プールサイドの追憶!の巻!2 ~勝機は一瞬~
「はあっ!」
ローレンも素早く間合いを詰めた。
その体が跳躍する。
空中で身を回転させながら、ローレンは飛び後ろ回し蹴りを白銀マンに放った。
――ガアン!
白銀マンは足を止め、左腕に装着された小さな盾で防いだ。
ローレンにとって最大の破壊力を生み出す、飛び後ろ回し蹴り。
この一発で勝負が決まるとは、両者は考えていなかった。
だが、白銀マンの突進を止め、混沌に侵食された心を、僅かでも覚ますには充分だった。
「ツアッー!」
白銀マンは「パーフェクトディフェンダー」でガードを固めながら、ローレンに攻めこんだ。
白銀マンの繰り出した右拳をローレンは避ける。白銀マンの拳は、プールサイドのコンクリートを打ち砕き、クレーターを生じさせていた。
その拳は空を引き裂き、その蹴りは大地を割る――
それが、人知を越えた力を有し、世の経済を司る超人である「商人」なのだ。
二人の闘いに、人間がつけ入る隙など微塵もない。
「このお!」
ローレンは屈んだ姿勢を取っていた白銀マンの首へ、自身の右腕を巻きつけた。
そしてフロントチョークで締め上げる。プールサイドで展開される超人同士の闘いに、プールを訪れていた客は大興奮だ。
「むむむ……?」
フロントチョークで絞められながら、白銀マンの銀の光沢を放つ面は、にやけてきた。
おそらくはローレンの肢体が己に触れているからだ。
ましてや、ローレンの胸が白銀マンの頭部に触れている……
「や、やだあ!」
ローレンは顔は赤らめ、フロントチョークを解いて白銀マンから身を離した。
実に惜しい。体格差を考えると、今のフロントチョークは絶好の勝機であったが。
「フッ……」
白銀マンは口元に笑みを浮かべた。平和の神に等しき微笑ではあるが、それは傲りに等しい感情から生じた笑みであった。
「――どうやら、あんたにはキツいお仕置きが必要ね!」
白銀マンの嘲笑にローレンはキレた。
いや、本当にキレた理由はロボコックとの再会を邪魔された事かもしれない。
次の瞬間には、ローレンは水着のブラを外し、左腕で胸元を隠しながら――
右手で水着のブラを白銀マンへ投げつけている。
「わほっ♥️」
白銀マンはローレンの肢体に目を奪われた。また、白銀マンの視界はローレンの投げつけた水着によって、一瞬だけふさがれた。
その一瞬の間に、ローレンは白銀マンへと疾風のように間合いを詰めている。
「あんたの負けよ、白銀マン!」
ローレンは白銀マンの眼前に踏みこみ、人差し指一本拳で人中を軽く打った(※危険です)。
それで闘いは決着した。
「そ、そんな……」
白銀マンの意識が途切れる。混沌の波動によって自己を見失っていたとしても、完璧商人始祖の白銀マンが、こうもあっさり敗北するとは。
「わからないの? あんたは己の傲りに負けたのよ……」
ローレンの言葉と共に、白銀マンの体がプールサイドに倒れた。その銀の光沢を放つ面は、満たされたようにニヤニヤしていた。
プールサイドに立つローレンは左腕で胸元を隠しながら、厳しさと優しさを秘めた眼差しで白銀マンを見下ろしていた。
美と艶、強さと凛々しさを体現し、憂いを秘めたローレンは、果てしなく美しい。
「やったあ、お嬢様!」
ゾフィーはローレンに駆け寄り、バスタオルで彼女の裸体を隠した。
いつの間にかロボコックは姿を消していた。後で確認すれば、プールでロボコックを雇った覚えはないということだった。
「見てなさいよ、混沌……」
ローレンは鋼の意思を秘めた眼差しを、青空へ向ける。何処かから見ている混沌へ、彼女は宣戦布告していた。




