。 その調度品は城からやってきた殿の従者たちがすべて持って行った。 殿はひそかにこれらの調度品に目をつけていたそうだ。 調度品を運び出すと壁から和風の窓があらわれた。 床の絨毯もすべて剥ぎ取ると、板張りの床が現れた。 


 すべての調度品が運び出されると、大きなスペースがあらわれた。 拭き掃除、床磨き等をすべての隊員と隊長とで共同で行い、磨き上げる。 久しぶりに笑い声が室内に響く! 少しは目に光が戻ってきたかな?

 そこに隊長用の事務机とベッド仕立ての寝床を準備。

 続いて2階の金ぴか大広間に着手する。 金をはがすわけにはいかないので金ぴかはそのままで、畳とふすまを外し、フルオープンにする。 畳をはがした床には敷板を張り、隊員の宿舎とする。 一人3畳ちょっとのスペースが与えられ、布団一式が支給された。 ここには士官クラスの者たちが寝泊まりする。 続いて1階のスペース入り口近くの一部屋を事務所兼受付として使用して、館内にバラバラに置いてあった資料類を一括して集める。 

事務所の入り口付近に隊の指針や規範などを部屋の中央に掲げ、道場のように隊員ひとりひとりの名札を部屋入り口に設置する。 これで少しは連帯感が上がってくれるとよいのだが。

その事務所の入り口に水回り関係の台所、トイレ、風呂なども磨きなおして、ここはそのままで使用する。 奥にあった大きな土間のスペースが一般隊員の寝床となる。 1畳ほどの板が渡されそこがそれぞれの生活空間となる。 

 ここまでできあがったところで外の訓練場に全員を集めてもらい整列してもらう。相変わらずだらだらとなんとなく列を作ってはいるが、整然とからは程遠い状態であった。 まずは片岡隊長から作業のねぎらいの言葉を伝えてもらい、まずは自分の領土をしっかりと守ることを伝え、随時士官クラスとの昇格、降格もある旨を伝える。 ここで私の出番!


 「みなさんこんにちは! はじめましての方がほとんどでしょうか? 名前ぐらいは噂で聞いているとは思います。 私が八森秀治です。 以後お見知りおきを。」


 ざわざわと会場がざわつく。 いろいろな感情が交差する。 まあ好意を持たれているとはいいがたい。

 ただいろいろな感情の中に一定した感情が含まれていた「恐怖」だ! あの武闘会を見ていた人間が多いのだろう。 「恐怖」が刻まれているのなら丁度いい、わたしは鞭となろう。 隊長には飴の役割をしてもらえばよい。


 「あなた方には自負というものがないのですか。 気概というものはないのですか。 頂点の存在になるはずの人間が底辺にはいつくばっている。 いや身分と待遇は与えられているのだから、底辺ではありませんね。 怠惰そのもの、堕落の境地、国に寄生する寄生虫、これは寄生虫に失礼か? 肥溜めの糞以下の存在だ!」


 さすがにそこまで言われると反発するものもあらわれる。 自覚して泣き崩れるものもあらわれる。 そこで隊長から飴の一言。


 「みんな!ここまで言われて悔しくはないのか! みなは町や村、各地から集まった秀才、つわものたちだ。 その自負を思い出せ! やればできるはずだ! わたしは君たちを信じている! 立ち上がり故郷に錦を飾ろうではないか!」


 もちろん全体がすぐにやる気を出すわけではない。 無理感が全体に漂っているのがわかる。 ここで隊長からさらに一言。


 「おまえら数か月前、この中で教育隊にいる奴らより弱かったものはいるか? 誰一人いないだろう! ではなぜこんなにも差がついたのか。 それはあいつらがバカだったからだ! 馬鹿正直に言われたことを黙々と疑問も持たずに日々やりつづけてきたから、あいつらは強くなった。 その間おまえらは何をしてきた! 何もしていないだろう! その差だけなのだ! やり方はある! ただやる気がなければなすことはできないだろう! やる気のない奴は故郷へ帰れ!」


 即座にその場を去る人間もあらわれた。 ただ多くはどうしたらよいか判断が出来ずに周りの反応を見ている。 片岡隊長は数分間様子を見た後に残った人間に言葉をかけ始めた。


 「ここにいる八森様は、ある意味おまえらにとって敵同然である。 何故敵なのか・・・この方があの晴治、晴希を育て上げた張本人だからだ。 あの二人が強くなったおかげで教育隊なんぞができて、ガキどもが強くなっていった。 その八森様が言うのだ、君たちは強くなれる!強くなる方法があると! それを信じて今一度立ち上がろうではないか!」


 少しだけ目に光が戻ったであろうか。 もちろん強くなる方法はある。 教育隊のそれとは意味が全く違うけれど負けない強さを得ることはできるのだ。 ただそれを会得するためには、その戦い方に納得してもらわなければならない。 自分自身を捨て去ることが出来るかどうかにかかっている。


 「あなたたちはもともと弱いわけではありません。 いまでも軍隊の頂点に立っていることには変わらないのです。 ちょっとガキどもが力をつけたからと言ってうろたえてどうするのですか。 たしかにあなた方と教育隊では個人の力は歴然です。 今から頑張っても追いつくことは難しいでしょう。 しかし!あなたたちは何ですか? あなたたちの戦い方を思い出してください! 本来の姿を取り戻すのです!」


 隊長からして頭に?マークが飛んでいる状態なのだから、一般隊員が理解できるわけもない。 しかし、この隊長は素直だった。 わからないことはわからないを理解している男だった。


 「八森様、申し訳ありません。 私の理解度が足りないせいで、どのような意味なのかを測りかねております。 今一度、できれば簡単に教えていただけないでしょうか。」


 「わかりました。 それでは簡単に。 あなたたちは侍所第一大隊の所属の正規軍ですよね。 軍隊、大隊、隊であるということは理解していますか。 集団運用において力を発揮するのが軍隊です。 あなた方は一対一の戦いで勝利する必要はないのです。 一人がだめなら二人、二人がだめなら三人と複数の人数でかかればよいのです。 そこに国でも優秀な方々がそろっている皆様方です。 軍隊行動さえ極めれば、なにも恐れることはありません。 わかりますか?」


 「八森様、私たちは急激に強くなっていった教育隊を意識するあまり、本来の戦い方を忘れていたんですね。集団戦をやったら将来的に教育隊にも勝つことができますか?」


 「何を言ってるんですか。 ちょっと体がなまってしまっているでしょうから苦戦はするでしょうが、戦い方さえ間違えなければ、今でも十分勝つことは可能ですよ。 教育隊の連中は、ちょっと力をつけただけで強くなった気でいますが、本来の戦場ってそんなもんじゃないでしょう。 軍隊の力見せてやりましょう!」


 とは言ったものの・・・一人一人の戦闘力やパワーは向こうのほうが断然上・・・今のまま実際に戦ったら、蹴散らされてしまうでしょう。 ただしっかりと戦術や連携を練り上げて、守りに徹してしまえば圧倒できる可能性があるのも事実です。 みなさん、実行してくれるのでしょうか・・・そこが問題です。


 しぶしぶに近い感情で訓練がスタートした。 まずは落ちた体力を回復させなければいけないので、基礎訓練を中心に行っていく。 それと並行して座学で戦術や連携についてを学び、全員で共有していく。 体力が戻ってくると体も動き始める、そうすると自身も若干ではあるが戻ってくる。 しぶしぶやっていた訓練も次第に身が入ってくる。 座学で身に付けた知識と体がリンクしていく。 ここまで古い重くて扱いにくい武器をや武具を使用して訓練してきた。 これにも理由があって扱いにくい武器や武具から扱いやすい武器や武具に変わったらどうだろうか。 一気にパワーもスピードもあがるだろう。 そろそろ武器や武具も改善していきたい。 となれば・・・平次の出番だ! 明日にでも行ってみよう。 


 久しぶりに平次の工房へやってきた。 近くへ来ると爆発音と共に煙があがる。 

また平次の工房だな! 相変わらず変なもん作ってるのか?


「おい!平次! 平次はいるか!」


顔をすすで真っ黒にした平次が工房の窓から顔を出した。


「おやっ? めずらしいお客様だ! 旦那!とんと顔を見なかったが、どこぞに行ってたんですかい?」


さすが平次、世の中の世事にはとんと疎いようで、私が彩の国に行っていたことすら知らいようだ。 そんな平次に早速武器と武具の発注を行う。 平次に頼んだのは、通常より50センチほど長い槍、できるだけ弾力がありしなっても折れないもの。 そして武具は西洋の鎧をイメージした全身鋼鉄製の鎧。 ただし出来るだけ軽量化し動きやすさも追及。 兜もフルフェイス型で顔の部分のマスクは跳ね上げ式で戦闘の時だけ下すことができる。 盾はしゃがめば全身が隠れるほどの大きさ、もちろん強度は刀や槍や弓なども弾くほどの強度を持たせる、それも持って全力で走れるほどの軽さで。 こんな無理難題を押し付けてみると、平次は武者震いをしながらにやりと笑い。


「へへっ、さすが旦那の仕事は楽しそうだねぇ。 期待に応えるものをご用意しましょ。 それでいくつご用意しましょ?」


「とりあえず500ほど用意してくれる。 できるだけ早く欲しいのだけど・・・どれくらいでできる?」


「半月ほどいただけますか? 半月あったらなんとか・・・。」


「それじゃあ順番に採寸に来させるから、よろしく頼むよ。」


「だ・だんな・・・ちょっと待ってくれ! 採寸って? えっ? それなら一月は頂かねぇと・・・。」


「わかったよ。 一か月ね。 了解した。 無理難題言ってすまなかったね。」


「だ・だんな・・・採寸部隊を分けてくんな! そしたら半月でやらせていただきますよって。」


「了解!できるだけ人手を回すよう手配するよ。 工房のほうも組み立て要員とかいたらもっと早くなるかい?」


「それはありがてぇ! よっしゃ、俄然やる気が出てきた! うぉー!」

そう叫ぶと平次は工房へと走りこんで行った。 私は殿に平次のところに人手を回してもらう手配をしてから侍所へと戻った。 この時、殿にはもう一つお願い事をしておいたのだが、それはおいおい話すとしよう。


それから半月は死に物狂いで訓練に没頭した。 このころには連携もスムーズになり全員が無意識のうちに連動して動ける状態にまでなってきていた。 まだまだだが手ごたえを感じ始めたころ、平次から一度見てほしいとの連絡が入った。 平次の工房に行くと、とんでもないものが出来上がっていた。 想像よりフルカバーで想像よりとんでもなく軽いのだ。 駆動部分もしっかりと配慮されていて動きやすい。


「旦那!いかがです? 自分でいうのもなんですが、素晴らしいでしょ! それだけじゃないんですお見せしましょ!」


平次がそういうと鎧を着せたマネキンのようなものが運ばれてきた。 まずは刀、傷一つつかず。 次に槍、もちろん傷はつかない。 そして弓、まったく傷はつかない。 そして最後に平次が取り出したのが・・・


「旦那!最近流行りだした鉄砲ってやつですがね! 見ててくださいよ!」


そういうと平次は鎧へ向けて一発放った。 するどい金属音がなったと思ったら、弾をはじく音だった。 多少の傷はついたが、なんの問題も内容だった。 これよりさらに強い強度で盾が作られているという。 末恐ろしや平次!


「問題ないどころか、さすが平次だね! 素晴らしい出来だ! それであとどのくらいで人数分完成する?」


「最初の分はもうできてまっせ! 持ってっていいぜ!」


いやぁ、もう平次様様ですね。 殿に言って報酬たんまりと払ってもらいましょ。 

侍所にすべてを運んでもらい、お披露目会といきましょうか!


赤虎の名のごとく真紅の鎧が並ぶ。 槍の柄も真紅に塗られていて威圧感がある。 その光景をみた兵士たちはあっけにとられている。 そんな中、大隊長の片岡が口を開いた。


「八森様、これは・・・? 武器や武具も新調してくださると聞いてはいましたが・・・なんて面妖な? これはどこの国のものですか? こんなもの見たこともない!」


「片岡隊長! これは紛れもなく国内で作られたものです。 我が国の武器工房も捨てたものじゃないでしょう。 見た目もすごいですが、装着するともっと驚きますよ。 さあ全員で試してみましょう。」


「皆の衆!八森様が新しい武器と武具を準備してくださった! 名前の入った札を確認し急ぎ装着し整列せよ! 始め!」


 隊長の掛け声とともに全員が一斉に走り出す。 数か月前に見ただらけた怠惰な兵士はもういない。 あちらこちらから「うぉー!」などの感嘆の声が聞こえる。 ただし手は休めない。 あっという間に装着し整列を完成させた。

「八森様・・・何ですかこの鎧・・・こんな軽い鎧は初めてです。 この槍も長いのに軽くて取り扱いがしやすいです。 でもこんな軽装で守れるのですか?」


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。 しっかり守ってくれますから。 それでも心配なら試してみます?」


私はおもむろに刀を抜き、切りかかった。 鋭い金属音がするが鎧には傷一つつかない。 それを見た兵士たちは雄たけびをあげ槍を天高くつき上げた。 あとはこの装備を使って実践経験あるのみ。 そろそろ教育隊の天狗の鼻をへし折りに行きましょうか。 その前に偵察偵察。


久しぶりに教育隊に顔を出すと相変わらず個人トレーニングにいそしんでいた。 やれ力が強くなっただ、速力があがっただと個人自慢ばかり。 やはり個人の能力はかなり高い。 それでも全員が第一大隊の兵士より強いかというとそういうわけではない。 とんでもなく強い奴もいれば、平均的な奴もいる。 全体能力では第一大隊のほうが総合力で上かもしれない。 そろそろ頃合いかな。


「片岡君、お久しぶり。 調子よさそうだね。 みなの状況はどうですか?」


「これは大師匠、お久しぶりです。 見てくださいました? さらに上達しているでしょう? もうどこへいっても無敵じゃないですか? いかがです? あっ、それより私の父上と何やらひそひそ企んでいるようですが、何をしているんですか? 父上も何も教えてくれないんですよ。」


「じゃあ、その企みを教育隊全員で体感してみますか? 明日こちらの訓練場で第一大隊のみなさまと教育隊とで合同訓練、模擬戦を行いたいと思います。 教育隊は何名ぐらい模擬戦に出せそうですか? その数に合わせてもらいますから。」


「そうですね・・・まだ実戦には早い仲間もいるので・・・300くらいでしょうか。」


「わかりました、300ですね。 それでは明日のお昼にここ教育隊訓練場にて模擬戦を行います。 まあ作戦でも練っておいてくださいな。 あっ!私は明日は向こう側につかせていただきますのでよろしく。」


そういうと、私は侍所へと向かい、明日の合同訓練・模擬戦の連絡を隊長に伝えた。 隊全体に少し動揺も見られたが、すぐに武者震いにかわり、士気が上がっていくのがわかった。 これなら明日はいけると確信した。


次の日の昼時、訓練所で教育隊が待っていると、遠くから一定のリズムで刻まれた足音がザッザッと砂煙と共に近づいてくる。 500名の兵士が寸分の乱れもなく整列する、その先頭には第一大隊隊長の片岡隊長が仁王立ちしていた。 真紅の鎧が光り輝き、威圧感でその場を圧倒していた。


「大師匠・・・あれはなんですか? あんな甲冑見たことないです・・・顔がまったく見えませんが、どこの部隊ですか? しかも300どころじゃないようですけど・・・。」


「片岡君、あれがたくらみのひとつです。 お父上の部隊ですよ。 かっこいいでしょ。 それに安心してください、ちゃんと300名でお相手させていただきますので。」


隊長同士で簡単な挨拶を交わす。


「父上、ちょっといい鎧をもらったからって勘違いしてませんか。 どんなに頑張っても我々教育隊にはかないませんよ! しかも今日は晴治が帰ってきてますから。 鬼に金棒状態ですよ!」


晴治くん!そこでなにをしてるのかな? こちらに戻ってきてるなら、報告が先でしょう! しかもあなたは教育隊でもなんでもないでしょう。 勝手に参加を決めないでくださいな。


「息子よ!本気でかかってきなさい! 本当の闘いというものを教えてあげよう!」


いやいや隊長ちょっとまって、晴治がいるとなると・・・まあ大丈夫か! 晴治の鼻も折っておきましょうかね。


教育隊がバラバラと隊列らしきものを組んでいる。 その先頭に片岡君、中央やや後ろに晴治が仁王立ちしている。

かわって第一大隊は、整然と隊列を組み、足踏みが始まると同時に銅鑼の音が鳴り響き、500名の雄たけびが響き渡る。 開始の合図と同時に教育隊がバラバラと切りかかってくる、大隊はゆっくりと前進しある一定のところで100名づつの三列に体系を整える。 1列目がしゃがんで盾を隙間なく構える、2列目は立ち姿勢で1列目の上に盾を構える、3列目はその後ろで待機している。 教育隊の第一撃目を盾で受けると、教育隊の武器はことごとく弾かれ体制を崩した。 すかさず待機していた3列目が攻撃を開始。 盾の隙間から教育隊めがけて長めの槍が突き刺さる。 もちろん模擬戦なので槍先は殺傷能力のないものに変更はしてあるが、打撃の勢いで教育隊は悶絶している。 3列目の攻撃が終わると、1列目が下がり2列目が下へ3列目が上の防御へと体制を変化させる。 また貝のように防御陣をはった。 教育隊は面を食らっている・・・本来なら攻撃された教育隊は前線から退かなければならないのだが、制止を聞かず再度突進する。 再度、はじき返され悶絶する。


「教育隊! やられたものは後ろにさがるように! 命令は守りなさい!」


そう私が叫んでも、すでに我を忘れている。 止まろうとはしない。


「片岡! 晴治! さっさと止めんか! 殺されたいか!」


片岡君も我を忘れて突撃してくる始末。 晴治は私に怒鳴られたせいかその場でおろおろしてしまっている。


「第一大隊! 凸陣形! 第一列防御態勢、第二、第三列攻撃態勢! 本気でやってよい! 蹴散らせ!」


掛け声とともに陣形が一瞬にして変わり、突進していく。 バラバラになり、我を忘れた教育隊にはなすすべもなかった。 片岡教育隊隊長を含む数百人がその場で失神状態におちいっていた。


「晴治! ぼーっとしてないでさっさと隊員を医務室へ運ばんか! それとお前はここに残れ!」

あまり怒鳴られなれていないのか立ちすくんでいる晴治のもとへゆっくりと近づいていく。 晴治から恐怖感が漂ってくる。 晴治の目の前までやってくると、晴治がふてくされたように吐き捨てた。


「師匠! ずるいですよ! いつのまにそちら側についたのですか? それに聞いてないですよ! 大人たちの戦い方もその武器や防具も! ずるいったらありゃしない!」


「晴治、言いたいことはそれだけか。 お前はそこで何をしている? お前は何様だ。」


静かに、しかし怒りをこめて問いただした。 晴治は我に返ったのか、土下座をして謝り始めた。 もちろんそんな簡単に許すはずもない。


「晴治! すべての任を解く! 私が良いというまで自宅で謹慎せよ! 訓練も一切許可しない! もし破ったら私が相手する、命なきものと思へ! 立ち去れ!」


晴治は泣きながら、その場を去っていった。 そこに片岡第一大隊隊長がやってきた。


「若者たちに厳しすぎませんか? また八森様、この結果を予想されていたのですか。 私もこんな結果になるとは予想だにしませんでした。」


「教育隊の若者たちはここまで順調に育ってきました。 いや順調すぎたのです。 戦場とはそんな甘い場所ではないでしょう。 彼らには現状をよく知って欲しいのです。 でないと全員戦場で死にます。 それとこの結果ですが、出来すぎです。 でも大隊のみなには自信回復になったのではないでしょうか。 自信過剰にならないようにお願いしますね。」


「そのあたりは抜かり有りません! まだまだ上を目指さなければなりませんから!」


そう言うと片岡大隊隊長は、高笑いをしながらその場を去っていった。 隊長自身が自信過剰に陥ってなければよいのですが・・・。 更なる改革が必要ではありますが、とにかく大人たちのめども立ってきました。

ここに最強攻撃隊の誕生・・・と思いたい。 


そういえば晴治はなんでいたんだ? 晴希はどうしたんだ? 説得工作はどうなっているのだろう?

謹慎させた手前、聞きづらいが晴治のところに行くしかないか・・・。

まさかの事態が起きているとは知らずに、この日も夜は更けていく。 


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