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こんな雷鳴が鳴り響く夜には  作者: ひでのすけ
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大商人「秀治」爆誕!?

偵察という名のもとに観光に走る秀治。 潜入先に感心しながらいつの間にか潜入を忘れ、商売に目覚めていく大商人「秀治」の爆誕か? いやいやこれも仮の姿!

第四部 大商人「秀治」爆誕!?


清々しい朝だった。 料理はうまかったし、温泉は最高だったし・・・やはり福利厚生はこちらの国のほうが圧勝でしょうか。 インフラ整備もしっかりしてるし、道路は広くてまっすぐ、家には水道が引かれていてお風呂に入る習慣は温泉地以外はないようだが、水浴びは毎日で、石鹸に類似したものまで出回っている。 地方都市でこれだから首都はどんだけなんだかと思っていたが、住職に聞いたところでは観光地や神社仏閣周りは首都並みに発展しているようで首都もさほど変わらないそうだ。 どちらにしても裕福な国ということに間違いはない。


 しかし・・・ほんとにまっすぐだね。 もちろん地形によって多少のカーブはあるのだけれど、隠れるところは全くないし、怪しい人間が来たらあっという間に見つかってしまう。 逆に進軍するにはこんなに便利な道はないだろう。 広いから大軍でも速やかに進軍できる。 


 「完璧やね。 この国のお殿様は国づくりをわかってらっしゃる。 ますます会ってみたくなった。 まあ会えないだろうけど。」


 感心しながら峠道を歩いていると、小高い丘の上に茶屋らしき建物が見えた。 喉が渇いたので少し休んでいこうかと立ち寄った。


 「すみません。 なにか冷たい飲み物をいただけませんか。」


 すると奥から年配の親父が顔を出し不可解な顔をして、吐き捨てるようにこう言った。


 「旦那! 寝ぼけたこと言っちゃいけないよ! 朝一番ならまだしもこんな時間に冷たいものなんかあるわきゃないよ!」


 そうかこの国は南にあるし、温かい国だから「氷」という物体も少ないし、そもそも冷やすという概念がないんだ。 そういえばこの国に入ってから冷たい飲み物を飲んでいないことに今更ながら気が付いた。


 「親父! それはすまない。 熱い茶はありますか。 それと小腹がすいたんで何か食べるものを一緒にお願いできますか。」


 しばらく待っているとお茶と三色団子が出てきた。 いやいや期待を裏切らないね。 峠の茶屋でお茶と三色団子・・・これぞ時代劇! あとはここに若い娘とからむお侍様なんぞが出てきたら完璧なんだが・・・そんな淡い期待を裏切るようにしゃんとした若いお侍に声をかけられた。


 「すみません旅の人。 この国には残念ながら氷はありません。 氷の存在を知っていて冷たい飲み物を希望するとは・・・奥の国の方ですか? 商人の恰好をしてますが・・・商人には見えない立ち居振る舞いですね。」


 そういう若者もお侍の恰好はしてはいるけど、武力タイプではないし、ましてやこの時代の人間にすら見えなかった。


 「そういうあなたもお侍には見えませんね。 この国の人間にも見えませんが、旅の者にしては荷物が少ないですし、何者ですか。」 


 何故こんな返しをしたかというと、本当にこの国というよりこの世界の人間にも見えなかったから。 姿格好はこの時代、この国の格好をしているが雰囲気というかにおいが違う。 それは人のことは言えないのだが・・・その時代とは違う、外の国、違う時代から来た人間特有のオーラというか、多分相手もそれを感じていたのだろう。


 「やはりあなたもですか・・・稀の国に異能の戦士が現れたと噂を聞いて、私の友人に「一目お会いしたい。」との書状を持たせて向かわせたのですが、一向に戻ってこないんですよ。 あなた何かご存じないですか?」


 あの三人の忍びのことか? 書状? あいつらそんなこと何にも言ってないし・・・だったら昼間に堂々と渡しにくれば・・・あっ、内密にってことね、忍びも私が異能の戦士だなんてわからないしね。 どこにも書状なんて持ってなかったし・・・何らかの方法で隠し持ってたってことか。

 仕事に律儀な連中だこと。 おっと、感心してる場合じゃない。


 「さて、とんとわかりませぬな。 私も商売で彩の国へ行きますが、異能の戦士なんて話、聞いたことがありませんね。」

 ばればれだろうけどちょっと商人の振りをして誤魔化してみた。


 「そうですか・・・異国を旅してまわっている商人のあなたなら何か噂や情報をお持ちでないかと思ったのですが。 残念です。 お手間を取らせました。 私は国境まで友人を探しに行ってみるとしましょう。 それでは、あなたとはまたどこかでお会いするような気がします。 それでは。」


 そういうと私が来た道へ向かって去っていった。 多分、あれは誤魔化せてないな。 さてどうしたものか、ここであきらめて戻るか、無理を承知で前に進むか。


 「なあ親父、あのお侍さんはどなたかご存じか? あの身のこなし、ただ者でないとみたが。」


 「ああ旦那、あのお方はお城の老中様ですよ。 あの老中様が来られてから、この国はどんどん良くなってきたんですわ。 なんでも外の国から来たとか、未来が見えるとか、まあ何と言われようが、我々庶民の味方ですわ。 ありがたやありがたや。」


 老中ねぇ、上手く入り込んだもんだ。 まあ、人のことは言えないけれど。 あの口ぶり、この行政運営、どう考えてもこちら側の人間だよね。 こちらに密書を送ろうとしたぐらいだから、敵対するとは考えにくいけど、引き抜きを考えてるんだったら稀の国にとっては敵の可能性が残るし、もう少し見極めてみないとわからないな。 もう少し調べてみますか。


 「親父、ごちそうさん! これから城下町まで行こうかと思うんだけど、やっぱり夜に歩き続けるのは危ないよね。 どこか良い宿場はあるかい?」


 「まあ好き好きやけど、まだ日も高いし、この先もう少し行ったら街道沿いにたいまつがたかれるし、一定の距離をあけて番所があるから、夜中に歩いても大丈夫さね。 ただ海沿いだけやから脇道それて奥に入ったら安全は保障できないけどな。」


 「へー! それはすごい! ということは奥に入って内陸から城下町に抜ける道はないのかな? それとも危なくて誰も通らないのかな?」


 「内陸の道もあるにはあるけど、海沿いの道が安全になってからは、地元の猟師ぐらいしか行かなくなったわい。 宿もねぇいし、獣も出るから、悪いことは言わねぇ、海沿いへ行きな!」


 「そうか親父ありがとな! 海沿いへ行ってみるわ。」


 おいおい城下町近くのメインの道路にはたいまつに番所って、徹底してやがんな。 あんまり目立って入りたくないんだけどな。 だからといって内陸から回ったら途中の番所がなくても最後に必ず関所的なものがありそうだし・・・さてどうしたものか。 えーいままよ、堂々と表通りを行ってやりましょうか。 通行手形もあるし商売手形もあるし、何かあってもさっきの老中にさえ会わなければ大丈夫でしょ。


 しばらく歩くと最初の番所が見えてきた。 番所の周りには籠や馬がつないで会ってタクシーのような商売をしている。 番所が駅のような役目を持っているようで、一つの番所がひと区間で料金が発生していて遠くへ行くほど割引がされていくように設定されていた。 馬は乗り捨て方式で、好きな番所で返却できるようになっていた。 番所の周りには宿屋や休憩所などが整備されていて、旅に必要な品物を売っている店や、お土産物を売っている店もあった。


 「そうだ、飛鳥になんかお土産を買っていかなきゃ。 ちょっと寄ってみるか。」


 ちょっと高級そうな、お土産物屋というより宝飾屋、アクセサリーショップのような店があったので寄ってみた。 生意気そうな店員がこちらを怪しそうな目で見ている。 真珠やサンゴをあしらった髪飾りや首飾りなどがおいてある。 じろじろと商品を見定めていると、先ほどの店員が声をかけてきた。


 「お客様、この店は価値の高いものを揃えております。 身に着ける方も選ばせていただいております。 失礼ですがお客様は当店にはふさわしくないかと・・・。」


 どこにでもあるんだねこういうお店は、まあえてしてこんな対応するお店は大したものを置いてないのが通常だけど・・・まあ見た限りほとんどの品物が大した価値のないものだらけだね。 ただこのまま、はいそうですかと帰るのもしゃくに障るし・・・。


 「それは失礼しました。 私には釣り合う商品がなさそうなので、失礼します。」


 にやにやと勝ち誇ったように笑う店員の前を通り過ぎるとき、腰にぶら下げたずたぶくろを開いて見せる。 店員が一瞬袋の中をのぞいてぎょっとした顔をする。

 「あなたのお店の品物は私には価値が低いようです。 私には不釣り合いなので違うお店に行かせていただきますね。」


 店員に見せた袋は、いわゆる財布! 大量にお金が入った袋だった。 それを見た店員は態度が一変。 どこの時代も反応は変わらないもんだね。 店員を足蹴にして外へ出ると、少年が近づいてきた。


 「旦那、旦那、今の店はダメでっせ。 態度ばっかりでかくて、ろくなもん置いちゃいねぇ。 ちょっと離れるがうちの爺様のお店に来なよ。 ただちょっと値が張るけどいいかい?」


 「値にもよるけどね。 本当にいいものじゃないと買わないよ。 それでもいいかい。」

 あえてお金を持っていることを隠して反応を見てみる。 まあ値切り交渉もしやすくなるしね。


 「もちろんさ! 店は小さいが、品物には自信があるんだ。 爺様が厳選した材料を採ってきて、姉様が細工を施してるんだ。 この国のどこへ行ってもここまでの商品には出会えないさ!」


 そう言うと少年は街道から離れて海辺の道に入っていく。 表の道と違って整備もあまりされていない、建物も決して裕福とはいえない。 ただ住んでいる人たちは活気に満ちている。 少年が通るとあちこちから声がかかる。


 「よう! 久しぶりのお客さんかい? しっかり儲けるんだぜ!」

 「兄さん、そいつの店はいい物がそろってるよ。 買ってやってな!」


 いい街だ。 裏通りに入って、ここまで明るいとは・・・いい国だ。

 そうこうしていると入口に布がかかった建物の前で少年が止まった。 特に布にも何も書いてないし、看板が出ているわけでもない。 ここを店だと感じられるのは暖簾のようにかかっている布だけだ。


 「爺様! 爺様! お客さん連れてきたよ! いねぇのかい爺様!」


 すると奥から若い女性が出てきた。 少年が言っていた細工を担当している姉様だと思われる。 身長は高めだがとても華奢で、実際の身長ほどは感じられない。 年は16歳位か。 少年が海の男って感じで浅黒かったし、町の人間たちも一様に日に焼けていたので、そんな女性を想像していたのだが、想像に反して抜けるような色白で細面の美人が現れたから、一瞬びっくりして動きが止まってしまった。


 「本当に姉様かい? 海の女って感じが全くしないけど。」


 「姉様は、体が強くないんだ。 周りの女たちみたいに海に出て仕事することができねぇんだ。 ただ姉様は昔から手先が器用だったから、みんなが採ってきた材料を使って細工して髪飾りとか作ってるのさ。 それをここで売ったり、町の男衆が行商で売りに行ったりするのさ。」


 なるほど、だからあまり大掛かりに製造も販売もできないというわけですね。 でもこのままじゃ今の生活からは抜け出せないね。 商品を見てみないと判断できなけど、大儲けのにおいがする。 まずはご挨拶から・・・


 「初めまして、わたくし東方の国からやってきました秀治と申します。 良いものを買い、良い物を売る、そういった商売を生業にしております。 弟さんにいい物があると聞いてついてきたのですが、拝見させていただいてよろしいでしょうか。」


 「これはご丁寧に。 弟がご迷惑をお掛けしませんでしたでしょうか。 ちょっと強引なところがありますが、悪い子ではないのですご容赦くださいませ。 失礼しました私この店で細工を担当していますなぎさと申します。 こちらは弟のかいと申します。 また留守にしておりますが、この店の主は私たちの祖父であるうしお。 この三人でこのお店を切り盛りしております。」


 「そうですか。 差し支えなければご両親はいらっしゃらないのですか。」


 「父は、私たち姉弟が小さいころに海の事故でなくなりました。 母は、この仕事だけでは生活が難しいので、お城の老中様の紹介で城下町で仕事をしております。」


 「そうですか、それは気が付きませんで、大変失礼しました。 でもお母様と一緒に生活できればよいのにね。 品物次第ですが、私が手助けできるかもしれません。 見せて頂いてもよろしいでしょうか。」


 一目見ただけで物が違うのはすぐにわかった。 とてもチャーミングで洗練されていて、若干値は張るが、売りようによってはもっと高値で売れるだろう。 これは商売になる、さてどうやって切り出すか。 爺様が帰ってから話したほうが良いかもしれない・・・ここは飛鳥へのお土産だけ買って、出直してこよう。


 「まずは、当初の目的を済ませましょうか。 大事な人への贈り物なんですが、何か良いものはありませんか?」


 渚さんがいくつか見せてくれた。 どれも素晴らしい物ばかり。 もちろん値は張りましたけどね。 ピンクや赤色のサンゴでできていて真珠が藤の花のようにたれている髪飾りを選んで、明日の朝に爺様と仕事の話をしたいと告げて、店を後にした。 この日は番所近くの簡易宿泊所に泊まって、次の日の朝約束通り店へと向かった。 

 店にはすでに三人が待っていた。 爺様はさすが海の男。 とても頑固そうだ。 ちゃんと話を聞いてくれるんだか・・・。


 「おはようございます。 昨日はありがとうございました。 良い買い物ができて彼女もとても喜ぶと思います。 本当にありがとう。」


 

「いいえ、こちらこそあんな高い商品を買っていただいて助かります。 それでお仕事のお話とは、どういったご用件で。 祖父は私が良ければ受けたらよいと言ってくれてますの。」


 「そうですか、それでは早速。 あなたが作る品物をすべて私に任せてください。 今後作っていただく品物もすべて私が売らせていただきます。 そうです独占販売させてください。 だからといって大量に作る必要はありません。 今より少しだけ多く作っていただければ十分です。 大変でしたらお母様にも手伝っていただいたらどうでしょう。 ただ店の看板は下げて頂きます。 希少価値を出したいのでお願いします。 いかがでしょうか。」


 今までしかめっ面をしていた爺様が、口を開いた。


 「とてもいい話だが、あんたのことを信用できる保証がねぇ。 独占でやるってことは、あんたが売ることができなけりゃ、あんたが逃げたら、店をたたんで母親まで仕事をやめさせて・・・生活はどうなると思ってるんだ。」


 そりゃあいきなり信用しろと言っても、旅の商人をすぐには信用できないよね。 さてどうしたら信用してくれるかね。


 「わかりました。 すべて買い取ります。 その場で現金で仕入れさせてください。 それなら任せて頂けますか。 いかがでしょうか。」


 「お前さん、そんなことして大丈夫なのかい? もし売れなかったら、今度はあんたが一文無しになりかねないぞ。」


 「ああ、それは大丈夫だと思います。 ここにもこんだけの現金を持っていますが、この数千倍を港の大金庫に持ってますから。」(ざっと国家予算並みですが・・・なにか。)


 まあ稀の国に持っていったら必ず売れるだろうという確信があったから強気にいけたんだけど、またこの国は店の営業権さえ持っていればどこでも店を開くことができるのだから、城下町に会員制のジュエリー店でも開いたら当たりそうな気もしたしね。

 なんか本当に商売人になってきてしまいました・・・これはこれでよいですけどね。 一応確認しときますか。


 「爺様、すみませんが・・・この店って違法露店とかではないですよね。 権利を持っているのでしたら譲ってくださいませんか。 私の取り扱っている商品とこちらの商品を城下町で売ってみたいのですがいかがでしょうか。」

 

 とても図々しいお願いだとわかっていて無理を言ってみたのだが、意外とすんなりと受け入れてくれた。 この場所は制作現場として専念してもらって、今まで通り村の人々から材料を買い取りして、それを渚さんがデザイン細工をして、潮さんにはこの店の切り盛りと管理をお願いして、海くんには港やこの現場と城下町を結ぶ輸送でもお願いしようか・・・と考えていたら、海くんが声をかけてきた。


 「なあ旦那、俺な、城下町に出てみてぇ。 城下町に店を開くんだろ。 そこで働かせてくれよ。何でもするから頼むよ。 じゃねぇと権利は譲らねぇ!」


 「お前さん、もしお前さんさえよかったら海を連れて行ってやってくださらんか。 こいつらの母親が帰ってくるんやったら、儂と娘とで海の分は何とかしてみせるから、なあこいつの願いを叶えてやってくださいな。」


 それも面白いけど、海に城下町の会員制の店舗を任せることができるかどうかだけど・・・まあ下働きからやってもらって、将来的に化けてくれたら任せても良しとするか。 


 「海くん! 君がこれから向かう道は、今まで通りとはいかない。 行儀作法や言葉遣いなども覚えてもらわなきゃいけないし、嫌なこともあるだろう。 それでも本気でやってみたいと思うかい?」


 少年はキラキラ輝かせたまっすぐな目でこちらを見て大きく頷いている。


 「わかりました、海くんをお預かりします。 海くん、学校、真面目に行ってないでしょ。 まずは城下町で学校に通っていただきます。 そこで算術や読み書きと同時に、行儀作法や言葉遣いも身に着けて頂きます。 城下町の店舗はすぐには開店できませんから、まずはそこから始めましょう。 あっ!露骨に嫌な顔をしましたね。 いいんですよおいて行っても。」


 そこには涙目でふるふると首を振る犬のような海くんがいた。 少しの間、考えもしなかった同行人を連れて歩くことになったわけだが、とりあえず爺様と今後のことを話し合ってこの村を離れることにした。

 街道を歩いていると番所があるせいか本当に平和だ。 これが敵対している国かと思うと、やっぱりなんか違うような気がしてくる。 確かに稀の国はいい国だ。 自然豊かで人々も暖かくて・・・でもこれだけ国力の差を見せつけられると、なんで拮抗してるのかが理解できなかった。 まあこの件は後程わかってくることなのだけれども。 とりあえずお供を連れて城下町を目指す。


 城下町の入り口までたどり着くが、関所も何にもない。 外の国から入ってくる港や接している国境地域には関所のようなものがあるのだが、メインの街道沿いには関所はないそうだ。 ただし番所が目を光らせているので、街道沿いだから緩いかと言ったらそういうわけではない。 城下町に入るとお城までの道がまっすぐ伸びているのかと思ったら大間違い。 しばらくの間は道が鍵型にジグザグで所々結構な幅の水路があり、簡単にはお城までたどり着けないようになっている。 数十分はうろうろしただろうか、いきなり大通りに出てきた。 後で知ったことだが、あのごちゃごちゃした町並みには職業軍人たちが、都市防衛をかねて住んでいるらしい。 大通りに入ると今度は工場のような建物が並ぶ、大きな水路を挟んで向こう側には商店が立ち並んでいるのが見える。 水路には船着き場があり、ここから工場や商店に荷物の荷揚げをしているようだ。 大きな太鼓橋を渡ると活気ある商人の町が広がる。 先ほどよりは少し狭い通りの両側にはずらっと商店が広がりその先にはお城が見える。 この国では町自体が要塞都市と化しているようだ。 


 まずは宿を探して、商店兼住宅の物件探しをしなければ。 町をぶらついているとお城の入り口がよく見えるこじんまりとした料理旅館があった。 本来ならこんな目立つところに拠点を構えるのは定石ではないのだが、木を隠すには森の中ともいうように、今回は定石の逆をいってみる。

 部屋へはいるとお城へ出入りする人物がよく見える。 部屋はちょっと豪華すぎるけど料理はうまそうだし、そんなに長居するわけではないから良しとしよう。


 「女将さん、すいませんがこの町で商人の子供たちが通う商人を育てるような良い学校があったら教えてほしいんだけど。 いやあ私ら田舎から出てきて、この町で商売をしようと思うんだけど・・・この子には学がなくて、立派な商人にしたいんですわ。」


 「旦那、そんな商人の子供たちが通うところより、お金を持ってるなら武家の子供たちが通う有料の学校に入れたらいいさ。 うちの子もできればそこに入れたいと思って頑張っているんだけどね。 国が用意してくれている無料の学校も悪くはないけど、将来城のお役人様とかになろうと思ったら、有料の学校のほうがなりやすいっていうからね。」


 「うーん? ご助言はありがたいんだけど、この子には将来大商人になってもらいたいんです。商人には人脈も大事だから、人脈作りもかねて商人が多く通っている学校に行かせたいんですよ。 その中でも一番の学校に入れてあげたいんですが・・・どこかいいとこあります?」


 そこで紹介された学校に行ってみたのだが・・・まあお高くとまった先生たち、それに輪をかけて親の威光もろだしの子供たち。 こんな学校に未来も発展もない。 旅館の子供もここに通っているのが自慢だそうだが・・・どうもこの町は目に見えない階級制が存在していて、お城に近くなればなるほど格が上がっていくようだ。 確かにお城に近くなるほどお店が派手になっていくし、歩いている町人たちもきらびやかになっていく。 ここまでプラス面しか見えなかったこの国のマイナス面が見えたような気がした。


 そうとなれば話は簡単、商店街の真ん中あたりからちょい上あたりを目指しましょうか。 地区の学校を紹介してもらい行ってみると、先生たちはちょっと熱血すぎるところがあるものの、子供たちは好奇心に満ち溢れ、目がキラキラしていた。 ここなら海くんにもあってるだろうと思い早速お願いした。 ついでに店舗兼住居もこの地区で探そうと思い先生に尋ねてみたら、子供たちがわんさかと集まってきて条件やらなんやらと根掘り葉掘り聞いてくる。 いやいやなんと商魂たくましいというか・・・子供ながらにあっぱれあっぱれ。 この学校にして間違いなかったようだ。


 少年の一人が言っていた物件がピッタリそうだったので、夕方その少年に案内してもらう約束をして、海くんともいったんここで別れた。 夕方学校に行ってみると、大人数の輪の中心に海くんがいた。


 「さすが言葉たらしの海くん。 その話術は城下町でも健在ですね。 と言いたいところですが。」

 (独り言をつぶやいていると、海くんがこちらを見つけ近づいてくる。)


 「よう旦那! もうこの学校はしめてやったぜ! もうみんな俺の仲間たちだ!」


 胸をはってどや顔でこちらを見上げている。 いやはやこんなところでお山の大将を拝めるとは・・・ってありがたくもない。 ここはピシッとしめとかないと。


 「海くん、何をえらそうにしてるんですが。 たかだか学校の大将にあがめられて、何を喜んでるんですか。 まあお友達には違いないでしょうが・・・みなさん、さすが商人の子弟だけありますね。 人心掌握がお上手ですね。 ただ海くんのためにならないので、普通のお友達、お仲間の一人として扱ってやってくれませんか。」


 子供たちはにやっと笑って、海くんの肩を次々とぽんぽんとたたいていった。 それは馬鹿にしているのではなく、対等の立場としての挨拶のように見えた。 物件を案内してくれるという少年と海くんを連れて、少年のお父さんのもとへと向かう。 とにかく首都への侵入はかなった、あとはこの町での基盤づくりだ。 情報収集を忘れたわけではないのだが・・・なんか商売が楽しくなってきた。


予期もしない商人「秀治」の爆誕である!


第四部完




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