プールサイドの追憶!の巻! 1
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大宇宙の大いなる意思によるテレパシー会議。
天母様、聖母様、鬼子母神様、牡羊座から魚座までの十二星座の女神様、蛇使い座の女神様、武徳の母神様、戦乙女のルミナス嬢、戦乙女のフェリーチェ嬢、戦乙女のアース嬢……
女神達は個にして同一、命を産み出す女性は魂の奥底で天地宇宙と繋がっており、感情や情報を共有し、共感しあう。
それが男とは違うところだ。男は後から造られた存在だ。
産まれ落ちた時から、この大宇宙に一人…… それが男の悲しい定めだ。
さてテレパシー会議によって、何が話し合われているのか。
“未来を守るために必要なことは?”
“愛よ!”
“お金ね!”
“食べ物……”
“知識と情報でしょうか”
“まずは守ろうとする意思だと思います”
“労働と娯楽ね”
などとテレパシー会議には、数億にも達する超越の存在らの意識が飛び交った。
この宇宙創成の女神と、その眷属らによるテレパシー会議は続く。
“未来での出来事が、過去に影響を与える事例もあります”
過去、現在、未来。
時の流れは一定でありながら、時に時間跳躍によって覆される。
猫型ロボによって過去は改革され、未来は変わる。
未来から来た兵士と現代女性の間に産まれた子は、未来における兵士(つまり父親)の上官だった……
様々なタイムパラドックスが文化作品に現れているが、それらは事実なのだ。この宇宙に有り得る現象なのだ。
知多星ゴヨウの行動は正しい。彼の行動によって過去は変わるかもしれない。時を越えること自体は、超越の力を以てすれば不可能ではないのだから。
そして現在と未来の波動は、過去にも影響を与える…… 過去が変わり、歴史が変わっても、ほとんど全ての人間は、変化を認識してはいない。
最初からあったこと、当たり前のこととして認識されているだけだ。知るのは当人のみだ。
“挑戦精神よ!”
声を上げたのは、元「百八の魔星」の一人、コーエン(の魂)だった。
今ここにある様々な危機を乗り越えるには、悪を為す事とは正反対の、人生に克とうとする心だと。
“せめて死に花を咲かせるのよ…… 何もない、満たされない人生なんか誰が求めるの”
“娯楽アクション!”
リッキー(の魂)も発言した。恋愛ドラマの話題で盛り上がっていた女神達の意識が、一瞬途切れた。
“ジャッ○ー・チェンか……”
女神達の意識と話題が切り替わった。ジ○ッキー・チェンのカンフーアクションに元気を分けてもらった人々は、世界中に大勢いる。
“大事なことは一つじゃないわね”
“さ、どんどん攻めこむよ!”
コーエンとリッキーの魂は、大宇宙の大いなる意思に混じり合う。女性は天地宇宙の一部なのだ。
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プールサイドに現れた怪人によって、人々は騒然となった。
「ツアッー!」
怪人は――
完璧商人始祖の一人、白銀マンはバカップルの男へ超高速低空タックルをしかけた。
柔道における「朽木倒し(※反則です)」で男を後方へ倒し、更に両足を己の脇下で挟みこむ。
そして白銀マンは男をジャイアントスイングで振り回した。
「――ツアッー!!」
白銀マンは男をジャイアントスイングで投げ飛ばした。男は十メートル以上も放り投げられて、大量の飛沫を上げてプールの水面に落ちた。
「ド外道があー!」
白銀マンの銀の光沢を放つ面は、血涙を流していた。
完璧商人始祖として数億年を過ごし、クリスマスの守護者と成ってからは「サンタクロース」として世界中の子ども達を祝福してきた。
だが白銀マンは彼女いない歴も数億年なのだ。
人知を越えた力を有する商人であり、ましてや始まりの完璧商人始祖である白銀マン。
大宇宙の意思に選ばれた存在には、人々の測り知れぬ苦悩があったのだ。
混沌による病魔の影響もあり、遂に白銀マンは自己を見失ってしまった。
「……やれやれ、仕方ないわね」
そんな白銀マンに近づくのは「レディー・ハロウィーン」のローレンだ。
せっかく旧知のロボコックと甘い一時を過ごしていたというのに、それも終わりだ。
プールサイドを優雅に進むローレンは、ビキニ水着の北欧系美少女だ。
白い肌、長い手足、細い体のライン…… これはまるで天使ではないか。
だが「レディー・ハロウィーン」は、ハロウィンの夜に現れる魔物から人々を守ってきた守護者だ。
聖女とも魔女とも、そして闘いの女神とも称された「レディー・ハロウィーン」。
その末裔たるローレンならば、白銀マンの憂鬱を吹き飛ばし、正気に戻す事が可能なのでは?
「ツアッー!!」
白銀マンはローレンの美しさに興奮して、プールサイドを突き進んだ。




