第11話 お世話係の背中
「……ご、ごめんなさい」
保健室までの道中。
十秒ほど歩いたところで、星川は声を震わせながら言った。首に回した腕にきゅっと力を込め、泣いているのか鼻をすする。
「あんなこと、されるって、思わなくて。それで、瀬田君に迷惑をかけて。本当に、ごめんなさい……」
「そんなの、星川が謝ることじゃないだろ」
うちの高校は一応進学校なため、不良らしい不良はほとんどいない。
だから、俺も驚いた。あそこまで堂々と校内で暴力を振るう奴がいることに。
「それより、嬉しかったよ。ありがとう」
「……え?」
「俺が悪く言われたから、怒ってくれたんだろ」
小学生の頃、うちの親がどうしようもない奴だと知った同級生の保護者から、うちの子に近づくなと面と向かって言われたことがあった。友達だった奴からも、暴言を吐かれたことがあった。先生はただ苦笑いを浮かべるばかりで、俺に何もしてくれなかった。
子供ながらにそれは理解出来る感情だったし、抵抗しても仕方ないため諦めていたが、悲しくないわけがない。
でも、星川は言ってくれた。
だから何ですか、と。瀬田君の何を知っているのか、と。
「ただ、ああいう危ないことは二度としないでくれ。今回は俺が割って入れたから良かったけど、もしいなかったら大変なことになってたんだから」
「……肝に銘じておきます」
俺が悪く言われる分には構わないが、星川に危害が及ぶのだけは困る。
実際、泣かれてかなりへこんでるし……。
「瀬田君は……身体、平気ですか?」
「丈夫な方だからな。心配しなくてもいいぞ」
最大三日間の不眠不休労働が可能な肉体だ。
蹴られて痛くはあったが、怪我をするほどやわではない。
「それより、そっちこそ大丈夫か? もう立てそうならおろすけど」
「……いえ、このままで。快適な乗り心地です」
と言って、俺の肩に鼻を押し当てる。
もぞもぞと動くたび、背中に感じる圧倒的存在感のそれが形を変えた。意識しないよう努力はしているが、俺も男の子なわけで。甘い香りも息遣いも心臓に悪く、立てるなら無理やりおろしてやろうかと思案する。
「かっこよかったです」
「な、何が?」
「助けてくれた時の瀬田君。自分が痛くても、私の心配してくれて……すごくかっこよかったです」
ふぅっと、熱い吐息が耳の裏に当たった。
「ドキドキしました」と呟いて、心音がこちらに伝わりそうなほど強く密着する。……あの、ドキドキしているのはこっちなんですが、星川さん。
「――――あっ」
唐突に、星川の口から上擦った声が漏れた。
何かを思い出したような、そういう声。
「帰ります」
「は?」
「家に帰ります。急いでくださいっ」
と言って、ビシッと玄関の方を指差した。
帰るのはいいが、このまま……?
日間12位です。
ありがとうございます!
「面白い!」と思ってくださった方は、
ブックマーク登録・評価を(目次下の☆☆☆☆☆を★★★★★)して頂けると励みになります!




