混沌(カオス)の幻影!の巻!
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山間に来ていたペネロープと、お供のツィークとラーニップ。
バカンスに来たはずのサバイバルホラーは、未だ続いていた。
――スターズ!
生物兵器「チェイサー」は月光の下で、ペネロープへロケットランチャーを発射した。
「こんのう!」
満身創痍のペネロープだったが、彼女は火を吹くロケット彈を、両手でつかんで受け止めた!
「わたくしを倒したいなら核ミサイルを持ってきなさいよ…… 返すわ~!」
ペネロープはロケット彈をチェイサーへ投げ返した。そして生じた大爆発…… チェイサーは炎の海に、身を沈めていた。
「しゃ~、んなろ~……」
勝利したペネロープだが、かつてないほど消耗していた。
科学によって産み出された無数の生物兵器を、彼女一人で叩きのめすとは。
さすがは「不死王」の娘であった。
「ペ、ペネロープ様ー!」
「は、早く帰ろうよー!」
泣き叫ぶツィークとラーニップを一瞥し、ペネロープは呆然としていた。もうそこまで考える余裕すらなかった。六百年を生きて、ここまで疲弊した事はなかった……
――スターズ……!
地獄の底から響いてくるような声に、ペネロープは驚愕した。
炎の海から身を起こすのは、ロケット彈の直撃を食らったはずのチェイサーだった。
全身を炎に包まれながら、チェイサーの体は更なる変化を遂げていく。
吹き飛んだ右腕は再生し、蛸のような無数の忌まわしい触手が蠢いている。
焼け焦げた肌は見る間に膨張し、頭部はおぞましく醜悪な怪物のそれと成った。
ペネロープも、端から見つめるツィークとラーニップも、もはや生きた心地もしなかった……
ペネロープですらが、人生の最期を覚悟した。ここが彼女達の死に場所だ。
(……もう一度、会いたかったわね)
ペネロープは苦笑した。すでに何百年も記憶の中から消えていた二人の男を、彼女は唐突に思い出したのだ。
それは若き日の、淡い感情の対象だった男達だった。彼らとの再会が、ペネロープが最期に望んだ事だったのか。
――スターズ!
炎に包まれながらチェイサーがペネロープらへ突き進もうとした時、飛鳥のような人影が現れた。
その人影は、チェイサーへ飛び蹴りを炸裂させた。
三百キロにも達するチェイサーの巨体が、後方へ吹き飛んだ。
「――その女に手ぇ出すな」
人影は言った。十代後半の少年の姿だ。
「シン……」
ペネロープは目を剥いた。かつて恋した少年の幻影が、目の前にある。
「ペネロープに手を出したら、ぶっ殺すぞ!」




