混沌(カオス)の幻影!の巻!2 ~霊剣撃化~
シンは少年だったが、百戦錬磨の強者だ。
今では彼が何と戦っていたのか、ペネロープにも思い出せない。
ただ、ペネロープが憶えているのは――
ペネロープが母親を喪った頃に出会い、シンのおかげで彼女の悲しみは晴れていったのだ。
――スターズ……!
チェイサーは立ち上がる。究極の生物兵器が、この程度で活動を停止するわけがなかった。
身構えるシン。ペネロープを守るために戦う意思を秘めたシンに、恐れも迷いもない。
生身の、生ある存在ではないようだが、彼はペネロープの味方であった。
「――如意!」
シンの側にいたもう一人の人物が真言を唱えた。手にした白銀の鎖は光と共に姿を変え、日本刀によく似た武器となった。
「ランバー……!」
ペネロープはまたも驚愕した。
長い黒髪を後ろに束ねた眉目秀麗の男性もまた、ペネロープと恋した青年であった。
吸血鬼ハンター、ランバー。
彼は祖先から「ラグナロク」と呼ばれる神秘の鎖を受け継いでいたのだ。
敵であったはずなのに、どうして惹かれあったのか。
それこそが男女の奇縁、永遠に解けぬ宇宙の真理なのかもしれない。
――す
ランバーは洗練された所作で、刀を腰だめに構えた。
居合の構えだ。ランバーは左手に握った鞘を腰につけ、右手を剣の柄に伸ばす。
中性的な美しい顔をしているが、今のランバーには必殺の気迫が満ちていた。
その気迫にチェイサーのみならず、端から見つめるシンとペネロープすら息を呑む――
「――いくぞ」
ランバーが僅かに腰を落とした。
チェイサーは圧倒され、一歩下がった。
次の瞬間、
――ゴパ!
チェイサーの首が切り裂かれた。
ランバーはすでに、チェイサーの背後に回り込み、剣を正眼に構えていた。
チェイサーが怯んだ一瞬の隙にランバーは踏みこみ、一足飛びに居合で横薙ぎに斬りつけたのだ。
隼が獲物を捕らえて即座に喰らうがごとし――
そのような形容の相応しい、ランバーの一手だ。
彼は一瞬の勝機を捉えて、無心の一手を放ったのだ。




