第5話 お世話係の誕生日
帰宅後、星川にノートパソコンを借りUSBの中身を確認した。
俺が酷い目に遭うという内容なのに、無駄に文章力が高いため普通に読めてしまう。……しかし何だこれ。一から十まで全て嘘、毛ほども事実に基づいた内容ではない。
あいつ、最近面白いネタが無くて誌面が平和だって言ってたからな……。
それにしたって、こんなメチャクチャをでっち上げるのはどうかと思うが。
「何を見ているんですか?」
制服から部屋着に着替えた星川が、ぬっと俺の顔の横から現れた。横髪が頬を撫で、梨のようなふくよかで蕩ける香りが鼻腔を刺激する。
「俺への誕生日プレゼントだよ」
「えっ。プレゼントに自作小説ですか? 変わった人ですね」
確かに凜は変わっているが、お前も抜群に変わった奴だぞ。――という突っ込みは置いておいて。
「小説じゃないよ」とそこだけ訂正し、ファイルを閉じ削除してUSBを抜く。
これは明日、凜に返しておこう。
「それより、今日は瀬田君の誕生日だったんですね。おめでとうございます」
「違う違う。誕生日は三日前の、俺が星川に助けられた日だ」
「それは失礼しました。では、明日にでもプレゼントを買いに行きましょうか。ちょうど土曜日でお休みですし」
「……えっ? いや、別にいいって」
「なぜですか?」
「だって、もう十分によくしてもらってるし」
ふかふかなベッドに広い風呂、高性能な洗濯機と変な音がしないエアコン。
生活用品はお金を気にせず使えて、最新のキッチン家電のおかげで料理も快適だ。
その他諸々を差し置いて更に何か貰おうものなら、サディストな神様がまた俺にちょっかいを出して来るかもしれない。
「ダメです。生まれたことをお祝いするのはとても大切だと、お婆ちゃんが言っていました」
「おめでとうって今言ってくれたし、俺は満足だよ」
「そうではなく、プレゼントを用意して、ケーキを食べて、クラッカーをパンパンと鳴らすんです。その年齢まで頑張ったことを祝福する日なんですよ。おめでとうなんて言われて当たり前なんです!」
その声には妙に熱がこもっており、顔も無表情ながら強固な意志が燃えているような気がした。
エナドリを万能飲料だと声高々に言い張った時のような砕けた雰囲気はなく、怒られているのだろうかと錯覚してしまうほどの熱量に目を見張る。
「お世話係に命令です。仕事として、誕生日のお祝いをされてください」
「わかった。わかったよ」
俺が頷くと、星川は満足したようにふんすと鼻息を漏らした。
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