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こんな雷鳴が鳴り響く夜には  作者: ひでのすけ
3/17

偵察?調査? いやいや観光という名の潜入!

モテ期を迎えた秀治にあらたな試練がやってくる。 秀治には楽しみでしかないかもしれない試練が!

潜入によって見えてくる景色とは・・・。


その日は雷鳴が轟いていた。 こんな日はまた何かあるのではと・・・ いつも眠れない。 夜も更けてあたりが寝静まるころ、雷鳴は聞こえなくなっていた。 しかし空は雲が覆い、月明りも届かない。 激しい雨のせいでかがり火も消え、辺りは暗闇に覆われていた。 数メートル先も見ることはかなわない。 そんな時、腕につけていたソーラー式端末が反応する。 ランプのカラーはイエロー、実はこの城に来た時に念のためセンサーを城の外半径1キロの円周と家の周りに取り付けていた。


「イエローということは、外部からの侵入者・・・この時期この時間に偵察に出ているとは聞いてないから、敵の可能性が高い。 反応したセンサーは北西角、ということは彩の国か!? (因みに、家の周りのセンサーが反応したらカラーはレッドである。 なんで家の周りにも設置してるかって? そりゃ、まだまだ城の内部にも信用できない輩が大勢いるからね。


間違いの可能性もあるので一人で北西角に向かう。 城郭から出て木の陰に隠れて待っていると、人の気配が近づいてくる・・・二人? いや三人? 相手も気配を消しているので、はっきりとした人数が把握できない。


「彩の国の忍びか?」


気配はつかめるが、詳細まではわからない・・・いや、わからせていないのか・・・ならばかな りの手練れ。 人数によっては少し手に余るか・・・。 まあままよ!  勢いよく先頭を行く敵の前に突然飛び出した。 お互いに剣を抜き鍔迫り合いになる。


「どこの国の手の者か? 正直に答えれば、 今宵は見逃そう。 まさかこれが本気とは思うまいな。」


「何故、我らの侵入が分かった・・・この時間、この暗闇・・・この状況での我らの侵入・・・完璧だったはず。 例え分かったとしても、この短い時間で侵入を探知し、侵入経路まで・・・不可能だ!」


「私は、正直に答えよと言ったはず! そんなことは聞いていない! もう一度言う! そなたらは

どこの手の者か?」


「ふっ、お前一人で何ができる!  こちらが一人と思ったら大間違い! かえり打ちにしてやるわい!」


どいつもこいつも人の話を聞かないんだから・・・まあ正直に答えろと言っても、相手は忍びの

者・・・ 答えるわけないよね。


「そちらこそ三人程度で私に勝てると思っていたら甚だ可笑しいわ!」


「何故、お主こちらの人数を知っている!」


あらあら、あてずっぽが当たっちゃったのね。 それでもいくら当てられたからといって、認めちゃったらダメでしょ。 ということで相手は三人・・・これなら問題なく相手できるかな。

でもどうしたもんかね、殺すのは簡単だけど人質にしたら・・・殿様・・・困るかな? 忍びだから情報も聞きださせないだろうし・・・あっ! でもこの間抜け忍びなら、うまくやれば何か聞き出せるかもしれないな。


「ということで、君たちは捕獲ということで決定しました。 おとなしくお縄についてくださいませんか?」


忍びの親玉らしき人間は、憤慨してわけのわからない言葉を発しながら切りかかってくる。 と同時に残る二方向、木の上から残る二人が襲い掛かってくる。 思った通りさほどのスピードはない。 スローモーションに近い感覚。 さて前に出て先に親玉をたたくか、後ろに引いて三人まとめてたたくか、相手もそう思うだろうな・・・若干右側からくる相手が早いか・・・それでは。


この間、秒もかかっていなかっただろう。 次の瞬間、右側に飛び右側からくる相手のサイドに つく。 多分三人の視界からは消えていたように見えただろう。 左脇腹にいきなり敵が現れる、 防御しようとするが間に合わない。 敵左脇腹に一閃! 相手が悶絶してその場に倒れこむ! ようやく気付いた親玉がこちらへと向かって来るが・・・倒れこむ敵と同時にその影を使って左側の敵に突っ込む! またもや親玉の視界から消えた! 虚を突かれた左側の敵は防御姿勢をとるががら空きの足を足払いで払われ、地面にたたきつけられる。 そこに上からみぞおちへの一撃! ゆらっと陽炎のように立ち上がり、敵の親玉と正対する。 ここでやっと初めてしっかりと視認することができただろう。 あっという間の出来事でなすすべもなかった親玉は呆然と立ち尽くす。 もう戦意は喪失していた。 勝てないと判断したのだろう、剣を交えるまでもなく捕縛された。


「さてとらえたは良いもののどうやって運ぼうか? 誰か手伝ってくれるとありがたいんです が・・・。」


独り言をぶつぶつとつぶやいていると、騒ぎを聞きつけた衛兵がやってきた。 衛兵に別々の牢 に入れることを指示して家に帰ろうとした。 夜も更けてるし、殿への報告は明日でもよいでしょ うと考えたのだ。 家に着くと晴治が待っていた。


「秀治様 殿が支給とのことでお呼びです。 何か騒ぎがあったようですが、何事ですか?」


「大したことじゃないけど・・・殿様からのお呼び・・・ 殿、働きすぎだって・・・。」


城へ向くと、あわただしく武士達が戦の準備をしていて、重苦しい緊迫した空気があたりを包ん でいた。 これは大ごとになっている、慌てて殿のもとへと走る。


「殿! この騒ぎは何事ですか! 戦でも始める気ですか?」


「おお! 秀治か! 聞いておるぞ、先ほどの活躍、あっぱれじゃ! 戦の支度? 当り前じゃないか。敵は斥候を出してきた、ということは本体が後ろに控えていてもおかしくはないじゃろ。 ならば相手が気づいていないうちに、こちらから打って出て奇襲をかけるのじゃ。」


それはごもっともな戦略。 ただ相手の動きもわからないのに、 打って出たしても無駄な時間を 使ってしまうばかり。 ちゃんと情報収集をしてからでも遅くはないと思いますけど・・・せめて 相手の位置だけでも把握しなければやられますよ。


周りにそれらしき部隊も見当たりませんし、「殿! 今回の敵は偵察のみだと思われます。 安心

してよいと思います。」


「秀治がそういうのなら間違いないのだろうが、先ほどの迅速さもさることながら、なぜそなたは先が見通せるのじゃ?  早すぎるじゃろう。」


「殿、斥候の忍びが一人だったらそれもあるでしょう。 しかし今回は複数でしかも城への侵入を企てていたように思われます。 なんらかの情報収集が任務だったと考えます。 ならば今回の戦はないと考えますが、いかがでしょう。」


「なるほど、そう考えることもできるか・・・そなたが先月、派手に立ち振る舞ったからのう。

敵もそなたを気にしたのやもしれぬな。 うむうむ。」


「だ~れ~の~せいですかー!  あなたがあんな派手にイベントぶち上げたんでしょうよ。 その おかげで狙われるって・・・割に合わないんですけど! 」 

どうせ狙われるんだったら、正面から侵 入して自己PRしてきちゃおっかな。 あっ、でも忍びたちは私のことを知らなかったようだし、 まだまだ秘匿できそうかな。 どうしよっかな。


「あの~・・・殿様・・・言いにくいことなんですけど・・・ちょっと隣の国まで遊びいや偵察に行ってきてもよろしいでしょうか。 私一人なら何とでもなりますし、相手のことを知れば戦い方も変わると思いますよ。 ご迷惑はお掛けしませんし、死してしかばね拾うものなしで良いですから。」


「なんじゃその死してって?  それは良いとして、お主・・・ 寝返るつもりじゃなかろうな!」


「何を言ってるんですか! 可愛い飛鳥をおいていけるわけないでしょ!  冗談はよしこさんです。」


「よしこさん? そうじゃなくてお主、やはり娘と、そういう仲じゃったのか? そうとなれば、

祝言の準備じゃ!  誰か、誰かおらぬか!」


「殿! ですから冗談ですってば!  安心してください、これだけ恩を受けておいて、さらに今じゃ弟子もおりますし、寝返るわけはないでしょ!」


「まあ飛鳥のことはまんざら冗談ではないですが(小声)」。


「秀治、そのこと本当ですか? それならなおさら隣国など行かないでくれませんか。 飛鳥は心配で心配で・・・。」


「うわっ! 飛鳥! いつからそこにいたんですか? 全部聞いていました?」

(たまにおそるべし飛鳥ちゃん! ざわついていたとはいえ、全く気配すら感じられませんでした。 これを常に発揮されたら・・・私も命を取られますね。)


「その・・・隣国に遊びに行くってあたりから・・・可愛い飛鳥・・・まんざらって・・・。」


そんな前から、ほとんど聞いているじゃないですか。 しかもほぼ完璧に直接話しをしている殿様より理解しているじゃないですか、 えっ? そんな長い時間近くにいたんですか? それを気づ けないなんて、ちょっと自信を無くしてしまいます。


あからさまに落ち込む秀治を見て飛鳥は、優しく微笑みながら、


「秀治、何を落ち込んでるんですか、飛鳥は秀治が望むならいつでもどこでもお側に参ります。」


「ありがとうございます。 とてもうれしいです。 飛鳥の笑顔は何物にも代えがたいです。 とても元気がでますよ。」 (落ち込んでる意味が違うんですけどね・・・まあそれは良しとしましょう。)


結局、隣国へのお遊び、いやいや偵察を殿様に許可をもらい、飛鳥姫を説き伏せて行くことを決

めて、準備のために家に帰った。 ここで一つ問題が起きるのだが・・・しかしこれは予想の範疇だった。


晴治と晴希が家の前で仁王立ちして待っていた。 まあこうなる予想はしてたから驚きはしない


けど、この二人はどこでどうやってこんなに早く情報を仕入れてくるんでしょうかね。


「秀治さん! もちろん僕たちも連れて行ってくれるんですよね! 置いていくなんて言わないですよね!」


「晴希は置いて行っても、私は連れて行ってくれますよね!」


「今回は、二人とも連れていきません。 二人を連れて行ったら、あっという間にばれてしまうじゃないですか。 私が一人で行くからばれないし、行動も自由にできるんですよ。 それに戦いに行くわけではないので、装備もほとんどおいていきますし・・・ あっ晴治くん、私が着ることができる大きさの商人服を準備してくれませんか。 それと商人の商売道具的なもの、何でもいいんで準備してくれませんか。」



「さすがです! 商人ならどの国でも怪しまれませんね。 でも彩の国への通行手形は手に入りませんよ。 どうするんですか?」


「じゃーん! これは何でしょう!」

秀治は数枚の通行手形を出して見せた。 複数国の通行手形だった。 なんでこんな物を持って いるのか。 話は簡単、先の戦闘で忍びの親玉が持っていたものだった。 それを見て晴治が気づいた。


「ならなんで今回は通行手形を使わずに、闇夜に紛れて侵入しようとしたんでしょうか。 手形で入ればなんなく侵入できたのに。」


「晴治、 私たちがいるこの国に通行手形ってありますか? ないでしょ!  彩の国は貿易国だか ら商人の受け入れをいろんな国から行っているけど、我が国は軍事拠点だからね、海から回らない限り超えられないよね。 それとこれは一枚しかないのね、だから連れていけません。 わかったかな。 晴希もわかったら大人しく待っててくださいね。 お土産ぐらいは買って来るから。」


次の日、秀治は早速彩の国へと向かうのだが、もう一つ難問があった。 我が国は彩の国と戦っ ている、それはあちら側からみても同じ。 ようするに彩の国も東からの陸路での侵入はありえな いということ。 そこで遠回りにはなるが、 奥の国と彩の国とは貿易のつながりがあるため、まず は奥の国へ向かい、 海路で彩の国へ入ることとした。 途中大殿のところへ顔を出し、いらないと 言ったのになんかの足しになるからと金子を大量にもらい奥の国へ入った。 そこで奥の国の特産 物である高級茶と高級キノコを大量に買い、残りの金子を彩の国の金子に変えて、奥の国の港町の 旅籠で船の出港を待った。 旅籠で休んでいると子供かってくらいの男とこの時代では珍しく2メートルは越えようかという大男が話しかけてきた。


「おにいさん、また大量の荷物だね。 しかもすべて高級品ときたもんだ。 船に乗って彩の国で一儲けってところかい? まあ陸路では行けないから仕方がないが、海路には海賊が頻繁に出やがる。    そこでものは相談だ。 俺らをやとってはくれないかい。 ようするに用心棒さ。 それに俺たちは海賊にも顔がきくし、命だけじゃなくておにいさんの荷物もまもってやんよ。 まあちょっと値は張るが安心料と思ったら安いもんさ。 どうだい?」


見たところ用心棒というより海賊の一味ってところか。 安心料っていうのはまんざら嘘ではな さそうだ。 安心料を払えば命と荷物の保証はするけど、高い安心料を払わなければならない。 まあ持ってる有り金全部持っていかれるくらいの感じかな。 払わなければ荷物はもちろん命ですら危ないということかな。 ようするに次の船は海賊が出ますと言ってるようなもの、というより全員が安心料を払わない限り、毎回海賊が出ますよということか。 いっちょ話に乗ってやって少し懲らしめてやりましょうかね。


「そうだね安いもんだね。 ただその安心料なんだが一部は払うが、残りは成功報酬ってやつでいいかい。」


「成功報酬? なんだいそりゃ?」


「君たちが海賊とうまく話ができるとは限らないだろう。 だから成功して無事に彩の国にたど

り着けたら残りを支払うってやつさ。 それじゃダメかい?」


なにやら二人でぶつぶつと話し合っている。 結論がでたようですんなりとオッケーしてきた。

多分海賊一味で必ず成功するのだからあとからもらってもかわらないだろうとなったようだ。


二日後、天候が回復して船が出ることとなった。


海賊一味の二人に荷物を運ばせ (最初は納得してなかったが私が雇った用心棒でしょ、なら仕事も手伝ってもらわないと、こちらは金を払ってるんだからと伝えると、頭にはてなマークを飛ばしながら手伝っていた。)


彩の国までは海路で二晩。


二日目の夜 船内に怪しい空気が流れる。


「そろそろかな、来るんだったら今でしょ!」


甲板に出てみると、ちょうど海賊船が横付けするところだった。 かぎ爪付きのロープをこちらの船に引っ掛けて引き寄せる。 みるみる船が横付けされ衝撃が走る 「ガガガガガーン」大きな音とともに船体がきしむ。 すると次の瞬間海賊たちが飛び乗ってくる。


「有り金、荷物、全部差し出せ! 命だけは助けてやる!」


すると小さい男が私の前に来て、海賊に向かって正対する。 


「海賊の旦那、この方は安心料を払ってますんで、よろしくっす。」


「安心料だ! そんなはした金じゃ見逃すわけにはいかないね。 身ぐるみはいで海に放り込んでやんな。」


小さい男も大男もにやにやしている。 やっぱりそういうことね。 何が安心料だか。 はいそれではお仕置きタイムスタートです。


「こまりますね用心棒さん。 約束は守ってくれないと。 話が違うじゃないですか。」


「にいちゃん、すまないな。 命だけは助けてもらえるよう頼んでおくから、出すものだしてち ょうだいな。」


もう予想通りの展開で進んでいくもんだから、途中からおかしくておかしくて笑いが止まらなく

なった。 他の客にも影響が出始めたので、このあたりが頃合いだと踏んで立ち上がった。 海賊 の一人が詰め寄ってきて座れと命令してくる。 聞かないで立っていると、肩をついて座らせよう とする。 その手を取ってひねり上げ、思い切り突き飛ばす。 突き飛ばされた男は数メートル飛 ばされマストにぶちあたり意識を失う。 それを見た海賊の仲間たちがわらわらと集まってくる。

怒号が飛び交う、 周りを囲まれた。 絶体絶命かと思われたその中心の男は笑みをも浮かべなが ら余裕の表情。 海賊たちはいっせいに秀治に襲い掛かる。 その瞬間数人の海賊が海の藻屑と消えた。 残りの海賊たちが後ずさりする。


「さあショーの開幕だ!  お前ら全員覚悟しておけよ!  今日の私に慈悲の心など期待せぬよう! 全員そろって地獄行きだ!」


そこからは一方的だった。 あっという間に乗り込んできた海賊たちは海の藻屑と消えた。 このあたりの海はサメが多いし波も高い、生きて帰ることはないだろう。 秀治は最後に用心棒二人の前に立ちはだかった。


「どこへ行くんだい用心棒さん!  あんたらが海賊のお仲間だってことはお見通しなんだよ。

今までさんざんアコギなことで儲けてきたんだろ。 一緒に海の藻屑と消えな!」


「へへへっ、旦那~。 勘弁してくださいよ〜。 俺らだって好き好んでやってたわけじゃないんですよ。 それよりも旦那、とてもお強いんで。 俺らを仲間にしてくれません。 儲けは旦那が8割、 俺らが2割・・・いや旦那が9割でいいですから。 ねえうまいことやりましょうよ。」


「とことん腐ってやがんな。 海に放り込んで助かる可能性を無くしてあげるよ。 この場で死にな!」


隠し持っていた刀を振り上げた瞬間、二人の首が飛んだ。 あっという間の出来事だった。

彩の国に無事に入りたかった、静かに入りたかった私は、他の客に海賊が襲ってきたことすらなかったことにしてもらった。 他の商人も面倒なことは嫌だったし、荷物も金子もまるまる残ったわけだからと、積極的に協力してくれた。


その日のお昼、港町が見えてきた。 彩の国だ。 大量の荷物を船から降ろすと大量の仲卸人たちが群がってきた。 お目当ては奥の国の高級茶と高級キノコだ。 これは彩の国では取れない品物で、高級品のため滅多に入荷しない品物だからだ。 どこから噂を聞いたのか、この船で高級品が大量に持ち込まれるという情報が流れたようで、高値で飛ぶように売れた。 今度はそれを彩の国の特産物である絹の織物やお米に変えて港の倉庫をかりて保管した。 さあまずは一仕事終了、あとは観光観光・・・いや偵察調査のお仕事です。 今晩は、港に宿をとり、まずは彩の国の首都を目指す。


いやー昨晩の宿での晩御飯は美味かった!  まあ大金を稼いだ後だったから、いいものを食べれ たということもあるのだけれど・・・それにしてもさすがは貿易国彩の国!  海の幸、山の幸、お 米もおいしいし、申し訳ないが食事に関しては勝ち目がない。 おもわず寝返ってしまおうかと、 誘惑にかられた。 滞在中は満喫させてもらいましょうかね。


さてまずは国境地帯を調べようかとも思ったのだが、いきなり怪しまれてお縄にでもなろうもん なら、何のために彩の国くんだりまで来たのやら。 いきなり観光いや調査が終わってしまう。 人が集まりそうな、情報が集まりそうな場所を選びながら首都を目指しましょうか。 いったん海岸沿いを南下して半島の突端を目指す。 宿のおやじに観光ルート、いや人の集まりそうな場所を聞いたら、まずはここを教えてくれたのだ。 長く続く白い砂浜、やはり私が住んでいた日本とよく似ている。 この辺りは日本でいうと和歌山県南紀白浜あたりだろうか、海岸沿いには高級そうな旅館が並ぶ。 お昼をここで済ませて次へ向かおうと考えていたのだが・・・高級旅館で聞き取り調査をしても地元の情報や正直な意見など聞けないだろうと思い、 小さな民宿風の小料理屋を探した。 路地を入っていくと、いかにもローカルといった空気が流れだす。 なんとも雰囲気のよい、 地元! って感じの街並みが続く。


しばらく歩くと海が見える小高い丘の上に、こじんまりとしたこじゃれた料理民宿があらわれ た。 昼間だというのにがやがやとにぎやかで、どうやらお酒も入っているようだ。 ここならい ろいろな情報が得られるやもしれない。


「おじゃまします。 私は東の国の貿易商で秀ってもんです。 この国は初めてなんでせっかくだから観光して帰ろうと思ってんですが、表通りを歩いてちゃあ面白くないってことで、 裏通りに迷い込んでしまいました。 でも迷い込んで正解でした。 こんな素敵なお店に出会えるなんて。 おいしい食べ物と、おいしいお酒が飲めそうですね。」


「うれしいこと言ってくれるね!  あんた旅の玄人だね、わかってるねぇ。 表のあんなきらびやかなところは高いばっかりで、地元の物なんかほとんど使っちゃいないさ!  まあ入んな入んな、奥までずずずいーっと入んな!  まずはお知りおきの一杯だ!  さあみんな杯を持ちな!  それ! かんぱーい!」


店の中にいた数十人が一斉にこちらを見て杯を掲げる!  勢いにおされて思わずかんぱいして しまった。 海の幸が中心だが、おいしい料理が次から次へと出てくる出てくる。 おいしいお酒とともに私のおなかは満腹状態。 気が付いたら夜も更けていて、お昼を食べて次へ向かうはずが、 この民宿に泊まる羽目になってしまった。 あっ、もちろん調査も忘れてませんよ。 このあたり の土地は漁業と観光業がメインで、海に近いエリアは観光化が進み大きなお店が首都から流れ込ん できているそうだ。 もとからいた漁師たちは、山沿いに追いやられてしまったために漁師をやめ てしまったものもいるそうだ。 ここの女将は旦那さんが戦で死んだあと、一人でこの民宿を切り 盛りしているようで、毎日のように漁が終わったお昼には漁師たちが詰めかけてきて夜まで飲み明 かすそうだ。 また彩の国は自由貿易が盛んで、新しいお殿様はどんな国の者でも許可証さえ持っ ていれば、自由に商売ができてどこにでも店を構えることもできるようだ。 戦のやり方も徴兵制 ではなく志願制になり職業軍人化してきているようで、民衆がいきなり戦に駆り出されて死んでい くということは、ほぼなくなったようだ。 年貢は結構取られるようだが、そのお金で道を整備し て、各町に学校を作り、十二歳までは無償で誰でも分け隔てなく勉強ができるそうだ。 町の診療 所もできて病人も少なくなり、今の若殿様のおかげだと皆口をそろえてそういうのだ。


「うーん? なんでこんな国と戦してんだ?  まあ、今の若様が新しい殿様になってからとのことだから・・・それ以前はひどかったらしいし。 もう少し調べてみましょうか。 平和の道も模索できるかもしれない。」


私はおいしい朝ご飯をいただいた後、女将から聞いた次の観光地、いや調査地である有名なお寺 へと向かうことになった。 そのお寺は北西に位置した少し山の中にあった。 山を分け入って行 くと、突然朱色の建物が見えてきた。 その奥には三重、いや五重塔が見えてきて、さらに奥には 神々しい滝がある。


「那智の滝? ほんとに見覚えのある風景がこの時代には垣間見える。 あっ、でも八咫烏ではないんだね。 鷹なんだね。」

ぶつぶつとつぶやいて立っていると、後ろから声をかけられた。 まったく殺気は感じられず、 それどころか慈愛のオーラさえ感じられた。


「旅の人、何か悩みでもありますか。 拙僧にはそなたが大きな悩みと試練を抱えていると見えますが、よければ話してみませんか。 何の解決にもなりませんが、少しは気が楽になるやもしれませぬぞ。 わが殿もよく迷われると、この滝をずっと眺めて、拙僧に思ったことをぶつけて帰られますぞ。 そなたも殿と同じような顔をされておる、よければじゃが話してみませぬか。」


「これはご丁寧にありがとうございます。 そうですね・・・今はかないませぬがいずれ。 それよりもこの国の殿様がこちらへ来られて懺悔のようなことをされていられる。 道中お話を聞くと、それはそれは素晴らしい殿様だと皆が口々におっしゃるので、たいそう立派なお殿様だと。 そうですか、 そんなお殿様でも日々悩まれておられるのですね。」


「そうですね。 この地にはとてもよい温泉が湧いておりますので、 そなたも入って行くがよろしい。 腰にそんな重そうなものをぶら下げていたら、どんなにしんどいか。 ついでにその血生臭いにおいも落としていかれよ。 そなたさまに道中の仏のご加護を。」


「ありがとうございます。 そうさせていただきます。 この土地の食べ物で何かおすすめはありますか。 できればそれを食べれるところもご紹介いただけると助かります。」


食えない爺様だ。 隠し持ってた刀も見抜くし、風呂には入っているから血生臭いことなんてな いはずなのに・・・恐ろしい爺様だ。


「そうだねぇ、ここは猪肉がおいしいよ。 おいしいお店も紹介してあげよう。 おっと坊主が猪肉とはまずいかな。 これは内密に内密に。」


爺様に言われた店に向かう。 寺を出て数メートル、本当に目の前にあるお店だった。 中に入


って事情を話すと、すぐに奥の間に通された。 話がちゃんと通っているようだ、なんて素早い対


応。 部屋に入るとさらにびっくり。 先ほどまで寺で話していた爺様が部屋にいるではないか。


しかしこの爺様は、どうみても料理人・・・ はてなマークが飛び交っていると・・・。


「先ほどは兄が失礼しました。 実は寺の住職は私の双子の兄でして・・・よくお客様を送って


くださるのですが・・・何か無理やりなんてことはありませんでしたでしょうか。 もし無理やり


でしたら、お店を変えていただいていっこうにかまいませんので。」


あーびっくりした。 ザ 家族経営! 見事な営業マン! どの住職が本当の住職なんだか。


「どの姿も本当の私でございますよ。」


いきなり耳元でささやかれた。 気配はしてたけど、動けなかった。


「住職、ここで何してるんですか。 仕事はいいんですか。 弟さんいらっしゃるんですね。 先


に言ってくださいよ。」


「ここの猪肉がうまいのはうそではありませんので、 堪能して帰ってください。喜んでいただ

けると思いますよ。」←


「住職、 商売人の顔になっていますよ。」・


「ここはお店ですから・・・それでいいんです。 お寺に帰ったら、ちゃんと住職をしますから。」


この生臭坊主め! ただ本当にこの店の猪肉はおいしかった。


住職の弟によると、 この店もお殿様の提案だそうで、お寺では一切お金はとらないように、そのかわり門前で猪肉料理屋の権利を認めるから、そちらで儲けなさいとのことだったようだ。

だから住職も営業マンになってたっていうことだね。 でも殿様は猪肉を食べないそうで、というよりお肉やお魚も食べないそうで、今でいうベジタリアンなんだそう。 どんなお殿様なんだか、どんどん興味がわいてきた。


さあ明日はとうとう首都に入る。 いろいろな国からいろいろな人々が集まっている活気のある 街だと聞いている。 見たこともないものもあるだろう。 飛鳥へのお土産もあるかな。 いろいろなトラブルが待ち受けているとは知らずに異国の地での夜はふけていく。


第三部 完



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