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プロローグ


「いいか、幸平。パパは天才マジシャンなんだ!」


 あれは確か、三歳の頃だった。


 俺は父親に連れられ街に繰り出し、言われるがまま通行人に声を掛けて客を集め、父親のマジックのアシスタントをしていた。マジシャンと言っても、出来るのはたった一つだけ。客から集めた千円札を全て百円玉に変えるというもの。


 最初こそマジックが出来るなんてすごいと誇らしかったが、流石に年齢を重ねればただのペテン師だと気づき、俺が祖父から貰ったお年玉の一万円を一円に変えられた時は本当にやばい奴なのだと思った。


「ママはファッションデザイナーなの! 私の作る服は、皆が買ってくれるのよ!」


 これは五歳の頃の話。


 俺の母親は、いつも家で服やバッグを作っていた。

 そのどれもこれもが子供の目から見ても洗練されたデザインで、売りに出すといくらでも買い手がついた。当然俺も手伝わされたが、のちに自分がブランド品偽造の片棒を担がされていることに気づく。


 そこを指摘すると、「グッチもエルメスも私が立ち上げたブランド!」と嘘丸出しの弁明をされ、この人は本当にどうしようもない奴なのだとわかった。


 ハッキリ言って、うちの両親は屑だ。


 まともに働かず、いつも夢見がちなことばかり口にして、他人の財布に手を突っ込むことしか考えない。

 俺のこの幸平(こうへい)という名前も、「私たち夫婦に幸福を公平に分け与えてくれる人になって欲しい」との理由で付けたらしく、それを知った時はかなり落ち込んだ。


 これで未だに捕まっていないのだから、世の中はどうかしていると思う。


 だが、本当にどうかしているのは俺だ。


 こんな親でも、俺は愛していた。

 数千回も数万回も見捨てようと思ったが、公園で遊んでもらった記憶やファミレスでご飯を食べた記憶が、その決断を阻害した。


 中学から年齢を誤魔化して仕事をこなし、高校に入ってからもバイト漬けの毎日。

 家賃を払って、食費を稼いで、水道も光熱費もやりくりして。


 何とか日々をしのいで来たが――。


「お前のお父ちゃんとお母ちゃんがこさえた一億の借金、どうしてくれんねん」

「選べや。腹ん中掻っ捌くか、変態に飼われるか」


 十六歳の誕生日。木枯らしが吹く十月末の夜。


 奮発してスーパーでケーキを買い家に戻ると、両親と家財道具の一切が消えており、二人のスーツを着たこわもてのお兄さんが立っていた。

 

 混乱した頭でようやく理解した、ある一つのこと。


 どうやら俺は、両親に見捨てられたらしい。


お読みいただきありがとうございます。


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