知多星ゴヨウ1 ~混沌(カオス)との戦い~
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「百八の魔星」は混沌と戦い、三分の二以上が戦死した。
生き残った者達は帝都の権力者らによって官位や褒美を授かった後、百八の魔星は解体された。
彼らの超時空要塞「梁山泊」も深海に封じられてしまった。
だが混沌との戦いは終結したわけではなかった。
深海に眠る「梁山泊」の司令室に現れたのは、百八の魔星の筆頭軍師、天機星「知多星」ゴヨウだ。
「ーーまだ終わっちゃいない」
ゴヨウの言葉と共に、司令室に光が満ちた。
計器類が次々と作動し、司令室は瞬く間に光に包まれていく。
梁山泊は虚無の中から蘇ったのだ。
『ゴヨウ』
梁山泊の人工知能ブルックリンが呼びかけた。
『梁山泊はまた空を飛びますか?』
「もちろん! 長旅になるぞ!」
サングラスに黒いコートをまとったゴヨウは、凄絶な笑みを浮かべた。
そして梁山泊は深海から再び起動した。
深き海の底を進む梁山泊。
全長一キロを越える巨大な移動要塞は、海面を目指した。
「さあ、行くぞ! 新たなる戦いへ!」
ゴヨウの言葉と共に梁山泊は浮上し、波をかき分け、海面から遥かなる大空へ、そして宇宙へと飛び立った。
まだ混沌との戦いは終わっていない。
混沌のもたらした病魔によって、世界はーー
人の意識は真っ二つに割れた。
己を捨てる者。
己を握る者。
光と闇、善と悪、秩序と混沌ーー
世界には悪意と暴力が満ちているが、同時に愛と勇気も生まれていっている。
それは昼と夜の調和、そして男女の絆のごとしだ。
完全なる善も、完全なる悪も存在しえないのだ。
その調和をもたらしたのは混沌であり、天なる母によれば、混沌は秩序と同一の存在だという。
矛盾する混沌と秩序、その真意は?
「ーー俺は俺が信じる旗の元に生きるのよ」
ゴヨウは司令室で腕を組み、宇宙の彼方を見つめた。
宇宙空間を突き進む梁山泊は、やがて彼方に混沌の軍勢を発見した。
宇宙を埋め尽くすほどの大軍だが、ゴヨウに怯んだ様子はない。
「虚無から生まれたものなら虚無に還してやろうではないか」
いつの間にかゴヨウの隣には、全身鋼鉄のサイボーグがーー
先の戦いで戦死したが、サイボーグとして復活した天孤星「花和尚」ロッチーがモニターを眺めていた。
ロッチーはいささか破壊僧ではあったが、弱き者達には(作戦や命令に反してでも)決して手を出さなかった。
だからこそ、いずれ悟りを開くと言われていた。
「そうだな、ロッチー」
「ゴヨウ、私もついてるよ」
ゴヨウの隣にはもう一人、ビキニ水着のような衣服に身を包んだ美女も寄り添っていた。
彼女は地然星「混世魔王」ハードゥだ。混沌との戦いではゴヨウをよくサポートしたが戦死し、今は実体を持たぬ幽霊のような存在と化していた。
二人ともいつの間に現れたか。そんな事はゴヨウにはどうでも良かったかもしれない。
超時空要塞「梁山泊」のあちこちでは、かつて敵対し、滅ぼしたはずの「爬虫類帝国」や「百鬼人類」の者達がせわしなく働いている。
「ゴヨウ、怯むな」
爬虫類帝国の帝王、オールの姿も司令室にあった。
「せっかく、この星の命はここまで来たのだ…… 簡単に絶やすわけにはいかぬ」
百鬼人類の総統、グライ大帝の姿も司令室に現れた。実体を持たぬ身だが、かつて敵対したとは思えぬほど穏やかな顔をしていた。
「ーー総攻撃開始!」
ゴヨウの号令一下、梁山泊の全砲門が開き、混沌の軍勢へ攻撃を開始した。
宇宙の彼方に生じた戦いの閃光を、地上の人々はどのように見たか。
人間の意識の及ばぬ世界で、未来を守る戦いは行われているのだ。