第4話 お世話係と友人の危惧
「あれ、生きてたんだ」
「何だその残念そうな顔」
登校早々、吉見は俺を見るなり拍子抜けといった表情を作った。それを咎めるように眉をひそめると、いつもの人を食ったような軽薄な笑みを浮かべる。
「勝手に殺すなよ。星川が体調崩したから面倒見てたんだ」
「じゃあ問題なくお世話係になれたんだね。…………つまんね」
「聞こえてるぞ」
「まあいいや。これ、遅くなったけど誕生日プレゼントってことで」
と言って、俺の机にコトッと何かを置いた。
……USBメモリ?
意図がまったく掴めずにしげしげと観察していると、吉見は「せっかく書いたのになぁ」と残念そうに息を漏らした。
「幸平が休んだから、もしやと思って昨日の夜頑張って記事の原稿を書いたんだ」
「もしやと思ったなら助けに来いよ! てか、こんなの貰ってどうすりゃいいんだ!」
「僕の手元にあったら手が滑って載せちゃうかもしれないし、データはそれしかないから適当に処分しておいてよ。幸平がやばい連中に拉致られて消えたって路線で面白おかしく書いてあるから、暇だったら読んでみて」
「それはもう捏造ってか創作だろ……」
「あとこれ、昨日の授業のノート。早く写して返してね」
「……」
「悪いな」とノートを受け取って、USBを鞄にしまう。
ありがたいやら恨めしいやら。感情の針が右へ左へ揺れ動いて酔いそうだ。
「お前にとっちゃ無理な相談かも知れないけど、俺と星川のことはそっとしておいてくれないか。変な噂が立ったら、あいつに迷惑かけることになるし」
「うん、わかった」
「……えっ、即答?」
「面白さは大事だけど、友情も捨てがたいからね。それに、幸平がようやく平穏を掴みかけてるところなんだ。邪魔なんかできないよ」
「り、凜……っ!」
「その代わり、星川さんの私生活について詳しく聞かせて。そういう情報を高く買ってくれる男子が大勢いるんだ」
「信じた俺がバカだったよ!」
「ははっ。じょーだんじょーだん」
目が笑ってないぞ、お前。
「星川さんには女の子のファンが多いから、下手なこと書いて敵に回したくないんだ。その子たちが僕の情報源でもあるし」
だから昨日書いたものにも星川さんの名前は出していないと補足して、やれやれと肩をすくめた。
「幸平も気をつけなよ。もしバレたら相当嫉妬されると思うから」
「……まあ、俺が陰口叩かれる分にはいいよ。星川に迷惑がかからなければ」
「男からの嫉妬もキモい上に怖いからねえ。呼び出されて殴られたりするかも」
「流石にそこまでする奴はいないだろ」
何て笑っているうちに、担任が教室に入って来た。
凜は前に向き直り、俺も軽く姿勢を正す。
……――この時の俺は知らない。
凜が危惧する事態が、のちに現実のものとなってしまうことを。
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